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魔術的鍵師物語  作者: mono
第八

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84/119

拠り所‐いつつめ

 ヴァーゼはすぐさま立ち上がり、息子が指す景色を視界のすべてへと入れこむ。

 駆け寄り、頭を抑える。

 一定の間隔で頭を襲おう痛みを取り除こうと、髪を掻き分け、頭皮にしがみつく。

 その様子へとアスカは近づく。

 一粒、血の塊が見えたことで、アスカはそれをやめさせようと肩を引き寄せ、抑え込もうとする。しかしそれを振り払おうともするヴァーゼに苦戦する。

 はずみで、胸の内から魔法の鍵が零れる。

 ヴァーゼの目に捉えられる。


「お前かぁ!ああああああああああああああ、お前かあああああああ!」


 地を割るようなその叫び。

 アスカに女の爪が襲う。


「落ちついて・・・・ちょっ、おちっ・・・・・・だから!」


 アスカは思わずヴァーゼを押し倒す。

 顔が地面に付き、彼女の髪は、風に揺られ、横たわる花に覆いかぶさる。

 アスカの息が細かく吐かれる。苛立ちか疲労か、はぁはぁと慌ただしく吐かれる。その頬には、過程で振るわれたヴァーゼの平手打ちの跡がある。


「少し・・・・・元気すぎます。」


 アスカの力は緩む。

 既にヴァーゼの気力もなくなっていた。

 涙が落ちない。

 依然地面に伏しているヴァーゼはその涙を大地に直に分け与えている。

 しばらくすると落ち着いていき、また日が変わる。

 そうしてお互いの詳細が話されていった。

 また日が回る。曇天であることには変わりない。


「すいません・・・・・なんか助けていただいて、なんというか今は、何が何だか・・・ああっ、私は、ヴァーゼって言います。あなたたちは?」


 笑っている。


「アキナです。あっちのはアスカとイエレナ、なんてことはないです。存分に助けさせてください。」


 ヴァーゼは目元を潤ませながら、手を動かしていく。しかし涙は落ちることはない。その細い指で受け止められる。

 家の中を戻す工程に半日、壊れた扉を直すことに二日、アキナ達はいまだこの小さな家に滞在していた。

 ヴァーゼが好物の紅茶を飲みながら、外を眺める。


「イエレナ君と仲良くなったみたいでよかったわ。」


「こちらこそです。楽しませてもらってます。」


 アキナが日差しで明るくなる外を眺め、イエレナとヴァーゼの息子ヴァサーを見る。

 長い髪を後ろで縛り、うきうきと、駆けるテンポに合わせて跳ねさせている。

 そこにはアスカも混ざっている。

 元気だなと思いながら用意してもらった紅茶を飲む。


「ありがとうね。」


 そうして、その晩に三人は挨拶をかわしそこを離れようとした。荷物を背負いなおし、万を持して歩き出した時、アキナの服が強く掴まれる。

 驚きとともに後ろを振り返り、


「なに?」


 と視線を移すと、裾を掴んでいる正体はイエレナだった。そしてそのイエレナもまた服の裾を引っ張られている。


「ちょっと、ヴァサー・・・。」


 寂しげな瞳と声色が訴えている。


「い、行かないで。」


 アキナは二つの視線に心が変わる。小さな子供たちのその視線にまいる。


「あの・・・・ヴァーゼさん。もう少しだけ、お邪魔していても・・・・・・だいじょぶですかね?息子さんも・・・・・・そう願ってますし。」


 そんなそんな、と自分の息子を引き離そうとするヴァーゼ。


「私たちは、だいじょぶよね。ねぇアスカ、だいじょぶよね。」


 アキナの言葉。

 それによってアスカ達は、再びその荷物を、小さな小屋に置くのであった。

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