表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/75

空っぽの世界 前編

『卯月の英冠を手にしたのは、またしても雷ちゃん&天草ッ!!

 今年の大神楽は、アリスと雷ちゃんが支配してしまうのか――!?』


テレビのなかで活躍する流水寺と天草。

シンは連日の話題をただ聞き流す事しか出来ない。


気づけば四月半ば。一日一日が短く、

今年の三分の一が、何も変えられぬまま過ぎていた。


やれる修行は全部やっている。

福ちゃん、仁さん、マサさん、みっちゃん、カズさん、資さん。あと【風】を使いこなせるように、

教えてもらった事全部。


でもそれだけじゃない彼ら(流水寺、天草)に追いつける気がしない。


もっと特別な……俺達ならではの修行方法。


「マスター。唐揚げが焦げてます。」


「おんぎゃああぁぁぁあッ!!!」


急いで油から取り出す。


「見事に真っ黒ですね。まるで…石のようです。」


 ……真っ黒……石……!!


「そうだ!!」


ECOは突然の大声にビクリとした


「いきなり大声をあげないで下さい。クレームの対象です。」


「すまん!でもいい修行方法が思いついたんだッ

 !!」


「???」


不思議そうにECOはシンを眺めた。


「ま、夜が来ればわかるさ!」




 −−−−−−−−−


 夜。



眠りに落ちた瞬間、足元の感覚が変わった。

柔らかな草の感触。

どこまでも広がる灰色の空の下にシンとECOは立っていた。


「やっぱり、この世界は残ったままだったな」


「……ここは…夢の世界……ですか?」


「そう!ネムロとか言う悪魔が作った世界。あるかな~って思ったけど、あったね!」


「確かに、ここならどれだけ大声出してもクレームは来ませんね。どうします?ここで宴会でもしますか?」


 ECOはシンの扱いに馴れたように提案するが、


「それは勘弁、いや、今から組手をしよう!」


「相手はいませんが____」


ニヤけるシンを見て察する。


「……まさかマスターとですか?

 流石に人間サイズが相手となると……神楽とは訳が違います。」 


「忘れたか?ここは夢の世界だ。想像するんだよ、人間サイズになった自分の姿をな。」


「想像ですか?」


「そう、イメージするんだ!俺と近い身長になった自分をな!」


 ECOは目を閉じ、考える。マスターのサイズ……1784ミリ。


「……おぉぉ?!」


目を開ける。シンと同じ高さの目線。


身体に違和感はないが、変な感覚。重量の影響?


手を開閉動作を繰り返し、ただ眺める。


銀色の髪が静かに揺れる。


「……こんな感じでしょうか?おおよそ1600ミリといったところでしょうか?」


「名付けて『5倍ECO』だな!よし、さっそく____」


「特典ポイントみたいに言わないで下さい。」


シンは拳を握る。


ECOの蒼い瞳が、まっすぐシンを見つめる。


「では、50%の出力で参ります。」


「いや。」


シンは一歩踏み出した。


「――全力で勝負だ。」


焦るECO


「しかし____」


「あのな、初めて【久遠の刻】に出た日の事を覚えてるか?

あの時な、思ったんだ。ずっと俺のワガママでECOは痛みを受けてきたんだなって。

だからさ、今日は俺も受ける。」


少し笑う。


「痛み分けだ。それが家族だろ。」


沈黙。


「わかりました。では________100%で参ります。」


静かに風だけが流れ二人の間に葉が落ちた____次の瞬間。


地面が爆ぜ、ECOが視界から消える。


気付いた時にはシンの背後。


振り向いた瞬間、掌底が迫る。


――ガツンッ!!


甲高い金属音が響く。


だが。


ECOの攻撃は、鮮やかな光に弾かれた。


「なっ……!?」


そこに立っていたのは、銀色のヒーロー。

マントが翻る。

胸元には、ソレを象徴する紋章。

シンの声が、ヘルメット越しに響く。


「へへへ、忘れたか?」


拳を握り、


「ここは夢の世界だ。」


一歩踏み出し、ポーズをとる。


「そして――俺が世界だ。」


ECOの瞳が揺れる。


「理解できません。それとマント……戦いには合理的ではありませんね。」


ヒーローが笑う。


「ハハハッ!!合理的じゃねぇのが(ヒーローだろ!」


踏み込む。ヒーローの拳が振り抜かれる。

ECOは最適解を導き出す。


右後へ距離をとる。


――だが。拳が伸びる。

ありえない距離。


「えッ?」


ゴッ!!ヒタイに直撃。


「……射程距離…延長?!」


シンが笑う。


「必殺技だからな!」


シンの背後に炎のエフェクトと爆発。


「必殺を名乗るのなら、【必】ず【殺】してください。」


ECOは空中で体勢を整える。


「射程距離、移動速度……全て変則の可能性あり……では、こちらも適応します。」


 高速移動。フェイントをかけ、今度こそ完璧な角度。死角からの回し蹴り。


「視覚外からの攻撃――理論上回避不可能。」


 ――だが。


シンのスーツが青く変化し、空へと浮き回避。


「……なッ?!」


上空から拳が落ちる。


「スカイパーンチ!!」


「理解……不能。」


ECOは紙一重でかわす。


「ふぅ~ん~~意外と難しいなぁ …よし。」


ヒーローの姿が揺らぎ、今度は赤くなる。


クイックユニットとは違う、明らかな法則無視な攻撃に翻弄されるECO。


「身体能力、予測不能。

物理法則無視。

戦闘パターン不明確。」


「なぁECO、もしかして“正解”を探してるのか?」


「はい。最適化を思考しています。」


「でもなココに“正解”なんかないんだ。」


シンが指を鳴らす。


瞬間。


灰色の空が青へ変わり、

地面は雪原へと書き換わる。


「……環境変化、予測不能。」


シンが叫ぶ。構えるECO。

拳と拳がぶつかる衝撃波。舞う雪。


ECOは何度も後退する。

物理演算が追いつかない。


「ECOはまだ自由を知らないだろ。」


その瞬間。

ECOの内部で、微細なノイズが走る。


――自由。《名詞》

他からの束縛を受けず、

自分の思うままにふるまえること。


――定義不明。

――再検索。


シンが構える。


「考えるな!今度は、お前が想像しろ。」


「何をですか?」


「なりたい自分にだ!」


 空が静まる。風が止まる。


 ECOは、初めて目を閉じた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