魔法の話‐むっつめ
依然感情の波が治まらない男をみかねたアキナが、一度病院を出る提案をすると、アスカはそれを了承をし、シャーデとガタイの良い男を残し、外へ出るのであった。
新鮮な空気を吸い込んだアキナが、口を開く。
「ねぇあの子。きっと・・・・ううん、かなりの確信を持っているわ。あれはプーベテートじゃないわよね。というか…」
「・・・・・・まだ分からないよ。」
アスカは答える。そう答えるのである。
「きれいごとね。悲しませるわよ。あの人のこと。」
アスカは答えない。日差しを遮るように手で目を覆う。指の隙間から見え隠れする彼の目は晴天を邪魔する一つの雲を捉えている。
「俺は、・・・・魔法が使えるらしいじゃん。俺が使うのは、医療じゃない。科学じゃない。なんの確実性もないかもしれないけどさ、何かが起こるかもしれない。何かをしてみなきゃ、なにかは起きない…そう思う。」
すらすらと言葉を発するアスカは眼を覆っていた手やら指を微かに動かし、瞳に収まる世界を無理くり晴天にする。
「私だって魔法は信じてるわ。でも奇跡を考えるのは、無責任って思っちゃう。」
歩きながら話す三人。アキナは視線を下げ、自らが通るであろう道を見ている。
「俺は別に軌跡を信じてるわけじゃない。ただなんとなく思い出してるんだ、昔見た絵画を。寝込む誰かに、祈りを続ける女性。まぁそれがどうとかいうことじゃないんだけど。」
ついに会話がここで途切れる。
アスカはポケットから丸め込んだ紙を開き、そこに書かれた二時間後のメモを見る。
ため息をつき、この二時間の時間の潰し方を考えていく。
「宿、探しとくか。」
旅人連盟会の対象外のこの街では、安さをみながら宿を探す必要があった。
娯楽施設の少ないこの街、その代わりなのか宿舎は多くみられる。しかしどれも値段がかなりのものであった。それにどれも長期の宿泊が前提のものであった。
なかなか宿が見つからぬまま、メモに記された時間が経とうとしていた。
「そろそろ戻りましょ。もう二時間たっちゃうわよ。」
声の調子が落ち着いているアキナの声は、アスカには不機嫌と受け取られる。
「うん・・・・・。」
ただでさえ、依頼者のことが頭に残り続けているアスカにとって、今の状況は愉快なものではなかった。
普段沈黙の少ない三人組であったが、珍しくも喋ることなく206号室まで向かっていった。
コンコンコン・・・・
先ほどと同様に、扉を叩き、その扉を開く。
「お待たせしました。」
「さっきは取り乱してすまなかったな。悪いが・・・・シャーデのこと面倒みてはくれねーか。あんたのいう病じゃなくたって、かまわねえ。たとえ成功しなくてもかまわねえ。だから頼む。」
深々とお辞儀をするガタイのいい男。握りこんでいる拳からは見えなくとも彼の表情を感じ取ることができた。
「はい。こちらこそよろしくお願いします。顔上げてください。」
猫にも縋る気持ち・・・神でさえも信じようとする気持ちなのかもしれない。男の眼は、じっとアスカを見るのであった。
ふぅと尖らせた口から息を吐いたアスカが懐から鍵を取り出そうとした時、病室にアナウンスが響く。
(のこり十分ほどで面会終了の時間です。病室におられます患者様の関係者の方々は病室より退室願います。繰り返します。のこり・・・・・・)
「もうそんな時間か。とりあえず出るか。ほらあんたらも。」
言われるがまま、三人は病室を後にし、外へ出る。
太陽はいつの間にか夕日になっている。
「なぁあんたら宿は見つかってるのかい。よかったらうちの何部屋か空いてるから来るかい?」
無言の討議を視線で行うアスカとアキナは、両者の意図が同じであることを確認する。
「お言葉に甘えて、いいですかね。お借りしても。」
豪快なように笑うガタイのいい男は、最後には二カリと笑う。
「おうよ。遠慮すんじゃねーぞ。俺ぁサンゴってんだ。よろしくな。」
夕焼けに染まりつつあったサンゴの顔は、影のあるオレンジで満たされていった。
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