居酒屋流の修行 其の二 ビール唐揚げ肉祭り
――暖簾の奥。今夜の居酒屋「深夜の世界」は、いつも以上に熱気に包まれていた。
みっちゃんが手を叩き、笑顔で宣言する。
「はいっ! 今日から特訓開始! シンちゃんの判断力を鍛えるわよ♡ みんな、どんどん注文してね♡」
「……判断力……!?」
シンは一瞬呆然としたが、すぐに拳を握る。
「よし、やってやる! どんな注文でもさばいてやる!」
シュウが恐る恐るメニューを広げる。
「じゃ、じゃあ兄、僕は……オレンジジュースに唐揚げと……枝豆」
「遠慮はするな!」
シンが胸を張った、その直後――。
「俺は熱燗!」
「ホッケの塩焼き!」
「モツ煮! 早めにな!」
「焼き鳥、タレで!」
「ハイボール濃いめ!」
常連たちが一斉に声を張り上げた。
「お前たちにじゃねぇッッ!!」
シンの悲鳴が店内に響く。
――まさかの一斉注文ラッシュ。
「え、えっと……ビールが先で……いや、モツ煮は時間かかるし……でも唐揚げは揚げ時間が……!」
頭が真っ白になり、声が裏返る。
みっちゃんがすかさず叫んだ。
「シンちゃん! 迷ってどうするの! 判断は一瞬、腹で決めるのよ!」
「は、はいっ!」
次々に飛ぶ注文。汗だくで駆け回るシン。
仁がカウンターから声を飛ばす。
「シンさん! 焦って味を落とすなよ」
「くっ……!」
シンは歯を食いしばり、必死に捌く。
唐揚げを揚げる手を止めずに、鍋のモツ煮をかき混ぜ、片手でビールを注ぐ――同時進行。
「うおおおおッッ!!」
観客と化した常連たちが、笑いながら囃し立てる。
「お、唐揚げきた!」
「おい、これ枝豆に塩かけすぎだろ!」
「ビールの値段でハイボール飲めるなんて最高だぜ!」
「うるせぇ! 修行なんだから我慢しろ!」
シンは怒鳴り返しつつも、動きは次第にスムーズになっていった。
皿を置く手が迷わず、次の注文へ即切り替える。
ECOは冷静にその様子を観察し、ぽつりと呟く。
「……進歩しています。効率は悪いですが、判断の速度は確実に向上しています」
最後の注文を出し終えたとき、店内には自然と拍手が起きた。
「シンちゃん、なかなかやるじゃないか!」
「成長してきたな!」
「俺なんか、モツ煮が焦げてるって言いたいけど……感動したから黙っとくわ!」
みっちゃんも満足そうに頷いた。
「うん、これなら次の試合、指示の遅れはなくなるかもね」
シンは息を切らしながらも、拳を強く握る。
「まだまだだ……でも、俺は必ず追いついてみせる!」
その言葉に、常連たちの笑い声がさらに弾ける。
ECOはその光景を見つめ、小さく瞬きをした。
「……理解できません。ですが、様になってましたよ」
シンはその声に目を丸くし、次の瞬間、大きな顔を見せた。
「おうよ!」




