第79話:空の異変(月の裏側の陰影) ―50歳、辺境で「宇宙」と交信する―
第79話:空の異変(月の裏側の陰影) ―50歳、辺境で「宇宙」と交信する―
1. アイリスからの緊急無線
旅も数ヶ月が過ぎ、盆山が辺境の農村で「古井戸の掘り直し」を手伝っていた時のことだ。バックパックの奥で、アイリスから預かった通信機が激しく明滅した。
「……盆山! 聞こえる!? 月面管理システム(第60話)に、深刻な『影』が接触してる! ……月の裏側、私たちが一度も足を踏み入れていない『廃棄エリア』で、数万年前の『自動解体ドローン』が勝手に再起動したわ!」
アイリスの声には、かつてない焦燥が混じっていた。
「……ドローンは、月そのものを『資源』として解体し、外宇宙へ運び出そうとしている……。このままじゃ、月の質量が減って地軸(第67話)が再び狂い、地上に大津波が起きる!」
2. 施工:廃材利用の「超長距離・魔導アンテナ」
盆山は直ちに井戸掘りを中断した。しかし、ここから月へ行く手段はない。
「……ルナ(第65話)が居ても止められねえのか? ……チッ、現場が遠すぎんだよ。……ベア、この村にある『鉄クズ』と『魔石の欠片』を全部集めろ。……月面のルナへ、強制上書き命令を送るための『超高出力・指向性アンテナ』をここで組む!」
盆山は村の広場に、錆びた農具や古い鍋を積み上げ、それを「魔法の導線」で繋ぎ合わせた。
「……アイリス! 月の裏側のドローンの『製造番号』と『通信プロトコル』を解析しろ! ……ベア、お前の演算能力をアンテナの『増幅器』として接続する。……直接行く暇がねえなら、電波(魔法パルス)で『ストップ』をかけるしかねえ」
盆山は泥まみれの服のまま、アンテナの先端を空へ向けた。
「……いいか、ルナ。……今から送るデータは、俺が直接書き込んだ『緊急作業停止命令書』だ。……月の住民(管理人)として、無許可の解体工事を即刻差し止めろ!」
3. 50歳の職人談義:『工事』は常に終わらない
空に向かって放たれた青白い光の柱。数分後、アイリスから「ドローンの停止を確認した」との通信が入った。村人たちは、何が起きたか分からず、ただ呆然と盆山を見つめていた。
「……ふぅ。……これだから、『一丁前』にはなかなかなれねえな」
盆山は額の汗を拭い、再び井戸を掘るためのスコップを握った。
「……監督。……世界を救う作業の後に、また井戸を掘るのですか?」
ベアが不思議そうに尋ねる。
「……当たり前だ。……月の裏側の危機も、この村の『水が出ない』危機も、俺にとっては同じ『現場のトラブル』だ。……宇宙の平和を守っても、この村の婆さんが明日飲む水がなきゃ、俺たちの仕事は完工じゃねえんだよ」
50歳の現場監督、盆山茂。
彼の「管理区域」は、今や足元の泥から宇宙の果てまで広がっていた。しかし、彼が最も大切にするのは、今日も変わらず、目の前の一尺の土を掘ることだった。
第79話、完。




