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クロエ武芸帖 ~豪傑SE外伝~  作者: 8D
倭の国編
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四十五話 はぐれ陰陽師

 私はぐったりとした雪風を見つけると、その体に白色を流した。

 魔力があるので、治るまでには時間がかかった。


 同時に体の具合を探ってみると、内臓が少し傷ついていた。

 肋骨も折れている。


 その様子から見るに、恐らく腹を蹴り上げられたんだろう。


 少なくとも相手は人間だ。

 野犬同士の戦いでこんな怪我はしないだろう。


 傷を治すと雪風はすぐに立ち上がり、自分の鼻をぺろりと舐めた。


 いつもならすぐさま私へ寄り付いてくる所だが、妙に大人しい。

 躊躇っているように見える。


 人間に痛い思いをさせられて、この子も人間が恐くなってしまったのかもしれない。

 ショックを受けているのかもしれない。


「よしよし」


 雪風が恐がらないように、ゆっくり優しく撫でてあげる。


 大丈夫だよ。

 もう怖い人はいないからね。


 しばらく微動だにしなかった雪風だったが、次第にいつものように私の手を舐め始めた。


「すずめちゃんは?」

「わふ」


 聞いてもわかんないけど。


 ただ、雪風が人に傷付けられていたという事は、その人間に連れ去られた可能性が高い。


 何のために?

 人さらいという奴だろうか。


 私は雪風を抱き上げ、足の裏からソナーを発動する。

 が、その範囲から出てしまったのだろう。

 それらしい人物は周囲にいない。


 すぐにソナーを使うべきだったか。


 しまったな。

 雪風の怪我で動転した。


 焦りが徐々に心を染め始める。

 このまま焦りに染まってしまえば、取り乱してしまいそうだ。

 そうなったら、まともな考えも浮かばなくなる。

 まだ、少し余裕のある内にすずめちゃんを探る手立てを考えないと……。


「おい。探したぞ」


 声をかけられる。

 振り返ると、椿がこちらへ歩いてきていた。


 私は驚かなかった。

 ソナーで椿が近くにいた事はわかっていたから。


 彼女が私を見つけられたのも、ソナーの魔力に気付いたからだろう。


「椿……どうしよう……」

「何があった……?」


 椿は眉根を寄せて私を見た。


 すずめちゃんがさらわれたかもしれない事を説明する。


「お前がついていてか?」


 まったくだ……。


「うん……」


 私は俯いた。

 椿は一つ息を吐く。


「なるほどな……。一つ言っておく事がある。この宿場町では、子供がかどわかされる事件が起こっている」

「そうなの?」


 顔を上げて訊ねる。


「ああ。さっき仲間から聞いた。番所では手に負えず、その事件の解決を依頼されたそうだ。本来なら我らを動かすには金子が必要だ。だが、奇しくも、今のお前と我らの目的は同じだ。協力するという形で、お前の目的も果たせるだろう」

「それじゃあ、探すのを手伝ってくれるって事?」

「お前が手伝うんだ。そういう事にしておけ」

「ありがとう……」


 椿は顔をそらす。


「仲間に声をかけてくる。お前はお前で動け。見つけたら声をかける」

「わかった」


 私は忍と協力して、すずめちゃんを探す事になった。


 そして、町を手分けして探す事三十分。

 忍の一人が怪しい場所を見つけた。


 そこは元商家の屋敷で、今は人も住まぬ廃墟だという事だった。

 そこに、人の出入りする形跡があるとの事だった。


 私は報せを聞いて急行した時、日は沈みかけていた。

 隠れて庭をうかがうと、丁度三人の男が土蔵へ向かっている所が見えた。


「子供が捕らえられるなら、あそこかもしれないな」

「なら、私が」

「わかった。恐らく、屋敷にもかどわかしの連中がいるだろう。そちらは任せるぞ」


 椿は忍の一人に声をかける。

 その忍は力強く頷いた。


「二人、私達についてこい」


 私と椿、そして二人の忍で土蔵へ向かい、他の忍達は屋敷の方へ向かう。


 土蔵の中をソナーで探る。

 すると、数名の子供達が捕らえられている事を確認した。

 その中には、すずめちゃんの姿もあった。


 そして、すずめちゃんは一人の男に追い詰められている所だった。


 私は土蔵の中へ踏み込み、下手人を倒してすずめちゃんを救出する事ができたのである。


 下手人三人を蹴散らし……。


 すずめちゃんの無事を確認する。

 彼女は手に小刀を持っていた。


「良かった……」


 知らず、声が漏れる。


 すずめちゃんを抱き締めた。


 彼女が無事であった事が嬉しい。

 それに、彼女に何かあったら私は夏木さんに顔向けする事もできない。


 本当に良かった。


 しかし……。


 私は土蔵の中を見渡す。


 数人の子供達の姿がある。

 皆、私を見ていた。


「うまくいったようだな」


 土蔵へ入る際、壊した壁の穴から椿が入ってくる。


「このまま私は屋敷の方へ踏み込む。恐らく、下手人の仲間がそこにいるだろう」

「わかった。私も行った方がいい?」

「ああ。頼む」


 私は頷くと、すずめちゃんを見る。


「すぐに、戻ってくるから。雪風はいないけど、私が離れても大丈夫?」


 雪風は椿のとってくれていた宿に置いてきた。


「うん」


 すずめちゃんは頷いた。


「じゃあ、少し待ってて。行こう、椿」

「ああ」


 椿の話によれば、かどわかしの犯人は子供達をどこかへ売っているのではないかという話だった。

 つまり、人身売買だ。


 きっと、今までにさらわれた子供達はどこかへ売られていったのだろう。

 そんな事をしてきた連中には、落とし前をつけさせなければ……。


 義憤というのだろうか?

