第78話:人体のバグ(スリーピング・ビューティー) ―50歳、膝枕と迷宮の崩壊―
第78話:人体のバグ(スリーピング・ビューティー) ―50歳、膝枕と迷宮の崩壊―
1. 動作不安定な「相棒」
次なる現場へ向かう山道、ベアの足取りが突然おぼつかなくなった。
「マ……スター……。視界が暗転し、計算リソースが『空腹』というエラーに占有されています。さらに、まぶたのシャッターが自重で閉鎖を開始しました……。これは、致命的なシステム障害でしょうか……?」
盆山は、フラフラと倒れ込むベアを慌てて支えた。
「……バカ言え。それはバグじゃねえ、単なる『睡魔』と『腹減り』だ。……アイリスの野郎、生体機能をリアルに作りすぎなんだよ」
二人が辿り着いたのは、古びた炭鉱町の下に広がる「古代の排水迷宮」だった。地上の都市が拡大した重みに耐えきれず、地下の回廊が次々と崩落を始めていた。
2. 施工:超狭小空間の「シールドジャッキ工法」
町の崩壊を止めるには、崩れかかった地下回廊を内側から支え直す必要があった。だが、空間はあまりに狭く、重機は入らない。
「……ベア。……寝てる場合じゃねえぞ。……お前の『解析能力』で、この崩落の連鎖を止める『キーストーン(要石)』を特定してくれ」
盆山は、ベアにレーション(高エネルギー食)を無理やり食べさせ、即席の休憩を取らせた。
ベアは盆山の膝の上で数分間だけ瞳を閉じ(盆山は気まずさで顔を真っ赤にしていた)、目を見開くと同時に立ち上がった。
「……最適解を算出しました。……マスター、右斜め45度、3メートル先の天井裏です。そこを『重力ジャッキ』で3センチ押し上げれば、全体の荷重バランスが回復します」
盆山は泥水に這いつくばり、数トンの土圧がかかった岩盤の隙間にジャッキを滑り込ませた。
「……せーのっ! ……よっしゃ、噛んだ! ……ベア、圧力を逃がすための『バイパス配管』を魔法で形成しろ!」
3. 50歳の職人談義:『休息』も工程のうち
作業を終え、地下から這い出した二人は、夜空の星を見上げて一息ついた。
「……マスター。……『睡眠』というプロセスは非効率だと思っていましたが、再起動(寝起き)した瞬間の思考のクリアさは、論理回路のデフラグ以上ですね」
「……だろ? ……人間ってのはな、無理をしても120%の力は出ねえ。……だが、ちゃんと休んでメシを食えば、100%の力を『ずっと』出し続けられる。……工期(締め切り)に追われて休みを削る奴は、二流だ。……一流は、休む時間まで計算に入れて『完工』させるんだよ」
盆山は、再び眠たそうに自分の肩に頭を預けてくる銀髪の相棒を、少しだけ誇らしく思いながら、静かな夜を過ごした。
78話~完~




