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レイドボスAIは恋をした ~孤高の最強プレイヤーと、VRMMO生存戦争を駆け抜けた剣姫の物語~  作者: YY
第3章

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第11話 エスコートクエスト

 遂に第3回、GENESISクエストが始まる。

 頭の中で情報を整理しながら、夕食を食べ終えた雪夜は、微かな緊張感を持ちつつCBOにログインした。

 拠点の町のあちらこちらで、プレイヤーたちが真剣な顔で話し合っている。

 当然と言えば当然だが、全員が生き残る為に全力を尽くそうとしていた。

 また、進行度が下位5%は脱落すると言う性質上、同じタイトルであっても、完全な味方とは言い難い。

 微妙にピリピリした空気が蔓延する中、雪夜はいつもの集合場所に向かう。

 EGOISTSの仲間は揃っており、それぞれがウィンドウを開いて、最終確認をしているようだった。

 雪夜同様、緊張感は持ちつつも、どちらかと言うと戦意が前面に出ている。

 そのことを頼もしく思った雪夜は、一瞬だけ微笑を漏らしてから表情を改めて声を掛けた。


「皆、こんばんは。 今日は頑張ろう」

「おう、雪夜! こっちは準備万端だぜ!」

「あたしも! 張り切っちゃうよ~!」

「ゼロさんもAliceさんも、少し気が早いです。 ……わたしも、いつでも行けますが」


 やる気満々な3人を前に、雪夜は再び苦笑する。

 しかし、リーダーとして、言っておかなければならないことがあった。


「毎度のことだが、全員の生存が大前提だ。 危険だと判断すれば、途中だろうとそこで終わる」

「はい。 わかりました」

「ゴールのないパターンかもしれないしね~」

「そもそも、俺らが考えてるのと、全然違う内容かもしれねぇぜ? そのことを思えば、最初から最警戒だな。 1回しか挑戦出来ねぇんだし」

「ゼロの言う通りだ。 最初は手探りになるだろうが、とにかく安全第一で頼む」


 雪夜の呼び掛けに、ケーキたちは同時に頷いた。

 それに対して雪夜も頷き返し――サイレン音が鳴り響き、空が赤く染まる。

 エスコートクエスト、開始。

 それを察した雪夜は改めて3人を順に見つめ、言い放った。


「行くぞ」


 パーティを組んで、エスコートクエストを受注する雪夜。

 転移したEGOISTSが見たのは、遥か彼方まで続く1本の街道と、その両脇に広がる広大な草原。

 空は雷雲に覆われており、不気味な雰囲気。

 そして何より――


「これを、エスコートするのでしょうか……?」


 ポツリと呟いたケーキの視線の先には、見上げるほど巨大な、少女の姿をした精巧な人形。

 豪奢なドレスを身に纏い、まるでどこぞの姫のような出で立ち。

 現時点では上品に両手を体の前で重ね、微動だにしていなかった。

 雪夜たちはケーキの問に答えられなかったが、恐らくその通りだろうと思っている。

 何故なら、人形の頭上にHPゲージが表示されているからだ。

 エスコートクエストと言う名と今の状況を鑑みれば、この人形を守りながら進むのが目的だと思われる。

 だが、他にも無視出来ない点があった。


「ん~。 制限時間があるっぽいね~」

「みてぇだな、Aliceちゃん。 20分てのが長いのかそうでもないのか、まったくわかんねぇけど」


 右手を頬に当てて難しい顔で唸るAliceと、腕を組んで同意するゼロ。

 雪夜は何も言わなかったが、目線は視界右上方を向いている。

 そこには「20:00」と言うタイマーが表示されており、これがAliceの言う制限時間なのは想像に難くない。

 そうしてEGOISTSたちが状況を整理していると、人形がゆっくりと歩み出した。

 同時にタイマーがカウントダウンを始め、本格的にクエストが始まったことを告げる。

 一気に戦闘モードに移行した雪夜たちは、アイコンタクトを取って人形を守る配置に着いた。

 人形の歩みはさほど速くないので、着いて行くだけなら何ら問題はない。

 もっとも、それで済む訳はないのだが。


「来たな」

「はい、雪夜さん」


