魔女からの招待状 ①
いつものショッピングモール。
いつもの簡易アリーナ。……の、はずだった。
「……おい」
「ん?」
「……あれ、アリス・ゲートじゃねぇか?」
「……は?」
ざわっ。
観客席の一角から、妙なざわめきが広がり始めた。
「……おいおい、冗談だろ?」
「甲級第3位の!?」
「本物かよ!?」
「【月影の魔女】が、なんでこんな田舎に……!?」
……ん?
俺は、首を傾げた。
「……ECO」
『はい、マスター』
「……なんか、すげぇ騒いでね?」
『……そのようですね』
「……誰か来たのか?」
『……どうやら、著名な御子のようです』
「……へぇ」
……著名な御子、ねぇ。
どれどれ。
俺が観客席へ目を向けると――
「うおおおお!! 本物だァァァ!!」
「アリス・ゲートだ!!」
「写真! 写真撮れ!!」
「いや、やめとけ!! 呪われるぞ!!」
「呪われるってなんだよ!?」
観客たちが、我先にとアリーナへ押し寄せていた。
あっという間に、空席が埋まっていく。
立ち見まで出始めた。
……おいおい。
いつもは、こんなに人いねぇだろ。
「……なんだ、これ」
俺が呆然としていると。
ふわり。
黒い影が、視界を横切った。
「……ん?」
目の前に、一人の御子が降り立った。
漆黒のドレス。
細やかなレース。
月明かりを閉じ込めたような、美しい装飾。
小さな身体を包むその衣装は、戦闘用の装備というより、舞踏会のための礼服に見えた。
そして。
「……ごきげんよう」
彼女は、優雅に微笑んだ。
「……え?」
「あなたが、ガラクタ使い?」
「……え?あ、多分ECOの事だと思うよ?」
「ふふっ」
彼女は、口元を指先で隠した。
「お会いできて嬉しいわ」
「……はぁ」
……誰?
「旧型の御子がいると聞いてね」
彼女は、俺の隣に立つECOへ視線を向けた。
「どうしても見たくなってしまったの」
『…………』
「気がついたら、四時間もかけて来ちゃったわ」
「……よ、四時間!?」
「ええ」
彼女は、何でもないことのように頷いた。
「少し遠かったけれど……来た甲斐がありそうね」
……いや。
四時間って。
どんだけ暇なんだよ。
そう思った、その瞬間。
――ドンッ!!
「うおっ!?」
目の前で、誰かが勢いよく膝をついた。
そして――
――ゴンッ!!
「……え?」
額を、床へ叩きつけた。
……土下座!?
「拙者の名は、流門寺!!」
「……は、はい!?」
「突然の訪問、誠に申し訳ないでござる!!」
男は、額を床につけたまま叫んだ。
「されど!! 拙者のアリスが、どうしてもそちらの御子と神楽をしたいと申すゆえ!!」
「……え?」
「少しばかり、お相手していただけないでござろうか!?」
そして。
さらに深く、頭を下げた。
「この通りでござるゥゥゥ!!」
「…………」
……いや。
待て待て待て。
なんだ、この人。
勢いがすげぇ。
「……マスター」
アリスが、静かに口を開いた。
「……はっ!」
流門寺が、顔を上げる。
「いつも言っているでしょう?」
アリスは、困ったように微笑んだ。
「あなたは、わたくしのマスターなのよ」
「……は、はい」
「胸を張りなさい」
「……ははっ!」
流門寺が、勢いよく立ち上がった。
そして。
腕を組み。
胸を張り。
大きく息を吸い込んだ。
「……お、おいッ!!」
「……はい!?」
急に態度が変わった。
「甲級第3位!!」
「……え?」
「アリス・ゲートが!!」
「……はい!?」
「お前たちの相手をしてやろうと言うておる!!」
「…………」
「こ、光栄に思うがいいィィィ!!」
「…………」
「……で、ござる」
「……最後に戻った!?」
……なんなんだ、この人。
アリスは、満足そうに頷いている。
「ええ。よくできました」
「……ははっ!」
……いや。
この二人、どういう関係なんだよ。
その瞬間。
観客席が、爆発した。
「マジかよ!!」
「アリスが戦うのか??ガラクタと!?」
「……ガラクタのECO!?」
「うっそだろ!?」
「無理無理無理!!」
「甲級第3位だぞ!?」
「俺たちだって、一分もつ自信ねぇよ!!」
……おいおい。
そんなにすげぇのか。
俺は、思わず唾を飲み込んだ。
甲級第3位。
神楽の頂点に近い存在。
そんな御子が、なぜ俺たちに……?
