アリス・ゲートの招待状 前編
後日、流水寺に招かれ、俺とECOは彼の屋敷を訪れた。
「でっけぇ屋敷だ…」
案内された部屋へはいると――
「あら、ECOちゃんいらっしゃい。そして……その下僕さんもね」
「誰が下僕だ!」と突っ込む間もなく――
「ちょっと!? アリスさん!!なんて格好で____?!」
「お着替え中よ」
そこに現れたアリスは――一糸まとわぬ姿。
シンと流水寺は、思わず目を見開き……次の瞬間、無言で熱いハイタッチを交わした。
「これだから男性と言うものは…」
不機嫌そうなECOをよそに、アリスは全く動じない。
「あら? わたくしは見られても困らないわ。いえ、それより――見せつけてあげたいくらいよ」
「な、なにを……!?」
「見れば分かるでしょう? この体に傷一つないわ。……わたくしのマスターが、誰よりもわたくしを大切にしてきた証を」
「いえ、綺麗なのは充分理解しました。なので、早くお召し物を着てください」
ECOは何となくシンに一発ビンタを食らわせた。
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◆流水寺の屋敷・広間。
ゴシック調の豪奢な調度に囲まれ、俺とECOは正座させられていた。
「よく来たわね。今からビット使いを倒す修行を始めるわ」
「お、お手柔らかにお願いします……」
俺は冷や汗をかく。
アリスが指を鳴らす。
ふわり――十八のビットが浮かび上がり、ECOを取り囲む。
「まずは――逃げなさい」
直後。
バリバリバリバリッ!!
光束の雨がECOに襲いかかる!
「きゃぁ?!」
ドゴォォォン!!
ECOが壁にめり込み、煙を上げて崩れ落ちる。
「おいおいおい!! いきなり全力かよ?! 修行ってレベルじゃねぇぞッ!!」
「心配しなくていいわ。わたくし達の装備はどれも死なないように調整されてあるわ」
シンはECOの方を見て焦る
「一番信用ならねぇ調整じゃぁねえか!!」
ボロボロのECOが立ち上がる。
「……問題ありません。次は必ず回避します」
「その意気よ。じゃあ____倍速で」
「やめてあげてぇぇぇ!!」
再び、容赦ない弾幕。
「ぬぅぅぅぅん……!!」
「右から来る!!上へ逃げろ?!」
ECOは上へ避けようとするも他のビットの進路に突っ込み、ふっとばされた。
ドゴォン!!
「スマン、他のビットが見えてなかった、」
「もっと広い目で見てください!」
「そんな怒るなって、すまん!!」
アリスは優雅に紅茶を啜りながら、涼しい顔で告げる。
「フフ……悪くないわね。次は――“ゴスロリ服を着ながら避ける”修行にしましょうか」
俺&ECO「はぁぁぁぁあ!?!?」
俺とECOはゴスロリ服を着せられ、ビット回避の修行を続けた。
「てか、なんで俺の分まであるわけ?」
アリスはシンに対して言う。
「あら、まさか自身の御子が屈辱を味わっているのに、自身が何も無しで居られると思って?」
「……やってやろうじゃねぇか!!」
フリフリのドレスを着こなし、ビット対策に挑んだ!
流水寺は笑いながら俺を撮る。
こんな修行が夕方まで続いた。
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その夜。
シンは流水寺の台所を借り、ご馳走を並べた。
「コレが居酒屋メニュー?!見たこともない輝きをしているぅぅぅ何これ何これ?!」
日頃何を食べているか予想がつかないが、目を輝かせている流水寺を見ると、少し気分が高揚してきた。
煮込み料理は店から持ち寄り、四人の宴会が始まる。
シンと流水寺はすっかり意気投合し、仲良く酒を酌み交わす。
やがて男二人は酔いつぶれ、眠りについた。
残された二人の御子は、アリスの一室へと向かう。
先ほどまでの笑い声が、まるで遠い世界の出来事のように静まっていた。
月明かりがステンドグラスを透かし、青白い光が床に落ちていた。
ECOはベッドに腰かけ、目の前に立つアリスを見上げる。
「アリスさんって……本当に愛されているんですね。
それに、戦いも強くて……うらやましいです」
アリスは小さく首を振る。
「違うわ。わたくし、才能なんてないの」
ECOは目を丸くする。
「え……?」
アリスは窓辺に歩み寄り、月を背にして振り返る。
「すごいのは____わたくしのマスター。
わたくしのために努力して、何度も失敗して……それでも必ず立ち上がってきた。
その背中があったから、わたくしはここまで来られたのよ」
その瞳に一瞬だけ柔らかな光が宿る。
「だからわたくしは、誇らしいの。あの人を、マスターと呼べることが」
ECOの胸が、じんわりと熱くなる。
目の奥が、少しだけ熱い。
(……アリスさんでも、そう思うんだ)
アリスはECOをまっすぐ見つめ、微笑む。
「ECO。あなたも同じよ。必死に足掻いて、傷だらけになって……それでも立ち上がる。
その姿は――とても美しいの。だから、わたくしはあなたを歓迎したの」
ECOは
「それでもアリスさんなら、ずっと最前線でやっていけますよ。
10年後でも、100年後でも、新型の子なんかに遅れをとる訳ありません」
アリスは静かに首を振る。
「……無理ですわ」
「……え?」
「あの人の才能があるから、わたくしは美しく舞える。
けれど指示がなければ……わたくしはECOちゃんと同等、いえ、それ以下かもしれないわ」
ECOは言葉を失った。
アリスは窓辺に立ち、月を背にして静かに告げる。
「人間にはいつしか『死』が訪れる。
その時、わたくしの喜劇も幕を下ろすわ。」
ステンドグラス越しの月光が、彼女の頬を照らしていた。
まるで、天上の光が女神の涙を隠しているかのようだった。
「そんな……」
「でも____わたくしもただの操り人形になるつもりはないの。
あの人だって、わたくしがいないと駄目みたいだから。
それに……あの人は、わたくしを愛してくれている」
その声音は冷静でありながら、どこか誇らしげで温かかった。
ECOは何も言えず、
月光の中、アリスは女王のように微笑み続けていた。




