世界の端っこ‐よっつめ
工場に戻るとアキナも落ち着いている様子だった。
イエレナの額にある汗を拭い、心配そうな目で見つめている。
「汗、久しぶりに見たかも。」
「あっ、アスカ、おかえり。どこ・・・・・行ってたの?」
「追ってきてないか見てきたんだよ。」
にこやかに笑うアスカ。
アキナはアスカの握りしめられた紙切れを確認する。しかしそれについて言及はしない。
「イエレナ・・・・・だいじょぶそうよ。心臓も動いてるし、なにより息もある。生きてるわよ。」
「俺、思ったわ。イエレナとアキナが無事なら何でもいいって。いや元からそういう主義だったのかもだけど。」
「・・・・・・いいじゃないなんでも。使い分けましょ。それが大事よきっと。」
「会話・・・・・成り立ってる?」
「うん。」
イエレナは眠っている。そして確かな寝息を立てている。
「ねぇ、アスカ・・・・・・・体冷えるでしょ?濡れたままじゃ・・・・というか結構な雨ね。」
「そうだね。」
アキナは立ちあがり、体にぴったりとついたアスカの服の隙間に手を差し込んでいく。
肌を添い、滑るようにアスカの服を体から離していく。
「イエレナ・・・・寝てるね。」
「・・・・・・そうだね。」
「ねぇ、アスカ・・・・・一緒に寝よっか。」
アスカの口が開く。
舌を動かし、音を立てる。
そして倒れこむ。
アキナが上になり、アスカは尻もちをつく。
また舌がうねる。
しかし、アスカとアキナ、二人して口から酸性の液を吐く。
トラウマからくる嗚咽と耐え抜いてきた壊れかけの器、そこから液が漏れる。
ボダボダ・・・ビチャビチャ・・・・
舌の上に残る、あの粘液の感覚。
体に残る欲を押し付けられた痣。
両者に顔を合わせるなんてことはしない。
互いに目を逸らすほかなかった。
アキナは事前に口を押えていたせいか腕を伝いながらゲロを溢していく。
反対にアスカの嘔吐は突然だった。だから抑える間もなく、口にべったりとくっつきながら、もう口からそれを吐き出しきっていた。
今日という日、二人の衣服は、血なんかでは染まらず、汚らしい吐瀉物で重たくなる。
ぬくいようで冷たい。
なんともないくせいしてちゃんと臭う。
二人は目を背けた世界から、真っ直ぐ相手を見る。
笑う。
二人は笑う。
この世界はなんて美しいのだと二人で泣きながら大声で笑う。
笑う、笑う、笑う。
そして泣く。泣くしかなかった。
「したい。君としたい。」、笑いあいながらの涙声、二人は真っすぐな性欲を愛する相手に投げかけながら、涙を流し続ける。
情熱ともとれる性欲と純粋で温かくて誰よりもプラトニックな二人の腕がお互いの体を引き寄せる。
まるでふたりの鼓動を合わせるかのように。
そして抱き合いながら呼吸は荒れていく。
振り落とされるように涙は落ちていく。
膨らみ、縮む肺、大きく小さく、揺れる体と揺らされる体、まだ枯れない。
涙に星、太陽と大地、草の上の干される衣服、寝息が揺らす髪、
撫でる、撫でる。
朝、三人はまたこの世界で生を全うしていく。
時は止まることを知らない。当然世界は歩み続ける。そして終わらない。消えては新しく、世界は塗りかえられていく。
そんな世界をアスカ達はぼんやりと見続けるしかない。
昨日の雨、世界の熱を冷ましていく。
それでも冷めない熱があるように思えていた。
夏が雨に溶けていった、そんな朝でもあった。