「……シンさん?」
アリスが、首を傾げた。
「いかがかしら?」
「…………」
俺は、ECOを見た。
ECOも、俺を見上げる。
『……マスター』
「……おう」
『戦力差は、極めて大きいと推測されます』
「……だろうな」
『通常の条件では、勝利は困難でしょう』
「……ああ」
……でも。
こんな機会、二度とねぇかもしれない。
俺は、拳を握りしめた。
「……よし!」
顔を上げる。
「受けるよ!!」
『……マスター』
「行こうぜ、ECO!!」
『……了解しました』
アリスは、楽しそうに微笑んだ。
「ふふっ。嬉しいわ」
そして。
「……そうね」
少し考えるように、指を頬へ添えた。
「せっかくだもの。ハンデを差し上げましょうか」
「……ハンデ?」
「ええ」
アリスは、静かに告げた。
「一度でも、わたくしにダメージを与えられたら――」
そこで、一拍。
「あなたたちの勝ちにしてあげるわ」
「…………」
……え?
観客席が、どっと沸いた。
「ぶはははは!!」
「いいハンデだ!!」
「いやいや、それでも無理ゲーだろ!!」
「一発当てろってことだろ!?」
「甲級第3位に!?」
「ははははっ!!」
……くそ。
完全に、舐められてんな。
でも。
「……いいぜ」
俺は、にっと笑った。
「その条件、乗った!!」
アリスが、嬉しそうに目を細めた。
「ふふっ」
「……?」
「いいお返事ね」
『両者、準備はよろしいですか?』
アリーナに、審判の声が響いた。
「おう!!」
『準備完了です』
アリスは、静かにドレスの裾を持ち上げた。
「……では」
優雅に、一礼する。
「踊りましょうか」
『神楽――開始!』
その瞬間。
――キィィィンッ!!
「……なっ!?」
アリスの背後に、光が灯った。
一つ。
二つ。
三つ。
……いや。
多い。
次々に、黒い小型機が姿を現す。
アリスの周囲を、円を描くように浮遊していた。
「……おいおい」
俺は、思わず目を見開いた。
「……何個あんだよ!?」
『……18機です』
「……は!?」
『遠隔稼働型レーザービット、18機を確認しました』
「18!?」
……いやいやいや。
多すぎだろ!!
「金持ちかよォォォ!!」
『……マスター』
「……ん!?」
『経済状況については不明です』
「そういう話じゃねぇ!!」
アリスが、くすりと笑った。
「ふふっ」
そして。
指先を、そっと持ち上げた。
「……さぁ」
18機のビットが、一斉に動き出す。
「どう動くかしら?」
――ヒュンッ!!
「……え?」
速すぎて、見えねぇ!!
ビットが、アリーナの上空を駆け巡る。
右へ。
左へ。
上下へ。
複雑な軌道を描きながら、次々と位置を変えていく。
まるで。
見えない糸で操られているかのように。
……なんだよ、これ。
「……ECO!!」
『……はい』
「警戒しろ!!」
『……既に完了してます』
次の瞬間。
――キィンッ!!
「……っ!?」
数機のビットが、光った。
――プシュンッ!!
「ECO!!」
光束が、一直線に走った。
ECOは、咄嗟に盾を構える。
――ガァァンッ!!
『……くっ!』
小さな身体が、後方へ吹き飛ばされた。
床を抉りながら、転がる。
「……ECO!!」
『……問題ありません』
ECOは、すぐさま立ち上がった。
……よし。
耐えた!!
そう思った瞬間。
――キィンッ!!
「……え?」
背後。
別のビットが、光っていた。
「後ろだァァァ!!」
『……っ!』
ECOが、身体をひねる。
――バシュッ!!
光線が、肩をかすめた。
火花が散る。
『……くっ!』
……おいおい、判断力とらもう関係ねぇだろ?!
