第七話
公園の広場を横切ろうとした時、植え込みの奥にひっそりと佇む古い石造りの碑が目に留まった。
それは背の低い、黒ずんだ石碑だった。表面には何か文字のようなものが彫られているようだったが、長年の風雨に晒されたせいか、あるいは夢特有の曖昧さのせいか、どれだけ目を凝らしてもかすれて読むことはできない。
「こんなところに、石碑なんてあったっけ……」
毎日ではないにしろ、何度も通りかかっている公園だ。しかし、現実のこの場所にこんなものがあったかどうか、記憶を探ってもはっきりとしなかった。慰霊碑か何かのようにも見えるが、特別大きなものでもないし、普段は気に留めていなかっただけかもしれない。
僕は特に深く考えることもなく、その石碑から視線を外し、公園の出口へと歩き出そうとした。
その時だった。
視界の端、公園の入り口にある街灯のふもとに、ぽつんと「人影」が立っているのが見えた。
「え……?」
僕は思わず足を止めた。
この世界に入ってから、初めて目にする自分以外の他者だった。誰もいない孤独感に押し潰されそうになっていたせいか、最初は「誰かいた」という安堵感が胸に広がった。
しかし、その安堵は一瞬で消え去り、代わりに冷たい悪寒が背筋を駆け上がった。
何かが、決定的におかしい。
その人影は、微動だにせずこちらをじっと見つめているように見えた。距離にして数十メートルは離れているはずなのに、なぜかすぐ目の前にいるような、奇妙な距離感の狂いを感じる。
さらに、街灯の光を浴びているはずなのに、その人物の顔の輪郭が陽炎のように歪んでいて、表情がまったく読み取れなかった。




