弥生の英冠 ― 変わる時代。変わらぬ者達。
弥生の英冠。
流水寺とアリスが再び栄冠を手にした。
その翌日。突如として、緊急会見の生中継が始まった。
壇上に現れたのは____4連覇中の女王、大和。
フラッシュが容赦なく瞬き、無数の視線が彼女を射抜く。
だが大和は、静かに一礼した。
その所作は、王として最後まで崩れない。
そして、口を開いた。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございます。
結論から申し上げます。
私は、本日をもって神楽を引退いたします。」
一瞬の沈黙。
次の瞬間、会場が爆発した。
「五連覇はどうされるのですか!?」
「スポンサー契約終了が理由ですか!?」
「睦月での敗北が影響しているのでは!?」
矢継ぎ早に飛ぶ声。
だが、大和は微動だにしない。
「敗北は理由ではありません。流水寺選手、アリス選手は強い。それだけのことです。」
「ではスポンサーの打ち切りが原因と?」
「企業は常に“未来”を選びます。私は“完成形”として戦ってきました。
しかし企業が求めるのは“進化形”。それは当然の判断です。」
ざわめきが広がる。
記者の一人が、踏み込んだ。
「既に新型御子との試験戦闘が行われたという情報がありますが――」
大和は一拍置いた。
わずかに視線を落とし、そして正面を見る。
「事実です。」
空気が凍りつく。
「結果は?」
「……はい。完敗でした。」
どよめきが爆ぜる。
「完敗、とは?」
「戦術も、出力も、演算速度も。すべてにおいて上回られました。
私達は既に“過去のもの”になっていたということです。」
王者が、自ら過去を宣言する。
会場の空気が変わる。記者が声を荒げた。
「それでも戦い続ける選択肢はあったのでは!?」
「いいえ。」
即答だった。
「私は“御子の可能性”を証明するために戦ってきました。
ですが今、世界は別の段階へ進もうとしています。
もはや大神楽は――“競技”ではないようです。」
ざわめき。
「競技ではない、とは?」
その瞬間だった。
壇上脇から、黒服の男たちが現れる。
一人が大和の耳元で何かを囁く。
もう一人がマイクに近づき、制止のジェスチャーを送る。
言葉を、止める。会場がざわつく。
「大和さん!最後に一言いただけますか?!」
大和は、ほんの一瞬だけ、柔らかく笑った。
「私の役目は終わりました。次は、あの子たちの時代です。」
「あの子たち、とは?」
問いは宙に浮いたまま。
大和は答えない。
黒服に促されるまま、壇上の奥へと姿を消した。
フラッシュが乱れ撃ちのように瞬き続ける。
王は、静かに去った。
画面が切り替わる。
スタジオのキャスターが戸惑いながら言葉を探している。
『新型御子とは一体何なのか――』
『“競技ではない”とは、どういう意味なのか――』
答えはない。
ただ、空気だけが重く沈む。
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テレビの光が、居酒屋「深夜の世界」を照らしていた。
シンは黙って画面を見つめる。常連たちは口々に言う。
「新型かぁ…昔はこの言葉だけでワクワクしてたなぁ…」
「あぁ、次はどんな子が活躍するかって、昔は楽しかったなぁ」
「今じゃECOちゃんがまた世界に置いていかれたって、感じがして、素直に喜べんのう…」
「シンさ~ん!ま、元気出せや!!飲もう飲もう!!」
騒がしい声の中で、ただ一人。
ECOの蒼い瞳だけが、わずかに揺れていた。
――解析不能な感情反応を検出。
ECOは、無意識に呟いた。
「……時代が変わる」
ECOの動揺を察したのかシンはチャンネルをかえた。
大和の最後の言葉だけが、胸に残る。
“次は、あの子たちの時代です。”
シンは拳を握った。
「……なら、俺たちも変わらなきゃいけねぇな。ECO!!」
その夜。静かに、歯車が回り始めていた。
やがて訪れる“選別”を、まだ誰も知らない。
だが確実に――
時代は、地獄へと傾き始めていた。