「……ECO!! 動き続けろ!!」
『……了解しました』
ECOが、地面を蹴った。
しかし。
――ヒュンッ!!
また一機。
――ヒュンッ!!
さらに一機。
ビットが、ECOの進路を塞ぐ。
「……くそっ!」
俺は、歯を食いしばった。
……なんだ、これ。
逃げ道が、ねぇ。
アリスが、静かに笑った。
「……ふふっ」
そして。
「反応は、普通ね」
「……っ!」
「でも――」
アリスは、指先をくるりと回した。
18機のビットが、一斉に配置を変える。
「さぁ、次は避けるだけじゃ、破れないわよ」
その瞬間。
「……なっ!?」
ECOを取り囲むように、ビットが展開した。
上。
右。
左。
前。
後ろ。
……全部だ。
「……おいおい」
俺は、思わず呟いた。
「……これ、どうすりゃいいんだよ」
アリスが、微笑んだ。
「【魔女の匣】」
――ドドドドドッ!!
「うおおおお!?」
無数の光が、ECOへ降り注いだ。
『……っ!!』
ECOが、盾を構える。
――ガンッ!!
一発。
――ガァンッ!!
二発。
――バチィッ!!
三発。
『……くっ!』
盾の表面が、火花を散らす。
ECOは、身体をひねりながら必死に耐えた。
……でも。
多すぎる。
一発防げば、次が来る。
右を見れば、左から撃たれる。
上を警戒すれば、足元を狙われる。
……まるで。
本当に、ハコの中にいるようだ。
「……ECO!!」
『……回避経路を再計算中』
「……くそっ!!」
――ドガァァンッ!!
光弾が、ECOの足元で炸裂した。
小さな身体が、宙へ舞う。
――ガシャンッ!!
床に叩きつけられる。
「……ECO!!」
煙が、立ち込めた。
観客席が、静まり返る。
「……終わったか?」
「……だろうな」
「さすがに無理だろ」
……頼む。
頼むから。
「……ECO」
煙の向こう。
小さな影が、動いた。
『……っ』
「……!」
ECOが、ゆっくりと立ち上がった。
片膝をつき。
盾を支えにして。
傷だらけの身体を、もう一度起こした。
「……おおっ!?」
観客席から、どよめきが起こる。
「……まだ立つのか!?」
「マジかよ……」
「……あのガラクタが?」
俺は、拳を握りしめた。
「……よし!!」
……まだだ。
まだ、終わってねぇ!!
しかし。
アリスの攻撃は、止まらなかった。
一斉射撃。
角度を変えた連続攻撃。
逃げ道を塞ぐような、三方向からの照射。
そのすべてが、正確だった。
……いや。
正確すぎる。
ECOが避ける方向に、次のビットがいる。
盾を構える場所に、別の攻撃が来る。
まるで。
俺たちが、次に何をするのか分かっているみたいだった。
「……くそっ!!」
俺は、歯を食いしばった。
……このままじゃ。
いつまで経っても、近づけねぇ!!
「ECO!!」
『……はい』
「全部に構うな!!」
『……?』
「アリスに向かって、突っ込め!!」
『……被弾の危険性が高まります』
「分かってる!!」
俺は、拳を握りしめた。
「でも、ここにいたら一生届かねぇ!!」
『…………』
一瞬。
ECOが、俺を見た。
そして。
『……了解しました』
――カシャンッ!!
ECOの装備が、切り替わった。
重い盾を解除。
機動力を優先した構成へ。
……【纏】。
俺たちが、何度も練習した技術。
「……よっしゃ!!」
俺は、叫んだ。
「行けェェェ!!」
――ダンッ!!
ECOが、地面を蹴った。
一気に、加速する。
「……おっ!?」
観客席から、声が上がる。
「速い!!」
「装備を切り替えたのか!?」
「……あの旧型が!?」
……行ける!!
そう思った、その瞬間。
――キィンッ!!
「……っ!?」
一機のビットが、ECOの進路へ回り込んだ。
――バシュッ!!
『……ぐっ!!』
光線が、ECOの脇腹を抉った。
「ECO!!」
身体が、大きく傾く。
そのまま、地面へ転がった。
――ガシャァンッ!!
