無邪気
――簡易アリーナ。
観客席は異様な熱気に包まれていた。
「おい、あれ……噂のガラクタのECOだぞ」
「最近調子いいって聞いたけどな。よし、どっちに賭ける?」
「ガラクタッ!!………が負けにコーヒー10杯(笑)」
シンはその声を微かに聞きながら、悔しさを噛み殺す。
大丈夫。武器の扱いも慣れてきた。ビット操作の精度も上がってる。
今年こそは――勝って、勝って、勝ちまくる!
――開始の合図。
相手の御子が疾走。槍の穂先が一直線に突き出される。
ECOは日本刀で受け止めようとしたが――。
ガギィンッ!
速さに押し負けた。鋭い衝撃に弾き飛ばされ、床を転がる。
次の瞬間、無情な表示が点滅した。
【機能停止】
観客がざわつく。
「え、早っ!?」「やっぱガラクタだな」
その声をかき消すように――。
ギィ……と軋む音。
ECOの身体が、再び立ち上がった。
虚ろな瞳。だが、その口元には愉快そうな色が浮かんでいた。
『……大丈夫。試合続行を希望する』
審判が一瞬ためらう。だが、機能停止信号は消えている。
故障と判断し、続行を宣言した。
「いや、負けただろ?」
「古い機体だから誤作動じゃね?」
「……かもな」
観客の戸惑いがざわめきとなる。
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次の瞬間――ECOの動きが豹変した。
『マスター、次はハンマーを要求する』
突進。押し込み。叩き潰す。
武器を切り替え、流れるように操る姿は、これまでの機械的な精度とは違った。
無邪気に遊ぶ子供のように、獰猛でしなやかな動き。
「おい待て、ECO! 慌てるな! ビットで援護する!」
シンは必死に指示を飛ばす。
だが返ってきたのは、冷たい声。
『援護は不要……。次、日本刀を要求する』
シンの心臓が凍りついた。
合理的な口調のはずなのに、どこか違う。
これは――いつものECOではない。
相手の御子が反応する間もなく、肩口から腰へと斜めに斬り裂かれ――機能停止。
「勝者――ECO!」
会場がどよめく。歓声と恐怖が渦巻く中、シンは聞いた。
ECOが微かに呟いた声を。
『……やっぱり……楽しいや』
次の瞬間。
彼女の身体はガクリと崩れ、そのまま沈黙した。
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控室。
リペア装置の中で、ECOがゆっくりと目を開ける。
「……ここは? マスター、ごめんなさい。負けてしまいました」
シンは息を呑む。
「……覚えてないのか?」
あの無邪気にはしゃぐ子供のような戦いも、“楽しい”という言葉も――ECOの記憶には、一切残っていなかった




