居酒屋の決意
AM5:00
「……これで…終わり…っと」
『1月1日~1月3日 正月三が日のため休業』
入口に張り紙を出し、ようやく営業終了。
朝まで店を開けていたせいで、体はヘロヘロだ。眠い……。
今日から正月休みだし、しばらくはダラダラしよう…
で、起きたら御子用の道具でも揃えよう。
店内を見渡す。散らかった床、大量のグラス、そして一升瓶を抱えて寝転がるみっちゃんや常連たち。
……いや、まずは片付けだな。
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AM11:00
「ん~♡ 飲んだ翌日の『まかない飯』はサイコ〜♡
五臓六腑に染みわたるわ〜♡ 腕あげたじゃない、シンさん♡」
食べ残しで作った雑炊を美味しそうにかき込むみっちゃんを横目に、俺は食器を洗っていた。
「そりゃどうも……。なぁECO、重くないか?
無理に運ばなくてもいいぞ?」
お座敷から、ECOが自分の体と同じくらいの皿やグラスを抱えて運んでくる。
小柄な体なのに、手際よく積み上げては片づけていく姿は頼もしい。
「そうそう~♡ シンさんにやらせときなさいよ♡ この人、サボり癖あるから~♡」
一言余計だ。
「お気遣いありがとうございます。しかし、侮らないでください。
それは私たち御子の存在意義を否定することになります。」
きっぱりとした返答に、一瞬みっちゃんさんも俺も言葉を失う。
生活サポート兼、介護のために造られた存在。
ECOには、使命感のようなものが宿っているのだろう。
「……はーい♡」
「……はいはい」
俺たちは顔を見合わせ、苦笑いした。
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13:00
一通り片付けが終わった頃、シュウがのそのそと起きてきた。
「……おはよう、兄。すまない。寝坊してしまった……本当にすまない」
申し訳なさそうに頭を下げるシュウに、俺は笑って返す。
「心配すんな! 朝方までみんなの世話してただろ? そりゃ起きれんよ。
で、このあと買い物に行くけど……どうする? 一緒に行くか?」
シュウはまだ罪悪感が残っているのか、家に残ると言った。
その時だった。
――ゴトンッ。
静かな店内に、金属音と水滴の響きが重なった。
ポタ、ポタ、ポタ……。
見上げれば、天井のシミから水が滴り、テーブルの鍋に落ちている。
「……最悪だ。正月早々、雨漏りかよ」
俺は天井を仰いだ。シミはじわじわと広がっていく。
「シュウ! 悪い、バケツ持ってきてくれ!」
「は、はい!」
慌てて応急処置を済ませるが、胸騒ぎは消えない。
修繕業者のサイトを開いた瞬間、額に冷や汗が浮かぶ。
「……屋根の修繕、300万から…!? ただでさえ生活ギリギリなのに……」
ECOが無表情で首を傾げる。
「マスター、放置すれば屋根だけでなく建物そのものが終わります。
……このボロ店、経営悪化で潰れるか、崩れるかの時間の問題です」
容赦ないなぁ……。
そこへ資さんが今日の朝刊を広げて声をあげた。
「おいシンさん! これ見ろよ!」
――【年末御子大神楽 大和、堂々の連覇!】
記事の片隅に「優勝賞金10億円」と小さく記されている。
「……じゅ、10億……!?」
常連たちが色めき立つ。
「よし!出ろよシン! ECOちゃんがいるだろ!」
「屋根どころか、この店まるごと新築できるじゃん」
「いや…無茶じゃ……」と福ちゃんがぽつり。
「旧型の御子が、新型を相手に戦うのは…冗談ではすまない。シンさん、家族が一方的に傷つく姿は見たくなかろう。」
場が一瞬だけ静まり返る。だがその沈黙を、常連たちの熱気がすぐにかき消した。
あーだこーだと騒ぐ常連たちを横目に、俺は額を押さえて黙り込む。
その横で、ECOがコチラを見ていう。
「……マスター。私の中には一応、戦闘データがあるみたいです。ただし半世紀以上前のものですが」
俺は思わず苦笑する。
「……出たいの?」
「___いいえ……ですが、今はその選択肢が最も合理的だと思われます」
俺は深く息を吐き、決意を込めて言った。
「……守るべきものがある。笑って過ごす場所がある。だったら――
ッしゃぁ!! だったら賭けるしかないッ!!」
「シンさん…」
「どうせダメでもなんとかなるさ!貧乏魂見せてやろうぜ!!」
常連たちが「「よしゃぁ!!かんぱーいッ!!」」と声をあげる。
店内に活気が沸いた。
だがその中で、ECOだけは冷静に告げた。
「……ですが、勝算はほぼゼロです。私は遠距離武器を使えません。それでも、マスターが望むならお供します」
「「……え」」
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