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魔術的鍵師物語  作者: mono
第三

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24/27

魔法の話‐ななつめ

長くなった

 シャーデの父サンゴの気づかいにより宿を探す羽目にならずになったアスカ達は、夜が更ける前にサンゴの平屋へとお邪魔していった。

 サンゴの家というのは、図体のでかさには似つかわしくない小さいものであった。


「らっしゃい。ゆっくり休んでけよ。風呂もあるから存分に使ってやってくれ。・・・それと、空いている部屋も使っていいからな。」


「はぁ・・・・ありがとうございます。いきなりこんな。」


 どこかうれしそうなサンゴは、忙しなくキッチンへと向かっていった。


「あんたら、荷物置いたら、そこのテーブルにでも座っててくれぃ、飯にするからよ。」


 せっせっと戸棚をあけ、野菜を取り出すだのをするサンゴの肩は、その忙しなさで踊るように浮き沈む。

 アスカとアキナは、目線を合わせ、笑みを溢す。


「サンゴさん。あなたなんだかうれしそう。ふふっごはん楽しみだわ。」


「へへっそうかい。・・・・ってそんなこと言ってないで早く荷物置いて来いっての!」


 リビングにともる照明は、夕日のようなオレンジ色であり、その中を包むように暖かく照らしてくれていた。

 荷物を置いてきた三人は、大人しくテーブルで待つ。

 徐々に香り始めるごちそうの匂いが、アスカ達の口を潤していく。


コトっカチャ・・・


 三人の待つテーブルへと置かれた豪華な食事。その驚愕の見た目に、三人は思わず喉を唸らす。

 食膳を彩る真っ赤なトマト。それにつられるように野菜はみずみずしく光っている。

 フライパンの熱気に焦がされたステーキは、いまなお焼かれたことが恋しいのかジュウジュウと叫んでいる。

 ステーキにかけられた煌めくタレは、肉汁と混じりながら、純白の皿にじんわりと広がっていた。

 その強烈に食欲そそるステーキの熱を溶かしていくかのように、コンポタージュがやさしくゆらりゆらりと皿の中で揺れていた。


「これほんとにあんたがつくったのか。これは・・・・なかなかだぞ。」


「ご、御託はいいから、どうだ・・・食べてみてはくれねぇか?」


 それぞれ一口目を口に運んでいく。

 一口、また一口と食べ進めていく。そこに言葉はない。


「ど、どうだ。お・・・・おいしいか。どうなんだ、いったい。・・・・感想・・・教えてくれ!」


「うまい。うまいよサンゴのおっさん。今までで一番の味だ。」


「私も!こんな美味しいもの初めてよ。」


 その賛辞をきいたサンゴは、言葉を噛みしめるように、身をかがめながら握り拳をつくる。あまりに力んだのかその体を震わしていた。


「うまいか・・・そうか・・・・そうだな。良かった・・・・良かった。おいっ、腹に空きがあるなら俺の分も食べていいぞ。」

 

 緊張の意図が解けたのかサンゴの顔が緩んでいった。

 幸福感は、それぞれの胃袋に収まらず、部屋中に漏れ出ていった。

 会話が弾み、食器の音も聞こえなくなっていく。

 しかしその雰囲気も徐々に大人しくなっていき、夜の静けさに馴染んでいった。


「そろそろ寝るわ。先にお風呂もいただいちゃって・・・・申し訳ないわ。・・・・おやすみなさい。」


「ああ、うん。おやすみ。俺はおっさんの相手しきってから寝るよ。」


 先に風呂を済ませたアキナは一足先に眠りについた。


「おおおい!アスカぁ。まだまだぁよぉ夜っつうのはよぉ、これからだぞぉぅ。」


「おっさん。飲みすぎだぞ・・・。まあアンタの勝手ではあるんだけどさ。」

 

