第22話 援軍
当然と言えば当然だが、MLOが侵攻したことで最も衝撃を受けたのはSCOだった。
常日頃からフレンとアリエッタが中心となって、防衛の危険性を説いていたとは言え、やはり実際に攻め込まれるのは違う。
それでも準備をして来た甲斐はあって、すぐに迎撃態勢を取ることが出来たのは、流石と言えるかもしれない。
場所は本拠地である城下町の外に広がる大草原。
SCOプレイヤーの先頭に立ったフレンは、クラウソラスを右手に握り、仲間たちを鼓舞していた。
「皆、挫けるな! 何としてでも、ここで食い止めるんだ!」
怒涛の勢いで魔法を放って来るMLOプレイヤーに接近し、容赦なく斬り捨てるフレン。
魔法がメインのMLOプレイヤーは、火力や攻撃範囲、射程では有利なものの、接近戦ならSCOプレイヤーに分がある。
そのことは互いに熟知しており、この戦いは間合いの取り合いと言う側面が強い。
中でもフレンは圧倒的な強さを見せ付けており、MLOプレイヤーに魔法を使わせる隙すら与えず、脱落させて行っていた。
ところが――
「そこまでだ」
「……ッ! く!」
フレンの背後に突然現れたノイが、逆手に持った短剣を繰り出す。
寸前で辛うじて察知したフレンは、なんとか回避したものの、大きく体勢を崩した。
そこに付け込んだノイは、畳み掛けるように短剣で斬り掛かる。
このときフレンは、少なからず驚いていた。
魔法で戦うのが基本のMLOプレイヤーが、接近戦を仕掛けて来ただけでも異常事態だが、その練度が極めて高い。
もっとも、だからと言って遅れを取ることはなく、次第にフレンが押し返し始める。
剣技に大きな開きはないが、逆に言えば確かな差があった。
舌打ちしたノイは忌々しそうにしていたが、彼はあくまでもMLOプレイヤー。
フレンの斬撃を短剣で受けつつ後方に跳び、口元をマフラーで隠して詠唱。
それに気付かず突貫したフレンが、クラウソラスを振り下ろすのに合わせて、魔法を発動した。
「な……!?」
目の前でノイの姿が闇に溶け、フレンの攻撃が空振りに終わる。
思わぬ事態に目を丸くしたフレンだが、即座に意識を切り替えて全周囲を警戒した。
その直後、彼の右後方に出現したノイが、短剣で刺突を放つ。
反応したフレンは反転しながらクラウソラスを振り抜き、なんとか短剣を弾き返した。
そこで一息ついた両者は睨み合ったが、余裕がないのはフレン。
何故なら、ノイの巧みな誘導によって、本隊から引き離されてしまったからだ。
そして、それが何を意味するのかわからないほど、フレンは愚かではない。
「……キミが僕を引き付けている間に、他のペンタゴンとMLOプレイヤーが拠点を落とす作戦か?」
「大体合っているが、少し違うな」
「違う?」
「そうだ。 お前の相手は俺ではなく、俺たちだ」
ノイがそう言った瞬間、彼の後方にエリスが現れる。
その顔は緊張に彩られていたが、決して怖気付いてはいない。
それを見たフレンは、思わず顔を顰めそうになったのを、必死に堪えた。
ノイだけでも強敵だと言うのに、エリスも一緒となると、ますます厳しい戦いを強いられる。
だからこそ彼は、迷わなかった。
小さく息をついてウィンドウを操作したフレンの腰に、エクスカリバーが装備される。
対するノイは目を細め、エリスは息を飲んだ。
だがノイは、敢えて強気に言い放つ。
「クラウソラスとエクスカリバーの双剣か。 馬鹿げているが、俺たちに勝てると思うな」
「キミたちが強いのは、わかっている。 だけど、僕も退けないんだ」
「……お前のようなプレイヤーは、嫌いじゃない。 しかし、勝負は別だ。 行くぞ、エリス」
「う、うん。 ノイ、任せて」
静かに短剣を構えるノイと、ぎこちなく杖を握るエリス。
エリスが後衛だと判断したフレンは、先にそちらを落とそうかと思ったが、ノイの警戒を前に断念した。
