居酒屋の賑やかな日
「_18時になりました。本日のニュースです。地上からおよそ400キロ離れた空宙都市
【天ノ原】の開発に向け、連結ゲート【天ノ柱】の工事が本日も進められております。完成は__」
カチッ、とダイヤルを回してテレビを止める。
静寂が一瞬だけ店内を包み込む。
一呼吸おいて、俺は声を張り上げた。
「え〜本日は居酒屋『深夜の世界』にお越しいただき__」
「おいおい!!堅苦しいぞ!」
常連の野次に笑いが起こる。
俺は慌てて言い直した。
「じゃ、じゃあ……今年一年を労うために! 飲んで笑って、はしゃいで食べて、来年も頑張っていきましょう!
それじゃ_今年もお疲れさまでした!!かんぱーーい!」
「「「かんぱーーーい!!!」」」
乾杯の声を合図に、店内は一気にドンチャン騒ぎ。
「ちょっ、すまんシンさん! ふすま破いちまった!」
「つばつけときゃ治るだろー!」
笑いと怒号の入り混じる大晦日の夜。これが、この店の毎年恒例の光景だ。
開始から30分ほど経ったころ、ギィィ、と扉が音を立てて開き、冬の冷たい風と一緒、おカマで常連のみっちゃんと、白髪頭の常連、福ちゃんが顔を出す。
「ごめんねぇ、シンさん♡乾杯終わっちゃったかしら~? ウチの店もありがたいことに大盛況でね、なかなか抜け出せなかったのよ~♡ あ、ソルティドッグお願いね♡」
みっちゃんを見るや、場はさらに盛り上がる。客のひとりがみっちゃんに一升瓶を渡すと、彼女は期待に応えるかのように、豪快に飲み干し、店中がどっと湧く。
「さすがだよ……」
「シンさ~ん! やっぱりハイボールちょうだい♡ それとイケメンくん(弟)呼んで! 一緒に飲むわよ♡」
厨房を振り返ると、弟のシュウが首を横に振った。
「僕はいいよ。料理もまだあるし」
「……そうか、ありがとな」
車椅子に座るシュウは、店をしっかり支えてくれる頼もしい存在だ。ただ、兄としてはもう少し、はっちゃけてほしいと思うこともある。
そう考えていると、みっちゃんがずかずか厨房に入り込み、シュウをお姫様抱っこして座敷へと連れていった。
「み、みっちゃん!?」
シュウは抵抗したが、みっちゃんは笑う。
「飲んべぇってのは肴がなくたって、旨い酒と仲間がいれば十分♡ あとはシンさんに任せなさい! さぁ飲もう飲もう♡」
強引だけど、そんな豪快さに何度も救われてきた。……任された俺は忙しくなるけどな。
やがて時刻は年越しカウントダウンが迫るなか、ほとんどの客はダウン。最後まで残ったのは、この町の酒豪四天王と呼ばれる福ちゃん、仁さん、みっちゃん、資さんだった。
俺が弟に毛布をかけに座敷へ向かうと、みっちゃんが、ふと思い出したように袋を取り出した。
「シンさん、ごめんね♡ はい、新しいバンダナ♡ 大事にしてちょうだい♡」
俺の額には大きな火傷跡がある。それを隠すために毎日バンダナを巻いているのだ。みっちゃんが毎年くれる奇抜なデザインのバンダナは、今では俺の象徴になっていた。
「ありがとう。年が明けたらさっそく付けるよ」
その様子を見ていた福ちゃんが、鞄をごそごそと探り始める。
「あぁ、そうじゃった! シンさん、今年もありがとう。こんな老いぼれを相手してくれて…これ、ほんの気持ちじゃ」
そう言って渡されたのは、ティッシュ箱ほどの高級感ある白い箱。表紙にはこう記されていた。
【御子】
「……御子!?」
思わず声を上げる。店内はざわついた。
【御子】半世紀前に生まれた、人と共に暮らす小人型アンドロイド。
子供のころ憧れて、親に何度もおねだり。……でも一体50万なんて、無茶もいいとこだったなぁ。
おとー(父)、おかー(母)、あの時はごめんな。
仏壇に向かって手を合わせた。
福ちゃんは、にかっと笑って言った。
「そうか、喜んでくれてうれしいのぅ。これでツケの罪悪感も少しは減るわい」
……いや、ツケは山ほど残ってるけどな。
それより今は、この箱に夢中だった。
騒がしかった店内の音が、ふっと遠き、
加速する鼓動音だけが耳に響く。
「ありがとう、福ちゃん! さっそく開けてみるよ!」
震える手で蓋に指をかける。
胸が、期待と緊張で破裂しそうだった。