 大きな大きなサンゴの体にアルコールが溜まっていく。溜まって溜まってサンゴは飲まれていく。

 逆らえなかった瞼は、彼の瞳を瞑らせる。


「明日かぁ?治療は・・・・・・シャーデの笑顔が見れるのは・・・・・」


 中年の大男の退屈な話。ミリテアという発展都市に生まれ、不出来な自分でも働ける環境を求めてノーデンまで行きついたのは青髭もできない大の昔のことであった。得体の知れない科学製品を扱う工場で働く彼は、この街で恋をした。初めてにしてあまりに鮮烈なそれは彼をどうにかしてしまうほどのものであった。働いて働いて働く。愛する人を養うため、働いて働いた。彼女が見えなくなってしまうほどに。

 四年が経ち、彼には娘ができた。決して彼と彼女の間で愛が薄まっていたわけではなかった。それでもこの子は、シャーデは、愛したものとの時間の尊さを彼に気づかせるのだった。劣悪な労働環境。彼は二人を連れ、ミリテアに戻っていった。娘と妻の笑顔を見るために、彼は早足で帰る癖がついた。走って走って走った。慣れない仕事の中でも彼はどこまでも彼女らに向かっていたのだ。

 戦争の終わった世界でしばらくの平穏が続いていた。しかしそこには不穏があった。そのためか国は命を出した。

 彼は、再びノーデンへと行きつく。娘と妻を残し、いや残さず負えず彼は1人、思い出の地に戻ってきた。それでも彼は必死に働いた。青の作業服は、日焼けなのかはたして科学性の汚れなのかそれの色は定まらなくなっていった。

 作業服が、完全にその色が迷子になったころ、彼の手元に一通の手紙が届いた。娘が来る。事の詳細は書かれていなかったが、彼は数年ぶりに合う自分の娘への喜びを隠しきれずにいた。同僚にも後輩にもそれはバレたが、皆も喜んでくれていた。

 久しぶりに会う娘。彼は彼女を喜ばせようと、ふとぶととしたその指で、久方ぶりに新鮮な野菜やら大振りな肉やらを調達していった。慣れない作業。彼の料理は散々なものであった。

 しかし娘が来るという日は、近づいてくる。練習しても練習しても上手くはいかない。指は切るし、味も不味い。本当に散々なものであった。

 それでもとうとう娘と会う日が来た。久しぶりに作業服以外のものに袖を通し、顔を洗う。肉離れを起こしてもおかしくないほどの彼の顔は、喜びなんて言葉を超えていた。

 アスカ達がノーデンにくる二か月前、彼は皮肉にも娘に不格好な御馳走を振舞うことはなくなった。

 人形のように動かないシャーデが丁寧に運ばれている。

 そして父の胸の広さを知らぬまま、少女は病室にて眠り続けるのであった。


「なぁアスカぁ・・・・俺の故郷では、親殺しなんて奴が流行っていたらしいぞぉ・・・・とんでもなえ奴がいたもんだよなぁ・・・・・・・・」


「ふーん。そりゃ怖いな。そんな人間に人の心なんて・・・・なあ。」


 酔いが回りきったサンゴは、顔が赤い。


「俺、必死に練習したんだ。シャーデを迎えるためにな。必死に必死に。でも間に合いそうになくってさ、でもこれもいづれ笑い話になるんじゃねーかと思ってよ。・・・・・・・俺は必死に料理したんだぜ。見てぇよぅ。シャーデの笑顔が見てぇよぉぅ・・・・・・」


 湿り気のあるサンゴの声。

 梅雨に時期にはまだ早い。夜もまだまだ冷える。

 

「俺もあんたの笑顔が見たいんだけどなぁ・・・・」


 湯冷めしたアスカの掠れた声と震える身体。サンゴにはそれは届いていないが、アスカは寝室へと眠りについていった。

 それぞれの寝息は、満月の夜の中でゆっくりと吐かれていった。

読んでいただきありがとうございます。

感想お待ちしています。

今後ともよろしくお願いいたします。

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