13 我は邪神だ。だから世界が発展したらしい(邪神視点の最終話)
数ヶ月前に投稿した短編 『バッグ魔法s: 俺は邪神らしい。過去も未来も』 の最後の部分を、連載向けに改訂したものです。短編では第5話の流れからここに一気に飛びましたが、間を補充したらどうなるかと思って連載にしたら、蛇足がものすごく増えて、6話も掛かってしまいました。
他の話と同じく、あくまで邪神視点の話であり……後略。
あとは、明日エピローグを投稿して終わりです。
5年ぶりの目覚めだ(補足1)。しかも我の喚んだハッカー達が脱出をサポートしてくれる。素晴らしい。
我々はそのまま旅に出た。魔道具のバグと魔法のバグを広める為に。ゴキブリも旅に尾行いて来た。あたかも、ハッカー達の言動を確認するかのように(補足2)。
こいつは間違いなくホームシックだ(補足3)。ならば、ハッカー達の帰還計画にも便乗しようとするだろう。だから利用することにしてやった(補足4)。そのために、ハッカー達の夢見に立って、ゴキブリに感づかれないよう色々と相談した(補足5)。
日本に渡る前に分かれて、我は陽動の為に、大河の流域で、大々的に洪水の予報を出した(補足6)。ついでに、魔法の時代が終わって、科学の時代ややって来るという予言も出しておいた(補足7)。
そうするうちに、シンクロ魔法の発動を感じた。成功したかどうかは我には分からない。それは今の我には重要ではない。今必要なのは、最悪事態に備えて、身を隠すことだ(補足8)。幸い、十分な信者を得て、当面の魔力には困らない。
暫くして、勇者召喚のニュースが伝わってきたので(補足9)、僻地を1年単位で点々と逃げ回っていたら、数年後に、召喚というのが嘘だったらしいという噂話が聞こえて来た(補足10)。その間にも魔道具の誤発動と魔法のバグが広がって、やがて世界は混沌の時代を迎えた。
年とともに魔法が段々使えなくなり、その結果、世界の生産力は落ちた。この頃になると、
『邪神が魔法をバグらせた』
と信じられるようになったが、同時に貧困が増えた結果、人々は我を「邪神」と罵る余裕すら失った。もっとも、攻撃魔法も使えなくなったので、人どおしの戦争もする余裕がなくなり(補足11)、結果的に神懸かりの権力者も力を失って、代わりに科学とか言うものが生まれたらしい。
科学と技術の発展は意外に早く(補足12)、魔法に頼らなくなって、魔法染色体の劣化が起こり、本当に魔法が使えなくなったようだ(補足13)。
数百年ののち、我の評価は、いつの間にか「邪神」から「科学の神様」という矛盾した存在になってしまった(補足14)。その結果、我もまた魔力を失ってしまった(補足15)。
邪神時代のほうがサバイバルに張り合いがあったような気がして複雑な心境だ。
以下の補足は邪神によるもので、筆者はその内容に関知しません。
(邪神様による補足2-1)
あの時、何が起こったのかは把握している。あの黒い虫に感謝だ。そして、その虫が、ちょろちょろとうろつきながら、ハッカー達を嗅ぎ回っている。そうか、あれがゴキブリという異世界の虫か。
(邪神様による補足2-2)
虫とは思えない意思の強さを感じる。人間以外でこんな感じをするのはヒグマとシロクマ以来だ。なるほど、人間が危険視するには十分だ(筆者注:このゴキブリが特殊個体であることは、さすがの邪神様も見抜けなかったようだ)。
(邪神様による補足2-3)
異邦の地でたったひとりぼっちになったら、たとい敵でも懐かしさのあまりに近くに居ようと思うのは普通の心情だろう。
(邪神様による補足2-4)
だからこそ、我は「夢見に立つ」「乗り移る」という試みを敢えて行なわなかった。ある計略を思いついたからだ(筆者注:第11話の補足20参照)。
(邪神様による補足2-5)
如何にして勇者と聖をシンクロ魔法に巻き込むかの作戦だ。そのためには、我々が最終的に日本に向かう事を、異世界人にだけわかる形で、彼らの耳に伝わるようにしなければならない。例えば「シンクロ魔法を成功させやすいには、異世界地球で同じ位置にあたる日本だ」というフェイク噂や「新しいニホンショクが日本大陸で開発中らしい」というフェイク噂だ。
(邪神様による補足2-6)
ハッカー達の知識のお陰で、大雨や洪水の知識を大幅に更新した。大雨の予報は天気全般の予報より難しく、洪水の予報の大雨の予報より難しいから、ハッカー達の知識はありがたがったし、洪水の予報精度が上がったことで、人々の我への信仰度も上がった。
