拠り所‐いつつめ
ヴァーゼはすぐさま立ち上がり、息子が指す景色を視界のすべてへと入れこむ。
駆け寄り、頭を抑える。
一定の間隔で頭を襲おう痛みを取り除こうと、髪を掻き分け、頭皮にしがみつく。
その様子へとアスカは近づく。
一粒、血の塊が見えたことで、アスカはそれをやめさせようと肩を引き寄せ、抑え込もうとする。しかしそれを振り払おうともするヴァーゼに苦戦する。
はずみで、胸の内から魔法の鍵が零れる。
ヴァーゼの目に捉えられる。
「お前かぁ!ああああああああああああああ、お前かあああああああ!」
地を割るようなその叫び。
アスカに女の爪が襲う。
「落ちついて・・・・ちょっ、おちっ・・・・・・だから!」
アスカは思わずヴァーゼを押し倒す。
顔が地面に付き、彼女の髪は、風に揺られ、横たわる花に覆いかぶさる。
アスカの息が細かく吐かれる。苛立ちか疲労か、はぁはぁと慌ただしく吐かれる。その頬には、過程で振るわれたヴァーゼの平手打ちの跡がある。
「少し・・・・・元気すぎます。」
アスカの力は緩む。
既にヴァーゼの気力もなくなっていた。
涙が落ちない。
依然地面に伏しているヴァーゼはその涙を大地に直に分け与えている。
しばらくすると落ち着いていき、また日が変わる。
そうしてお互いの詳細が話されていった。
また日が回る。曇天であることには変わりない。
「すいません・・・・・なんか助けていただいて、なんというか今は、何が何だか・・・ああっ、私は、ヴァーゼって言います。あなたたちは?」
笑っている。
「アキナです。あっちのはアスカとイエレナ、なんてことはないです。存分に助けさせてください。」
ヴァーゼは目元を潤ませながら、手を動かしていく。しかし涙は落ちることはない。その細い指で受け止められる。
家の中を戻す工程に半日、壊れた扉を直すことに二日、アキナ達はいまだこの小さな家に滞在していた。
ヴァーゼが好物の紅茶を飲みながら、外を眺める。
「イエレナ君と仲良くなったみたいでよかったわ。」
「こちらこそです。楽しませてもらってます。」
アキナが日差しで明るくなる外を眺め、イエレナとヴァーゼの息子ヴァサーを見る。
長い髪を後ろで縛り、うきうきと、駆けるテンポに合わせて跳ねさせている。
そこにはアスカも混ざっている。
元気だなと思いながら用意してもらった紅茶を飲む。
「ありがとうね。」
そうして、その晩に三人は挨拶をかわしそこを離れようとした。荷物を背負いなおし、万を持して歩き出した時、アキナの服が強く掴まれる。
驚きとともに後ろを振り返り、
「なに?」
と視線を移すと、裾を掴んでいる正体はイエレナだった。そしてそのイエレナもまた服の裾を引っ張られている。
「ちょっと、ヴァサー・・・。」
寂しげな瞳と声色が訴えている。
「い、行かないで。」
アキナは二つの視線に心が変わる。小さな子供たちのその視線にまいる。
「あの・・・・ヴァーゼさん。もう少しだけ、お邪魔していても・・・・・・だいじょぶですかね?息子さんも・・・・・・そう願ってますし。」
そんなそんな、と自分の息子を引き離そうとするヴァーゼ。
「私たちは、だいじょぶよね。ねぇアスカ、だいじょぶよね。」
アキナの言葉。
それによってアスカ達は、再びその荷物を、小さな小屋に置くのであった。