尚、フレンはノイが古代魔法を習得していることは知っているが、詳細は不明。
ここに来て、ダリアが侵攻をモエモエに任せていた策が効いている。
相手の力が何かわからない以上、無策で挑むのは危険。
しかし、時間がないと考えたフレンは意を決して、エクスカリバーを抜剣した。
双剣となったフレンを見て、ノイも緊張感を高め――激突。
どちらからともなく踏み込み、双剣と短剣を交えた。
やはり押しているのはフレンで、ノイは防戦一方。
MLOプレイヤーが、フレンを相手に粘れているだけでも、驚嘆に値するが。
とは言え、粘れるだけでは勝てない。
どんどん追い込まれて行ったノイが短剣を弾かれ、大きく後方に仰け反る。
必殺の好機と見たフレンは、クラウソラスを全力で突き出し、ノイを貫いた。
その威力は凄まじく、ノイのHPゲージが半分近く削られた――が――
「ぐ!?」
フレンのHPゲージも、3割以上が消し飛ぶ。
ノイの古代魔法、【カース】。
受けたダメージの70%を相手にも返す、呪いの魔法。
危険を感じたフレンは距離を取り、エクスカリバーを鞘に戻して回復しながら、ノイを観察した。
彼に【カース】の知識はなかったが、状況からおおよその効果を察している。
同時に、攻略法も思い付いていた。
悠然と佇むノイを正面に見据えつつ、機を窺うフレン。
そうしてHPが完全回復したのを確認し、クラウソラスをチャージする。
ダメージを返して来る相手に長期戦を挑むのは、かなり厄介だ。
そこでフレンは、一撃で仕留める決意を固める。
自身も大ダメージを受けるだろうが、ノイを落とせたらなんとかなると考えていた。
一方のノイは動きを見せず、その場で構えている。
正直なところフレンは不気味に思ったものの、葛藤を振り切ってクラウソラスを突き出した。
「はッ!」
剣先から一直線に走ったレーザーがノイを穿ち、HPゲージをゼロにする。
やはりと言うべきか、フレンのHPも7割ほどが消滅したが、これは織り込み済み。
それでもノイを始末出来たのなら、あとはなんとかなる――はずだった。
「ノイ!」
慌てた声を上げたエリスの杖から放たれた光が、ノイを包み込み――復活。
それも、HPゲージは最大まで伸びている。
信じられない現象に、フレンは目を見開いていた。
エリスの古代魔法、【リザレクション】。
効果はそのままで、戦闘不能になったプレイヤーを完全復活させる。
戦闘不能になってから10秒以内と言う制約はあるが、生存戦争においては反則級の力だ。
また、CBOで言えばAPに当たるポイントの消費が激しい。
ところが、エリスは即座にアイテムを取り出して飲むことで、再び【リザレクション】を使えるリソースを確保する。
何より、ノイの【カース】との相性が抜群。
この2人が組んでいる理由であり、まさにフレンはそれを痛感している。
そんな彼にノイは、落ち着いた声を投げた。
「流石は第四星……いや、今は第一星か。 凄まじい威力だった。 だが、それが逆効果になったな」
「く……」
「もっとも、こちらにとってもエクスカリバーは面倒だ。 回復される前に、終わらせてやる。 エリス、援護は任せたぞ」
「う、うん……」
ノイの言葉にエリスは返事したものの、その声は弱々しかった。
その理由を知っているノイは、口元をマフラーで隠して苦笑し、フレンに鋭い目を向ける。
エクスカリバーによって回復しているが、まだ4割ほど。
このチャンスをものにする必要があると考えたノイは、全力で前に出た。
対するフレンは後退――せずに、迎え撃つ。
ただし、今は大ダメージを狙う訳には行かない。
【カース】によって返って来るダメージが、エクスカリバーの回復を上回ってしまえば、たちまち窮地に立たされるからだ。
そこでフレンは、ノイの攻撃を確実に捌きつつ、エクスカリバーは回復に専念させ、細かな反撃を繰り返している。
