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二十一話 会談

 幕間が短かったのでもう一話。

 三の砦を出る時、反乱軍の部隊は三万に近い規模へ達しようとしていた。


 砦での勧誘に、今までと違って乗る兵士が多かった事。

 そして、反乱軍を追って押しかけた民間からの志願兵の存在もあったからである。


 あとは王都を残すのみ。

 反乱軍にも十分に勝ちの目が見えてきた。

 ここまでくれば、絶望に打ちひしがれていた民達も、希望を抱かずにいられなかったのだろう。


 反乱軍への参入要請とは別に、現体制に不満を持つ民達が密かに村々へと反乱軍の話を伝え、勝ち進む反乱軍の様子に期待を大きく膨らませたのである。

 そして、三の砦から王都までの進行ルートで、彼らは待っていた。


 三の砦が落ちれば、間違いなくそこを反乱軍は通過する。

 それを見越しての事だろう。


 思わぬ戦力の増強に、反乱軍の士気も高まった。

 王都へ攻め入るには、万全の状態と言えた。


 目指すは王都のみである。

 この戦いで、全てが終わる。

 私達がアールネスを出て、ここへ来るまで二ヶ月強が経とうとしていた。


 しかし、そんな時であった。

 王からの使者が反乱軍へ訪れた。


「和睦を申し入れ、その条件を詰めるために話し合いの場を持ちたいとの事です」


 会議用のテント。

 そこにはバーニ、私達傭兵団と王族二人、そしてバルダンがいた。

 バーニは使者からもたらされた密書を読み、その内容を語った。


「和睦、か……」


 ジェスタは眉根に皺を寄せ、それ以降黙り込む。

 そんな彼に対し、バーニは声をかける。


「受けたいのですか?」

「……正直に言えば」

「恐らく罠ですよ」

「かもしれない。だが、そうでないと私は信じたい」


 罠であっても、可能性があるならば話がしたい。

 そういう彼の望みが感じ取れるようだった。


 これで戦いが終わればいいと思っているのか、それともできるなら肉親と争いたくないという思いがあるのか……。

 多分、両方か。


「受けてもいいだろうか?」


 ジェスタはバーニに訊ねる。


「……いいでしょう」


 しばし考え、バーニはそう答えた。

 意外だった。

 彼は、反対すると思っていたから。


「正直、お勧めはしませんが……。ジェスタ様のおっしゃる通り、可能性がないわけではありませんからね」


 被害が出ずに終わるならその方がいいと、彼も考えたのだろう。


 その後、使者に返事の密書を渡し、帰らせた。

 それから数日後にまた使者が訪れ、渡された密書には了承の意が記されていた。


 ジェスタ、バーニ、バルダンの三人は、五百の兵士を率いて王との交渉に向かう事となった。


「では、行ってくる」


 出立の時、馬上のジェスタはアーリアにそう告げた。


「はい。いってらっしゃいませ。留守はお任せください」

「ああ。任せたよ。私も、この戦を終わらせられるように頑張ってくるよ」


 ジェスタは親愛の情を含ませた笑みをアーリアに向ける。

 それに釣られ、アーリアもまた表情を綻ばせる。


「アーリア様」


 そんなアーリアに、バーニが声をかける。

 彼もまた馬に乗っている。


「何だ?」


 訊ねるアーリアに、バーニは険しい口調で答える。


「我々に何かあった時はアーリア様……。あなたが部隊を率いてください」


 アーリアの表情が、一瞬引き攣った。

 それでもどうにか取り繕う。


「そんな……」

「もしもの話です。ですが、覚悟だけはしていてください」


 静かに、しかし有無を言わせぬ言葉。

 それに対し、アーリアは表情を強張らせながら頷いた。


「わかった」


 険しい表情で、アーリアは答えた。

 言われた通り、今彼女は覚悟を決めたのだろう。




 講和においてこちらの提示する条件は、王の退位だ。

 これは譲歩できない条件……というより譲歩してはならない条件だ。

 今現在、戦況は反乱軍に傾いているが、それは今だけである。


 今は、天の時に頼っての優勢だ。

 停戦などの条件で講和を受けた場合、相手に戦力を整えるための時間を与えるだけである。

 そうなれば、もはや反乱軍に勝ち目はなく、講和の条件を守らせるだけの優位さは失われるのである。


 だから、その条件を飲ませられない時は無理に講和を進めるより、決裂を選んで戦いを続けるべきなのだ。


 指揮を執れる人間が三人とも会談に向かい、反乱軍はアーリア指揮の下で行軍を続けていた。


