幕間 陰謀への誘い
「サンゴールが落ちたか……」
兵の報告を聞き、カルダニア王は呟いた。
「王都に近づいた分だけ、報告が早いな」
カルダニア王は皮肉っぽく笑う。
「お悔やみを申し上げます」
カルダニア王の前に跪いたカルダモンがそう言って深く頭を下げた。
「? カールの事か? 構わんよ」
息子の死を知りながら、カルダニア王は然して気に留めた様子もなく答えた。
「しかし、これで王位継承権を持つ者はいなくなってしまいました」
そんな王に、隣で控えていたイムカが発言する。
他の王位継承権は、ジェスタとアーリア。
二人とも、反乱軍として王宮を離れた。
もはや、定められた王位継承者の全てが皆無と言ってもよかった。
「継承者と定めた者がいなくなっただけだ。夫人とした女の子供に限らねば、余の子供はまだまだいる。必要ならその者を探して継承権をくれてやればいい」
カルダニア王には、王妃という立場の者がいない。
並び立つ者がおらず、夫人とは後継者を生ませるための者でしかなかった。
行きずりの相手をさせた女も多くおり、探せば子供だっているかもしれなかった。
「これは差し出口を……。考えがおありでしたら、何も問題はございません」
イムカは恭しく頭を下げて謝罪する。
「陛下、反乱軍はもうこの王都まで迫っております。こうなっては、ここで迎え討つ他に方法はございません」
カルダモンは淡々とそう告げる。
「国境からの援軍は? 万が一にも間に合うという事はあるか?」
「ないでしょう。絶対間に合いますまい」
質問の答えを聞くと、カルダニア王は肘掛けに頬杖をついた。
「陛下」
すると、イムカが口を開く。
「僭越ながら、このイムカに考えがあります」
「申してみよ」
「反乱軍に和睦を申し入れるのです」
イムカのその発言に、周囲がざわめいた。
「つまりそれは、余に反乱軍へ王権を譲れという事か?」
カルダニア王は平静を装ったまま訊ね返す。
しかし、イムカはそれに首を振って否定する。
「いえ、和睦を申し入れるフリをするのです」
「ほう……」
カルダニア王は少しの興味を見せる。
「和睦を餌にジェスタを誘き出し、騙し討ちするのです」
イムカの言葉にカルダニア王は黙り込み、思案する。
「乗ってくると思うか?」
「ジェスタならば、それを望むのではないかと」
「余もそう思う。悪くない考えだな」




