居酒屋は笑われても立つ
初戦――わずか十秒での敗北だった。
その後も古舘さんに頼み込み、何度もリベンジを繰り返した。
だが結果は変わらない。いや、むしろ、敗北の速度は加速していった。
「おいおい、開始から五秒もたってないぜ?」
「立ち上がる前に沈んでらぁ」
――挑戦のたび、観客の失笑が突き刺さった。
惨敗の噂はすぐに広がり、不名誉な二つ名は、ショッピングモールの子どもたちにまで囁かれるようになった。
【ガラクタのECO】
「兄さん……」
「シンさん……」
心配するシュウとみっちゃんをよそに、シンは何度も朱雀へ挑み続けた。
しかし勝てない。たった一歩も踏み込めない。
ECOの体は何度も吹き飛ばされ、そのたびに強制停止の無機質なアラート音が鳴り響いた。
それでもシンは悔しさを押し隠し、笑顔でECOに声をかける。
「次こそ……絶対に勝とう」
冷たい声が返る。
「いえ、分かっていたことです。私が“ガラクタ”と呼ばれるのは当然です」
その言葉が、シンの胸の奥に火をつけた。
「だったら――そのガラクタは、ガラクタなりの勝ち方で勝とうぜ!」
「どのようにですか?」
「………それは……」
コレは漫画などではない。ピンチになると強くなる、そんなご都合主義な設定は現実では起こらない。
「……意味が理解できません。なぜ、そこまで熱くなれるのですか? 10億円のためですか?
やはり、ここで時間を費やすより、諦めて働く方が合理的です」
「………」
言葉に詰まる。
自分でも理由は分からない。なぜココまで向きになっているのかが…
だが、頭のどこを探しても、「やめる」という答えだけは見つからなかった。
「ECO……俺はお前と勝ちたい。ただそれだけだ!
今日は一旦帰ろう。」
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その夜。
定休日にもかかわらず、常連たちがいつものように顔を揃えて飲みに来ていた。
酔いに任せて笑い合う声を聞きながら、シンは深く頭を下げる。
「頼む……仁さん、俺達に武術を教えてくれ」
笑い声がぴたりと止まり、誰もが驚いた顔でシンを見た。
仁さんはゆっくりと徳利から酒をうつす。
「……『ガラクタECO』の噂、もう耳に入ってるぜ。……悔しかったんだな?」
シンは拳を握りしめる。
「悔しいに決まってるだろッ……! 何もできずに、馬鹿にされるなんてッ! だから俺は、諦めたくないんだ。ECOと一緒に、勝ちたいッ!!」
沈黙のあと、常連たちの顔にじわじわと笑みが戻る。
「なら、熱燗もう1本で教えてやんよ」
「仁さん……」
「かぁ〜ーー、言うじゃねぇか」
「いいねぇ。こっち正月早々飲むしかねぇ暇人ばっかりだからな」
「俺も秘伝の技を教えてやんよ!」
誰かが笑いながら一升瓶を掲げた。
「明日からシンさんの特訓だ!かんぱーいッ!!」
グラスがぶつかり合う音と、笑い声が店内に響く。
店内に満ちる熱気を見つめながら、ECOの胸の奥に、小さなざわめきが灯った。
――これは“非合理”。だが、なぜか目を逸らせなかった。
「……理解できません」