「……くそっ!!」
……届かねぇ。
また。
届かねぇ!!
観客席から、声が漏れる。
「……あれ、わざと急所を外してねぇか?」
「……遊んでんのか?」
「性格悪ぃな……」
「でも、あれだけ食らったら終わりだろ」
「……さすがに、もう立てねぇよ」
……やめろ。
勝手に、終わらせんな。
俺は、フィールドを見つめた。
「……ECO」
煙が、ゆっくりと晴れていく。
そこには。
片膝をついた、ECOの姿があった。
『……っ』
「……!」
小さな手が、床を押す。
膝が、震えている。
装甲の隙間から、煙が上がっていた。
それでも。
ECOは、立ち上がった。
「……ECO!!」
俺は、思わず叫んだ。
「大丈夫か!?」
『……問題ありません』
……嘘つけ。
明らかに、ボロボロじゃねぇか。
「……もう、やめるか?」
俺は、静かに尋ねた。
『…………』
ECOは、こちらを振り返った。
黒い瞳。
いつもと変わらない、静かな表情。
そして。
『……続行します』
「…………」
……そっか。
俺は、ゆっくりと頷いた。
「……分かった」
拳を握りしめる。
「……最後まで、やろうぜ」
『……はい、マスター』
アリスが、小さく目を細めた。
「……へぇ」
その表情に、初めて少しだけ興味が浮かんだ。
「……面白い子ね」
「……それじゃあ」
アリスが、ゆっくりと片手を持ち上げた。
18機のビットが、動きを止める。
そして。
一斉に、ECOへ照準を合わせた。
「……これで」
アリスが、優雅に微笑む。
「終わりにしてあげるわ」
――キィィィィンッ!!
「……っ!?」
ビットが、光った。
18の光。
逃げ道のない、包囲網。
「……ECO!!」
俺は、叫んだ。
「避けろォォォ!!」
――ドガァァァァンッ!!
凄まじい轟音。
眩しい閃光。
フィールドが、白く染まった。
……何も。
見えねぇ。
「……ECO!!」
煙の中から、小さな影が飛び出した。
……いや。
飛び出したんじゃない。
吹き飛ばされたんだ。
――ガシャァァンッ!!
ECOの身体が、床を転がる。
一回。
二回。
三回。
そして。
――コツン。
何かに、ぶつかって止まった。
「…………」
……え?
煙が、晴れる。
そこにいたのは――
アリスだった。
その足元に。
ボロボロになったECOが、倒れていた。
「…………」
観客席が、静まり返る。
「……終わったか?」
誰かが、呟いた。
……終わった。
俺は、唇を噛んだ。
……くそ。
やっぱり、届かなかったか。
そう思った、そのとき。
『…………』
ECOの指が、動いた。
「……ん?」
小さな手。
傷だらけの腕。
その指先が、ゆっくりと伸びていく。
……おい。
ECO?
そして。
――ぎゅっ。
「…………」
……え?
ECOの手が、アリスのブーツを掴んでいた。
『……やっと……』
小さな声が、聞こえた。
『……近づけまし……た』
「…………」
アリスが、目を見開いた。
ほんの一瞬。
驚いたように。
そして。
「……ふふっ」
小さく、笑った。
アリスは、ゆっくりとしゃがみ込んだ。
ECOの銀色の髪へ、そっと手を伸ばす。
そして。
優しく、頭を撫でた。
「……お疲れ様」
『…………』
「意外だったわ」
アリスが、微笑んだ。
「あなた、なかなか素敵ね」
そして――
「あなたの勝ちよ」
「…………」
……え?
その瞬間。
――ピロンッ!!
アリーナの大型掲示板が、切り替わった。
【WINNER:ECO】
「…………」
……は?
観客席が、ざわついた。
「……え?」
「……は?」
「……ECO?」
「……勝った?」
「いやいやいや!!」
「どういうことだよ!?」
「攻撃、当たってねぇだろ!?」
……俺も、そう思う。
「……えっと」
俺は、恐る恐る尋ねた。
「……アリスさん?」
「……はい?」
「……これ、どういう……?」
アリスは、くすりと笑った。
「……あら」
そして。
「最初に、申し上げたでしょう?」
「……え?」
「一度でも、わたくしにダメージを与えられたら――」
アリスは、ECOの手元へ視線を落とした。
「あなたたちの勝ちだって」
「…………」
「この子の握力で、わたくしはダメージを受けましたの」
「…………」
……え?