 時間稼ぎであった場合を考慮し、行軍の足を留めなかったのである。

 会談が終わった後、ジェスタ達とは王都に近い場所で合流する運びとなっていた。


 交渉が決裂した場合、合流後速やかに王都へ攻め入る事となる。


 野営時、テントの中。

 アーリアは外に出て、そこにいなかった。


「話し合い、上手くいってほしいね」


 眠るすずめちゃんと雪風。

 その頭を愛おしそうに撫でるアードラーに、私は声をかけた。


「そうね。これで終わってくれれば、すぐに帰れるもの。ヤタに寂しい思いもさせずに済むわ」

「そうだね」

「嬉しくないの?」


 私の中にあった不安が、声に滲み出ていたらしい。

 そう、私は不安を覚えている。

 本当にこのままうまく行くだろうか? と……。


 楽観的な考えを持つには、私の内に渦巻く懸念は大きすぎた。


「大丈夫よ、クロエ。必ず、私があなたをアールネスへ連れて帰るから」


 アードラーは安心させるように、優しい口調で言う。


「うん。ありがとう」




 それから数日後。

 反乱軍は、ジェスタ達との合流地点に辿り着いた。

 ここで、会談を終えた彼らを待つ予定だ。


 荒野の中にぽつんと立つ、巨石が目印の場所である。


「あれが王都です」


 アーリアの指した方向を見ると、地平線の近くに小さくそれは目視できた。

 点ではなく、円形に広がって見えるのはそれだけ王都が広いからだろう。


「ついに、ここまで来ましたか」

「はい……」


 答えるアーリアの表情は強張っている。

 私は彼女の顔から、王都へと視線を移した。


 あそこには戦わなければならない相手がいて、だけれどそれは彼女の父親だ。

 心中は穏やかじゃないだろう。


「和解が成れば、良いのですが……」


 アーリアはぽつりと呟く。

 小さく短い言葉ではあったが、それは心からの言葉だったに違いない。


 かすかに俯かれる頭。


「失礼します」


 一言断り、私はその頭に手をやった。

 くしゃくしゃと撫でる。


「な、何をするのです?」


 彼女の言葉に、大丈夫だと断言する事はできない。

 会談が上手くいくかもしれないし、破談する事だって十分にありえる。


 それでもせめて慰められるとすれば、これくらいの事だけだろう。


「や、やめてください。……恥ずかしい」


 アーリアはそう言いつつも、私の手を払いのけようとしなかった。


 その時である。


「ジェスタ様が戻られました!」


 兵士が私達の所へ来て、そう告げた。

 それを聞き、私とアーリアは顔を見合わせる。


「本当か?」

「はい! 東方より、部隊がこちらへ向かってきています。あれは、ジェスタ様達の部隊です」

「そうか……」


 兵士から話を聞くと、アーリアは嬉しさを噛み締めるようにかすかな笑みを作る。


「出迎えましょう」

「はい」


 私が提案すると、アーリアは強く頷いた。


 そして、部隊の見える場所まで行く。

 東を見ると、確かにこちらへ向かう部隊があった。


 そわそわとして、部隊の到着を待つアーリア。

 早く兄に会いたいのだろう。


 しかし、私はある事に気付いた。

 ここへと近づいてくる兵士達。

 彼らのいでたちが、出て行った時とは違う。


 土や泥で汚れ、ケガをしている人間が多い。

 まるで、戦いの後のようである。


 その様子は、会談の失敗を予感させるに十分な不穏さを帯びていた。

 アーリアもそれに気付いたのだろう。

 表情を強張らせる。


 そして部隊が到着すると、バーニとバルダンがアーリアの前へ出た。

 跪き、こうべを垂れる。


「ただいま、戻りました」

「兄上は、どこにおられる?」

「申し訳ありません」

「何が言いたい? 何故、謝る? 何故なんだ、軍師殿!」


 予感があったのかもしれない。

 不安があり、それに耐え切れなくなったのだろう。

 答えを求めたアーリアは、怒鳴るように問う。

 そんな彼女に、バーニは目を伏せたまま告げた。


「王軍の騙し討ちに合い、ジェスタ様は身罷みまかられました……」


 搾り出すように語られた言葉に、アーリアはその場で膝を折った。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] うっそだろぉ? 流石に軍師バーニ無能過ぎないか? これはなんか色々フラグ立ってるわ。
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