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居酒屋の敗北

『大和さん! 見事、二連覇達成です! 今の気持ちをお聞かせください!』


小さな身体に不釣り合いなほど大きなマイクが、大和を取り囲む。


『……特別な感情はありません。ただ、マスターの指示に従っただけです』


『さすが冷静ですね! では、今回の決勝の相手については?』


『彼女も全力で挑んできました。その覚悟に敬意を払います。

ですが、勝敗は計算上で決まるもの。私が勝ち、彼女が負けた――それだけです』


『かっこいいですね! 最後に、これから目指すものは?』


『記録や称号には興味ありません。ただ、御子が本来持つ“力”を証明するために、ここに立っているだけです』


会場が拍手と歓声に包まれる。だが、大和の表情は終始変わらなかった。


――『それでは引き続き、御子大神楽のダイジェストをお送りします!』



---


年末の御子大神楽は連日ニュースになり、俺たちの耳にも自然と入ってくる。

御子を手にした今だからこそ、以前よりも強い興味と熱を覚えていた。


「なんかワクワクしてきたな! ECO! 今からインタビューの練習でもしてみるか!?」


「まずは出場権を獲得するのが先です。……勝てるかどうかは分かりませんが」


俺が興奮する一方で、ECOは冷静そのものだった。


その時――勢いよく店のドアが開く!


「は〜い♡ シンさん♡ 登録手続き、ちゃんと済ませておいたわよ♡」


「ありがとう、みっちゃん!常連さんに詳しい人がいて助かったよ!」


「いや~ん♡ お礼だなんて♡ シュウくん貸してくれるだけでいいのよ♡」


「兄?!」


みっちゃんがシュウに手を伸ばし、俺は慌てて止める。


「待て待て! 感謝はするけど、うちの弟に何する気だ!? って力つえー!!ECO!助けて!」


無表情のまま、そのやり取りを見ていたECOが小さく首を傾げる。


「……いつもこんなテンションなのですか? 正直、疲れませんか? そんな無意味なやり取り」


「無意味じゃないさ。こういうのは“信用”があるからできることさ」


「……理解できません」


「そんな♡信頼だなんて♡嬉しい♡ チューしちゃうぞ♡」


「うぉぉぉおお!!! それはやめろーーーッ!!!」


「兄よ……それより装備を一度揃えた方がいいのでは?」


「だな!」


「そうね♡買い物に行こうかしら♡デート用の服に着替えてくるわ♡」


「「待て待て!!」」


――こうして俺たちは装備を買いに行くことになった。




◆ショッピングモール


初売りセールでごった返す人混みを抜け、御子専門ショップの前に立つ。


「ここが……御子のパーツ屋か」

「そのようですね」

「いや~ん♡ 小っちゃくて可愛い♡ お部屋に飾りた〜い♡」

「兄よ……なんか緊張してきた」


ショーケースにはミニチュアサイズの武器やパーツがずらり。

御子連れの親子が「どっちの剣が強いかなー?」なんて楽しそうに盛り上がっている。

俺も商品を眺めたが――


「……高っ。ゼロ一個多くね? けど揃えないと勝てないんだろうな」


眉をひそめる俺に、ECOが淡々と言う。


「合理的判断です。素体のままでは勝負になりません。ですが――予算は?」


そこへ店員が笑顔で近づいてきた。


「お客さん、失礼ですが……その御子様、初期型では?」


「初期型? そうなのか?」


「はい。私のロットナンバーは『EC007』。初期生産型です」


店員の目がギラリと光った。


「ああーっ! 素晴らしい! しかもシングルナンバー! これは奇跡です!」


ぐいぐい迫られるECOと、一歩下がる俺。


「……個性の強い店員さんだな」


「わたくし感動しております! ぜひウチの会員に! 月に一度10%引きクーポンが出ますので!」


「は、はぁ……」


「合理的です。登録しましょう」


登録を済ませると、店員は胸を張った。


「わたくし店長の古舘と申します! それで本日はどのような服をお探しで? 冬用のコーデ? 袴コーデ?ですか?」


「い、いえ、神楽に出るための装備を」


「神楽?ですか…」


笑顔がわずかに引きつる。


「失礼かとおもわれますが、率直に申し上げます。初期型での参加はおすすめできません。今の主流は高速遠距離型……。

どれほど装備を整えても、生まれながらに持った性能差は埋まりません」


「そこは……気合でカバーするので大丈夫です!」


そう言うと、古舘はにこやかに提案する。


「そ、そうですか…では、試しにバトルをしてみませんか? 奥に簡易的なアリーナがありますので、是非。」


「えっ、いいんですか」


「ええ、体験をしないとですね。見ているだけでは分かりませんよ」


俺はECOを見た。


「……どうだ?」


「合理的です。試してみる価値はあります」


「よし!」



◆簡易アリーナ


観客席には、買い物帰りの親子連れや若者がちらほら。


古舘の御子がフィールドに立つ。


「いきますよ!朱雀」


俺達の前に現れたのは、光沢のある装甲、洗練されたシルエットだが、背中にはコンパクトな射出装置。

素人の俺でもわかる…手を抜かれている…


「ご紹介しましょう。私の相棒、朱雀です。装備は最低限の物で、初心者向けに調整してあります」


俺はごくりと喉を鳴らす。


古舘の好意で、ECOにも最新型の装備を一式貸してもらえた。

はじめての試合だが、これなら少しは……そう思った。


審判の合図が鳴る。


――開始。


合図と同時に、朱雀の背から光が迸った。

弾丸のようなエネルギー弾が放たれる。


「っ――!?」


ECOが腕を交差させてガードしたが、衝撃で数メートル吹き飛ばされた。


空気が爆ぜ、鼓膜が震える。ECOの細い体が床を滑り、金属の摩擦音が響き、焦げた匂いが鼻を刺す。


立ち上がろうとした瞬間、二撃目が足をすくう。


眩い閃光が視界を白で埋め尽くし、ECOの脚部が弾かれた。バランスを失い、膝をついた――その瞬間、胸の奥が嫌な音を立てた気がした。


スマホの画面に大きく表示された。


『機能停止』


それは敗北を意味する。


――開始から、わずか十秒。


観客席がざわついた。


「ふ、やっぱ旧型じゃ無理だよな」

「早かったなー、あの店長強すぎ」

「いや、あのおっさんが弱いだけじゃね?」


俺は思わず駆け寄る。


「おい、ECO! 大丈夫か!?」


「問題ありません。仕様通り、強制終了が作動しただけです」


ECOはそう、言うが、傷ついたECOの姿を見た俺は胸を締め付ける。


古舘が苦笑を浮かべた。


「……お分かりいただけましたか? 今の神楽はこういう世界です。初期型には、厳しいんですよ」



俺は唇を噛む。

悔しさと情けなさが、胃の奥に沈んでいった。

「ありがとうございました……けど、また来ますね!!」


古舘は、一瞬だけ眉が曇る、

「……無茶はしてほしくないんですが、ね」


悔しい…

そんな言葉が喉まで出かかったが、声を殺した。



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