「……そ、それだけで?」
「ええ」
アリスは、何でもないことのように頷いた。
「立派なダメージですわ」
「…………」
……いや。
……いやいやいや!!
それ、ありなの!?
観客席からも、笑い声が上がった。
「ぶはははは!!」
「なんだ、その判定!!」
「八百長かよ!!」
「俺でも勝てるわ!!」
「ははははっ!!」
……まぁ。
言いたいことは分かる。
……でも。
俺は、ECOを見た。
ボロボロになって。
それでも、最後まで手を伸ばした小さな御子。
……そっか。
届いたんだな。
……お前。
本当に、届いたんだな。
俺は、ゆっくりと笑った。
「……へへっ」
……やったじゃねぇか。
ECO。
「……ねぇ」
アリスが、ECOへ声をかけた。
『……はい』
「あなた、名前は?」
『……ECOです』
「……ECO」
アリスは、その名前を口の中で転がすように繰り返した。
「……素敵なお名前ね」
『……ありがとうございます』
「ふふっ」
アリスは、ECOの銀色の髪を見つめた。
「……あなた、ドレスが似合いそう」
『……ドレス、ですか?』
「ええ」
アリスが、楽しそうに微笑んだ。
「今度、わたくしの家へ遊びにいらっしゃい」
「……え?」
俺は、思わず声を上げた。
「……いいんですか!?」
「もちろん」
アリスは、流門寺を振り返った。
「……いいわよね、マスター?」
「ははっ!!」
流門寺が、勢いよく頭を下げた。
「喜んでェェェ!!」
「……うおっ!?」
「いつでもお越しくだされ!!」
「……あ、ありがとうございます!!」
……いや。
なんだろうな。
この人、アリスのマスターなんだよな?
どう見ても、立場が逆なんだけど。
アリスは、そんな俺の考えなど気にも留めず、優雅に立ち上がった。
「……それと」
「……ん?」
去り際。
アリスが、ふと振り返った。
「ビットの使い方を、教えてあげるわ」
「…………」
……え?
『…………』
ECOも、固まった。
「……ビット?」
俺は、ゆっくりとECOを見た。
「……なぁ、ECO」
『……はい』
「……今、ビットの使い方って……」
『……そのようですね』
「…………」
……おいおいおい。
甲級第3位が。
俺たちに。
ビットの使い方を……?
「……マジかよ」
俺は、思わず笑ってしまった。
……なんだよ。
今日。
すげぇ日じゃねぇか。
アリスは、アリーナの中央へ戻った。
そして。
観客席へ向かって、優雅に一礼する。
「……さて」
ざわめきが、静まる。
「わたくし、もう少しここで踊っていこうかしら」
「……え?」
アリスは、にっこりと微笑んだ。
「踊りたい方がいらっしゃるなら、どうぞ」
18機のビットが、彼女の背後に並ぶ。
「お相手いたしますわ」
一瞬の沈黙。
そして――
「……おい」
「……ん?」
「……あれ、挑戦していいってことか?」
「……そうだろ」
「マジかよ!!」
「俺もやる!!」
「俺だって!!」
「ガラクタのECOが勝てたんだぞ!?」
「俺たちなら余裕だろ!!」
次々と、挑戦者が名乗りを上げた。
アリスは、楽しそうに笑っている。
「ふふっ」
「……?」
「それでは、皆様」
アリスが、ゆっくりと指を上げた。
「素敵な夜会にいたしましょう」
――キィィィンッ!!
18機のビットが、一斉に展開した。
***
その日。
実力に自信のある者たちが、次々とフィールドへ立ちアリス・ゲートへ挑んだ。
乙級丙級総勢108名。
しかし。
誰一人として。
アリスに、ダメージを与えることはできなかった。
触れることすら。
叶わなかった。
そして。
その日、ショッピングモールの簡易アリーナで起こった出来事は――
後に、こう呼ばれることとなる。
【魔女の夜会】