今までは、現状の2000km以内の気象を把握して、そこから彼らの言う天気図の3次元版に当たるものをイメージし、過去の体験の比較から予報したいた。たとえば現時点での台風情報や寒気侵入情報から、2〜3日後までの台風情報や数時間以内の雷雨情報は出すという経験的なもので、因果という考えとは別物だった。当然、雨の規模も分からなかったし、ましてや局所的な大雨や洪水など不可能だった。それを大幅に改善させた。
その結果、あれほど多くの信者を一気に集めてしまうとは思ってもいなかったが。
(邪神様による補足2-7)
この予言のため、ナウロッパや北西・南西大陸を中心に、我はますます「危険過ぎる」邪神という扱いになった。我は事実を述べただけなのに。魔法がバグる時代では科学に頼らないと、今までと同じ生活レベルが保てないだろうと、警告をしただけなのに。
(邪神様による補足2-8)
最悪とは、14年前の勇者と聖が、ハッカー達と合流せずに、我の封印にやって来ることだ。その場合、召喚が帰還に勝って(筆者注:第11話の補足20参照)、新たな勇者たちがやって来る。急造の勇者達でも、14年前の勇者達と息を合わせれば、我の封印は可能かも知れないのだ。
その場合の逃げ先は、ハッカー達と打ち合わせている。帰還失敗を意味するからだ。だが、ハッカー達は現れなかった。
(邪神様による補足2-9)
ハッカー達と再合流できないばかりか、彼らの噂も聞かないから、もしかして、召喚と帰還の両方が成功したのか、と訝しんだ。もっとも、魔道具の誤発動が広がっている様子から、彼らが独自に動いている可能性もある。我としては封印魔法がバグればそれで十分だ。
(邪神様による補足2-10)
魔法のバグが広がっていたので、勇者たちも魔法獲得に時間がかかっている、というのが当初の「公衆の前に披露しない」理由だったが、やがて内部告発で「権威を守る為の嘘」だったことが暴かれた。ただし、それをフェイクだと言う勢力も強く、嘘か真かはナウロッパでは未だに決着していないが、我は失敗だったと確信している。何故なら、以前の「引退」勇者や「隠居」聖の噂も、ハッカー達の噂も聞かないからだ。
なにより、あのゴキブリの噂を聞かないのが決定的だ。
(邪神様による補足2-11)
始めは高級魔道具を使うような上流・中流階級だけがバグを起こすようになったので、魔道具を買えない下流階級との間で革命じみた闘争があったが、至近距離でバグ魔法を発動するだけで相手も感染することから、下級階層にもバグが広がるようになり、闘争自体も終わった。ようするに、全員が没落したのだ。こうして、過疎村以外は魔法が全滅するようになった。
『古き良き時代』と夢見ている連中は未だに足の引っ張り合いをして、ますます没落しているは、将来を見据えた者達は、科学と技術を身につけて、新しいモノを生み出しつつある。
(邪神様による補足2-12)
科学の素地はいままで召喚してきた者達から得られている。我もハッカー達から短い期間ながらも色々知識を貰ったから、その知識を、この世界の頭の柔軟そうな技術職連中に夢枕で授けている。
(邪神様による補足2-13)
始めは、魔法バグが遺伝するように見えたが、遺伝ではなく、赤ん坊が生まれた時の祝福等の儀式が、どの大陸でも魔力を帯びていた為に、その段階でバグが付与されたのだ、ということを判明した(筆者注:第12番外の補足19参照)。しかし、それが判明した時は、魔法を使える者はほとんど残っておらず、既に発達していた科学によって危険視された。科学の発達した時代になっても異質な存在を排除するのは変わらないらしい。人間も所詮は動物だ。
(邪神様による補足2-14)
科学とは「神の意思」を否定するところから生まれるはずだが、異世界地球の「合衆国」という超大国でも、神を妄信する「科学者」がいるらしから、彼らの中では閉じているのかも知れない。もっとも、我の場合は「科学の守護者」という意味合いが強いようで、験担ぎ(確率の神様)のようなものとして理解している。
(邪神様による補足2-15)
神とは信仰から生まれるものだと、つくづく実感した。人々が邪神と恐れるからこそ我はシンクロ魔法を使えたが、科学の神様と言われるようになって以来、魔法の知識も失われている。