それによって自分も多少のダメージを受けながら、ノイのHPを削って行った。
絶妙な駆け引きが必要で、フレンの頭脳があるからこそ可能な戦法だと言える。
しかし、戦闘巧者なのは彼だけではない。
ノイが短剣を突き出したのを、フレンはクラウソラスで弾き、軽い一撃を返した。
ところが――
「何ッ!?」
今回何度目かの、フレンの驚愕の声が草原に響く。
彼の見る先では、ノイが自らフレンの斬撃に飛び込み、深い傷を負っていた。
それによって戦闘不能になったが、すぐにエリスが【リザレクション】で復活させる。
そしてフレンのHPも、残り2割を切るほどまでに減っていた。
予定外の大ダメージを受けたフレンは、ひとまず距離を取ろうとしたが、ノイが突くのはまさにそこ。
「もらったぞ」
ノイの左手が銃のような形を作り、指先から闇の弾丸が撃ち出される。
さほど高火力な魔法ではないが、弾速が速く、今のフレンを倒すことなら可能だ。
僅かに反応が遅れたフレンは、必死にクラウソラスで弾丸を斬り払う。
それによって、ピンチを切り抜けたかに思われたが――2発目。
全く同じ軌道で撃っていたもう1つの弾丸が、目と鼻の先にまで迫っていた。
目を見開いたフレンは回避も防御も間に合わず、脱落するかに思われたが――
「危ねぇな」
「む……!?」
横合いから飛来した手裏剣が、弾丸を相殺した。
勝利を確信していたノイは声を漏らし、エリスは瞠目している。
フレンは驚きつつも状況を察して、苦笑しながら視線を転じた。
そこには、ゆっくりと歩み寄るゼロの姿がある。
注目を浴びた彼は、何とも言い難い表情で後頭部をガリガリと掻いて、嘆息しながら言い放った。
「ペンタゴン2人にフレンって、どんな修羅場だよ。 こっちに来たの、失敗だったか……?」
「そう言わないでくれ。 それよりキミは、味方だと思って良いのか?」
「まぁな。 俺の他にも、2人来てるぜ。 その2人には、本拠地を攻めてる奴らの相手を任せた」
「そうか……。 雪夜くんも来ているのか?」
「いや、あいつは別件だ」
「別件?」
「あぁ。 それより、あいつらの古代魔法が何かはわかってるのかよ?」
「……恐らく、ノイは反射系の魔法だ。 与えたダメージの70%ほどを、こちらも受ける。 そしてエリスは復活魔法の使い手。 つまり、ノイを仕留めてもエリスが即座に復活させる上に、こちらは大ダメージを受けている状況を作られる」
「げ、そいつは最悪な組み合わせだな。 良く今まで生き残ったもんだぜ」
「いや、ギリギリだった。 キミが来なければ、今頃僕は……」
「あー、そう言うのは良いって。 それより、お前は回復に専念しろよ。 その時間くらいは、稼いでやるよ」
「……わかった、頼む」
前衛を買って出たゼロが、腰の後ろから短刀を抜き放つ。
対するフレンは後ろに下がり、完全に守りの態勢に入った。
それを背中で感じたゼロは短刀を構えながら、敢えて笑顔で明るく言ってのける。
「てことで、こっからは俺が相手になるぜ」
「ふん……SCOのゼロか。 どれほどのものか知らないが、ただ者じゃないことはわかっている」
「ペンタゴンに評価されるとはな。 悪い気はしねぇけど、油断してくれた方が助かるぜ」
「……エリス、もう少し離れていろ。 こいつは、思ったよりも危険かもしれない」
「わ、わかった。 ノイ、気を付けてね……?」
「あぁ、大丈夫だ」
短剣を力強く握るノイ。
ゼロの持つ異様な迫力を感じ取って警戒しているが、気圧されてはいなかった。
そんな彼を前にゼロも笑みを消し、真剣モードに移行する。
暫く視線を交換していた両者は――
「お手柔らかに頼むぜ!」
「無理な相談だ」
同時に駆け出した。
こうして此度の戦いは、次なる局面を迎える。
そして、ゼロが参戦した頃、ケーキとAliceも自身の役割を果たそうとしていた。




