第11話 エスコートクエスト
遂に第3回、GENESISクエストが始まる。
頭の中で情報を整理しながら、夕食を食べ終えた雪夜は、微かな緊張感を持ちつつCBOにログインした。
拠点の町のあちらこちらで、プレイヤーたちが真剣な顔で話し合っている。
当然と言えば当然だが、全員が生き残る為に全力を尽くそうとしていた。
また、進行度が下位5%は脱落すると言う性質上、同じタイトルであっても、完全な味方とは言い難い。
微妙にピリピリした空気が蔓延する中、雪夜はいつもの集合場所に向かう。
EGOISTSの仲間は揃っており、それぞれがウィンドウを開いて、最終確認をしているようだった。
雪夜同様、緊張感は持ちつつも、どちらかと言うと戦意が前面に出ている。
そのことを頼もしく思った雪夜は、一瞬だけ微笑を漏らしてから表情を改めて声を掛けた。
「皆、こんばんは。 今日は頑張ろう」
「おう、雪夜! こっちは準備万端だぜ!」
「あたしも! 張り切っちゃうよ~!」
「ゼロさんもAliceさんも、少し気が早いです。 ……わたしも、いつでも行けますが」
やる気満々な3人を前に、雪夜は再び苦笑する。
しかし、リーダーとして、言っておかなければならないことがあった。
「毎度のことだが、全員の生存が大前提だ。 危険だと判断すれば、途中だろうとそこで終わる」
「はい。 わかりました」
「ゴールのないパターンかもしれないしね~」
「そもそも、俺らが考えてるのと、全然違う内容かもしれねぇぜ? そのことを思えば、最初から最警戒だな。 1回しか挑戦出来ねぇんだし」
「ゼロの言う通りだ。 最初は手探りになるだろうが、とにかく安全第一で頼む」
雪夜の呼び掛けに、ケーキたちは同時に頷いた。
それに対して雪夜も頷き返し――サイレン音が鳴り響き、空が赤く染まる。
エスコートクエスト、開始。
それを察した雪夜は改めて3人を順に見つめ、言い放った。
「行くぞ」
パーティを組んで、エスコートクエストを受注する雪夜。
転移したEGOISTSが見たのは、遥か彼方まで続く1本の街道と、その両脇に広がる広大な草原。
空は雷雲に覆われており、不気味な雰囲気。
そして何より――
「これを、エスコートするのでしょうか……?」
ポツリと呟いたケーキの視線の先には、見上げるほど巨大な、少女の姿をした精巧な人形。
豪奢なドレスを身に纏い、まるでどこぞの姫のような出で立ち。
現時点では上品に両手を体の前で重ね、微動だにしていなかった。
雪夜たちはケーキの問に答えられなかったが、恐らくその通りだろうと思っている。
何故なら、人形の頭上にHPゲージが表示されているからだ。
エスコートクエストと言う名と今の状況を鑑みれば、この人形を守りながら進むのが目的だと思われる。
だが、他にも無視出来ない点があった。
「ん~。 制限時間があるっぽいね~」
「みてぇだな、Aliceちゃん。 20分てのが長いのかそうでもないのか、まったくわかんねぇけど」
右手を頬に当てて難しい顔で唸るAliceと、腕を組んで同意するゼロ。
雪夜は何も言わなかったが、目線は視界右上方を向いている。
そこには「20:00」と言うタイマーが表示されており、これがAliceの言う制限時間なのは想像に難くない。
そうしてEGOISTSたちが状況を整理していると、人形がゆっくりと歩み出した。
同時にタイマーがカウントダウンを始め、本格的にクエストが始まったことを告げる。
一気に戦闘モードに移行した雪夜たちは、アイコンタクトを取って人形を守る配置に着いた。
人形の歩みはさほど速くないので、着いて行くだけなら何ら問題はない。
もっとも、それで済む訳はないのだが。
「来たな」
「はい、雪夜さん」
雪夜の呟きに、ケーキが答える。
彼らの前方、街道を挟むように草原に現れたのは、夥しい数の黒い甲冑の兵士たち。
武器は剣と槍、弓の3パターンで、全員レベルは60。
いきなり厳しい場面に思えるが、EGOISTSに動揺はなかった。
「手筈通りに頼む」
「お任せ下さい」
「やっちゃうよ~!」
「雪夜! HP管理に気を付けろよ!」
言うが早いか、兵士たちの群れに突撃する雪夜。
それに対してケーキたちは人形の近くに残り、敵の接近に備えていた。
