三人の始まり‐ひとつめ
勇気の一歩を踏み出す時というのは、どういうときなのか。
もしかしたら大事な人間の一言から始まるかもしれないし、もしかしたら大事な人間が周りからいなくなった時、いなくなろうとする時なのやもしれない。しかし案にそれを定めてしまうことは、無粋なのかもしれない。
いや、それぐらい人間というのは、多種多様であるというのは言い切っていい。
小さな集落。大都市からは外れた緑多き村。
背の低い木々が茂り、周囲は、山々が世界を遮っている。
しかしそんなところへ向かう二人の兄弟がいた。道なき道を歩み、片方は頭に刺さらぬようにと木の枝を気にし、もう一方は先頭を歩き、草やら何やらを掻き分け、何とか進めるようにと働いている。
空には、翼の大きなドラゴンが飛んでいるが、奴らというのは、自分らの縄張りが荒らされなければ、そこらのトカゲと大差はない。
二人は、ようやっと村の全体像が見える開けたところに抜け、久方ぶりの若干の人口が垣間見える道に足をつける。
明らかに村のある方向に進み、申し訳程度の木造の門をくぐり抜ける。
一人が村にある何かを探す様に首を振り始める。
辺鄙なこの村にとって突然の来客は、当然注目の的であった。
「誰かしら。」
「さぁ・・・ねぇ、でもなんだか怪しい服装じゃない?あんなぼろい服装で、靴だって泥だらけ。」
「見て。もう一人の方。ほら片方の。腰ぐらいしかない方。目元まで帽子被って、布切れなんか羽織っちゃって、あんなんじゃもはや人なのかもわかりゃしないわよ。」
「どうしましょ。畑の男ども呼んでこようかしら。」
口々に軽さのある言葉を言っているが、女どもの言葉にはどこにも責任感はなかった。
「まあ、でもどうせ、あそこよね。」
「そうね。どうせあそこよね。」
そういっておしゃべりな昼過ぎの奥様方は、各々の家へと帰っていく。
その人かもわからぬらしい小さな方は、指を差しながら兄を見つめる。兄は、丸々とした眼鏡をカチャリと直し、視線をそちらに向ける。
視界に入るのは村一番の大きな家。おそらく村長だのなんだのの家なのだろう。明らかにそれは他のとはできが違かった。
二人の兄弟は、そちらに向かっていき、兄の方が、ドアをノックする。
「御免ください。依頼を受けた鍵師のものなんですけど。」
叩かれた扉は外側に開かれ、その勢いで二人は弾かれそうになる。
扉を開けた頭の禿げた男は、二人の足先から頭のてっぺんまでをゆっくりと品定めするように見ていく。そうすると、苦笑いをし、目を細める。
「あっあー・・・すみません。やはり依頼はなかったことにしてもらって・・・。」
そう言うと、ドアノブに手をかけ、ゆっくりとそれを閉めていく。
しかしそれを制止するために、兄の方が締まり切る前の隙間に手に持っていたバックを差し込む。
「依頼、ほんとに取り消して構わないんですか?本当に?お子さん。治りませんよ。一生。」
迷いは、数十秒の沈黙と静止に現れる。
再び扉が開かれ、二人を家に招き入れる
そして居間の席に座らせ、二階に上がり、自分の子供を連れてくる。
「アキナ。挨拶しなさい。」
つれられた赤髪の少女は、囁くように挨拶をする。
「こんにちは。お兄さん。」
弱弱しい言葉をその身にまとっているのか、体は白く、細く、そして今にもその存在が消え入りそうだった。
「あっどうも。鍵師のアスカです。そしてこちらが弟のイエレナ。えっとよろしくお願いします。」
茶を出したアキナの母は、そのまま席に座り、大事に言葉を紡ぐ。
「あの・・・・詰まるところ、娘は、アキナは治りますかね。」
アスカは見透かすように、にこりと笑い、アキナの目を見る。
「ええ、必ず。」
母親の目が、安堵の色に染められるが、それはすぐに色を塗り替えられる。
「ということで、アキナさんのこと少しばかり借りますね。」
「はっ・・・何を、どういうことですか。」
アスカは立ち上がり、外へ向かっていく。弟のイエレナがアキナと手を繋ぎ、アスカの後をついていく。
「明日には帰れると思います。」
そういうと、アスカはまたもにこりと笑って見せて、依頼者が叫ぶ”よろしくお願いします”の一言も気にせず、村を出ていった。
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