 すずめちゃんをさらわれた物とは別に、親元を離された子供の気持ちと子供を奪われた親の気持ちを考えると、強い怒りが込み上げてくる。


 子供達の保護を二人の忍に任せると、私は椿と共に屋敷へ踏み込んだ。


 屋敷にはすでに、忍達が入り込んでいた。

 中は騒がしく、多くの下手人と忍達が戦っている。


 しかし、やはりチンピラ同然の連中と忍では相手にならないらしい。

 下手人達は捕縛され、または斬り殺され、次第に鎮圧されていく。


 もしかして、私が来た意味はなかったんだろうか?

 時折向かい来る下手人を殴り飛ばしつつ、そんな事を思い始める。


「グワァー」


 すると悲鳴が上がり、閉じられた襖を破って一人の忍が私の足元へ転がった。


 倒れた忍を見ると、胸元の衣服が焼け、胸には火傷ができていた。


 傷口に触れ、白色で忍を治療する。

 そうして、忍が飛ばされてきた方を見やる。


 そこには、ボロボロの黒い着物を着た一人の男がいた。

 男は痩せ型で、顎には髭を蓄えていた。


「ほう、女もいるのか。まぁ、忍如きなど男でも女でも他愛ない事に変わりなし」


 男が言う。


「誰? あなた」

「そうだな。簡単に言えば、お前らが捕らえている有象無象共の首魁だ」


 なら、こいつが……。


「しかしお前……俺と同じ陰陽師か?」


 白色をかける様子を見て、気付いたのだろう。

 その口振りからすると、この男は陰陽師らしい。


「貴様、はぐれ陰陽師か……」


 はぐれ陰陽師。

 前に、椿から聞いた事がある。


 陰陽師は、基本的にそれを束ねる組織に属している。

 組織は、元が異能者の自衛を目的にできた纏まりであるため、あまり世俗と関わる事を良しとしない。


 だから、例外として権力者の頼みに応じる事はあっても、それは組織を介しての事であり、個人が勝手に依頼を受ける事はできないそうだ。


 が、そういった秩序に不満を懐いて自主的に、もしくは決まりに背いての追放、などを経て組織を抜けた陰陽師をはぐれ陰陽師というそうだ。


 この男が、そうなのだろう。


 はぐれ陰陽師……。

 倒したら経験値が高いだろうか?


 それとも純情派かなぁ。


「強そうには見えないけどね……」


 聞こえよがしに、ぼそりと呟く。


「何だと?」


 はぐれ陰陽師が私を睨む。


「見た目もそうなんだけど。受けた傷を見る限り、たいした事ないかなって」


 治療中の忍を見る。

 あまり深度のある火傷ではなかったので、もうすぐ完治しそうだ。


 これがムルシエラ先輩の放った物なら、こうはいかない。

 深い火傷を負い、白色では治癒できないだろう。


「ならばまず、貴様を黒焦げにしてやろう。侮った事、後悔するがいい!」


 はぐれ陰陽師が手をかざす。

 すると、手の平の前に火球が生み出された。

 火球が、私へ向けて発射される。


 私は弾道を読んでステップしてかわす。


「無駄だ! その火球は、命中するまで貴様を追いかける!」


 追尾弾か……。

 気付いてたけど。


 はぐれ陰陽師の言葉とは裏腹に、火球は私が今まで立っていた空間を通り過ぎる。


「な、何だと?」


 戸惑うはぐれ陰陽師。


 私はそんな彼へゆっくりと近付いていく。


「くそっ!」


 連続で火球が放たれる。


 私はその火球を連続で避けた。

 そのどれもが、私を追尾せずに避ける前に立っていた場所を通過していく。


「どういう事だ?」


 魔法における追尾弾というのは、主に相手の魔力を追って追尾する仕組みとなっている。

 けれど、空間にその追尾の元となる魔力を固着する事で、追尾の対象は二つになるわけだ。


 そして、追尾弾は放たれた瞬間に追尾の対象とした方を追尾する。

 つまり、空間に残っている方である。


 結果、追尾弾は空間に固着された方を追うわけである。

 つまり、誘導切りである。


 追尾弾からすれば、質量を持った残像がそこに残っているわけだ。


 なんとー!


「何故だ! 何故当たらない! 貴様は、陰陽師のはずなのに……!」


 三(/o^) (^o^)三 三(^o^) (^o^)/


 と火球を回避しながら、焦りに叫ぶはぐれ陰陽師に接近する。


「あんたは自分が思っているほど、たいした奴じゃないって事だよ」


 そう言って、私ははぐれ陰陽師の頭を片手で掴みあげる。

 そのまま、畳へ頭を叩きつけた。


 畳が真っ二つに割れ、はぐれ陰陽師は気を失った。


 残った連中も忍の手によって片付けられ、事件は収束に向かった。

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