エスコートクエストに関して考えを巡らせていた彼らにとって、この展開は予測の範疇。
そしてその場合の動き方は、事前に決めていた。
簡単に言うと、雪夜が単独で打って出て、残りの3人で護衛対象を守ると言うもの。
ケーキたちは雪夜に危険を背負わせることに難色を示していたが、絶対に無理はしないと言う条件で承諾している。
実際問題として、この布陣は非常に強力だ。
「ふッ……!」
【瞬影】で敵陣に斬り込んで、即座に【閃裂】で1体を仕留める雪夜。
そんな彼に他の兵士が斬り掛かったが、彼は反転しながら避けつつ、カウンターの一撃で倒した。
ところが、兵士たちの勢いは止まらない。
数多の剣が振り下ろされ、槍が突き出される。
雪崩れ込むように雪夜に迫り、逃げ場などないかに思われたが――
「甘い」
完全に退路を断たれる前に【瞬影】で脱出して、別の場所で雪夜は戦いを再開した。
その度に敵は雪夜を追い掛けたものの、彼を捕まえることは出来ない。
結果として多くの兵士たちを引き付けることに成功し、少しずつ確実に雪夜は数を減らしている。
とは言え、全ての敵が彼を狙っている訳ではなかった。
やはりと言うべきか、本来の標的は人形らしく、雪夜から離れた場所にいる兵士たちは、そちらに向かっている。
その中の1体が弓を引き絞り、人形に矢を放った。
狙いは精確で、人形に突き立とうとしたが、そこに走り込む白い影。
「させません……!」
『プリンセス・ミラー』を掲げたケーキによって、矢が弾かれる。
ジャストガードではなかったものの、今の彼女にはほとんどダメージが通っていない。
強化された装備の強さを見せ付けた形だが、敵は怯まなかった。
剣と槍を装備した個体は進軍し、弓を持つ兵士は一斉に矢を射掛けようとして――
「吹き飛んじゃえ!」
「おらよ!」
Aliceの【イグニス・フレア】とゼロが投げ付けた爆弾が、広範囲のモンスターを蒸発させた。
【イグニス・フレア】はお馴染みのアーツだが、ゼロが使ったのは【爆ぜる命】。
遠距離広範囲アーツで、威力もそれなりに高い。
単体に対しては効果が薄い一方で、こう言った場面ではかなり強力だ。
その後も雪夜が戦場を駆け回って敵を倒し続け、人形に近付く者はAliceとゼロの餌食。
時折、矢が飛んで来ることはあったが、最初の一射でタイミングを覚えたケーキがジャストガード。
こうしてEGOISTSが盤石の態勢を整えていた間、人形は足を止めている。
その様子を遠くから眺めた雪夜は、おおよそのことに見当を付けた。
「なるべく早く倒すぞ」
「了解だよ~!」
「AP回復薬も、ケチってられねぇな!」
雪夜の指示に従って、Aliceとゼロの攻撃が更に激しくなる。
ちなみにケーキは今回、専守防衛が役割だが、本音を言えば攻め込みたいと思っていた。
それでも彼女は感情を押し殺し、人形を守り続ける。
当初は数え切れないほどいた兵士たちだが、雪夜たちの怒涛の攻撃を受けて、遂に最後の1体が消滅した。
すると人形が、無言で再び街道を進み始める。
このときになってケーキやAlice、ゼロも、このクエストの主な流れを把握していた。
「なるほど。 こうしてモンスターを殲滅しながら、先に進んで行くと言うことですね」
「うんうん。 20分って制限時間があるから、のんびりし過ぎると駄目かもね~」
「だからって無理したら、本末転倒だぜ。 特に雪夜! お前に言ってんだからな?」
「わかっている、ゼロ。 幸いにも、敵の耐久力は高くない。 ただし、動き自体は中々のものだ。 皆も気を付けろ」
「わかりました」
「任せて、雪夜くん!」
人形の元に戻って来た雪夜から注意されて、ケーキは真剣な顔で大きく頷き、Aliceは笑顔でサムズアップしている。
対照的な2人に雪夜は苦笑したものの、すぐに意識を切り替えた。
ゴールがあるのか、あるとしてもどこまで続くのかわからない現状、油断することは出来ない。
自分たちを気にすることなく歩み続ける人形を横目に、雪夜は決意を新たにする。
その後も頻発するモンスターの大軍を、雪夜たちは連携を取って退けて行った。
流石にノーダメージとは行かないが、人形には被害を出していない。
雪夜たち自身も、充分に回復が間に合う程度である。
だが、このときの彼らは知らなかった、最後に大きな障害が待ち受けていることを。