 雪夜の呟きに、ケーキが答える。

 彼らの前方、街道を挟むように草原に現れたのは、夥しい数の黒い甲冑の兵士たち。

 武器は剣と槍、弓の3パターンで、全員レベルは60。

 いきなり厳しい場面に思えるが、EGOISTSに動揺はなかった。


「手筈通りに頼む」

「お任せ下さい」

「やっちゃうよ~!」

「雪夜! HP管理に気を付けろよ!」


 言うが早いか、兵士たちの群れに突撃する雪夜。

 それに対してケーキたちは人形の近くに残り、敵の接近に備えていた。

 エスコートクエストに関して考えを巡らせていた彼らにとって、この展開は予測の範疇。

 そしてその場合の動き方は、事前に決めていた。

 簡単に言うと、雪夜が単独で打って出て、残りの3人で護衛対象を守ると言うもの。

 ケーキたちは雪夜に危険を背負わせることに難色を示していたが、絶対に無理はしないと言う条件で承諾している。

 実際問題として、この布陣は非常に強力だ。


「ふッ……!」


 【瞬影】で敵陣に斬り込んで、即座に【閃裂】で1体を仕留める雪夜。

 そんな彼に他の兵士が斬り掛かったが、彼は反転しながら避けつつ、カウンターの一撃で倒した。

 ところが、兵士たちの勢いは止まらない。

 数多の剣が振り下ろされ、槍が突き出される。

 雪崩れ込むように雪夜に迫り、逃げ場などないかに思われたが――


「甘い」


 完全に退路を断たれる前に【瞬影】で脱出して、別の場所で雪夜は戦いを再開した。

 その度に敵は雪夜を追い掛けたものの、彼を捕まえることは出来ない。

 結果として多くの兵士たちを引き付けることに成功し、少しずつ確実に雪夜は数を減らしている。

 とは言え、全ての敵が彼を狙っている訳ではなかった。

 やはりと言うべきか、本来の標的は人形らしく、雪夜から離れた場所にいる兵士たちは、そちらに向かっている。

 その中の1体が弓を引き絞り、人形に矢を放った。

 狙いは精確で、人形に突き立とうとしたが、そこに走り込む白い影。


「させません……!」


 『プリンセス・ミラー』を掲げたケーキによって、矢が弾かれる。

 ジャストガードではなかったものの、今の彼女にはほとんどダメージが通っていない。

 強化された装備の強さを見せ付けた形だが、敵は怯まなかった。

 剣と槍を装備した個体は進軍し、弓を持つ兵士は一斉に矢を射掛けようとして――


「吹き飛んじゃえ!」

「おらよ!」


 Aliceの【イグニス・フレア】とゼロが投げ付けた爆弾が、広範囲のモンスターを蒸発させた。

 【イグニス・フレア】はお馴染みのアーツだが、ゼロが使ったのは【爆ぜる命】。

 遠距離広範囲アーツで、威力もそれなりに高い。

 単体に対しては効果が薄い一方で、こう言った場面ではかなり強力だ。

 その後も雪夜が戦場を駆け回って敵を倒し続け、人形に近付く者はAliceとゼロの餌食。

 時折、矢が飛んで来ることはあったが、最初の一射でタイミングを覚えたケーキがジャストガード。

 こうしてEGOISTSが盤石の態勢を整えていた間、人形は足を止めている。

 その様子を遠くから眺めた雪夜は、おおよそのことに見当を付けた。


「なるべく早く倒すぞ」

「了解だよ~!」

「AP回復薬も、ケチってられねぇな!」


 雪夜の指示に従って、Aliceとゼロの攻撃が更に激しくなる。

 ちなみにケーキは今回、専守防衛が役割だが、本音を言えば攻め込みたいと思っていた。

 それでも彼女は感情を押し殺し、人形を守り続ける。

 当初は数え切れないほどいた兵士たちだが、雪夜たちの怒涛の攻撃を受けて、遂に最後の1体が消滅した。

 すると人形が、無言で再び街道を進み始める。

 このときになってケーキやAlice、ゼロも、このクエストの主な流れを把握していた。


「なるほど。 こうしてモンスターを殲滅しながら、先に進んで行くと言うことですね」

「うんうん。 20分って制限時間があるから、のんびりし過ぎると駄目かもね~」

「だからって無理したら、本末転倒だぜ。 特に雪夜! お前に言ってんだからな?」

「わかっている、ゼロ。 幸いにも、敵の耐久力は高くない。 ただし、動き自体は中々のものだ。 皆も気を付けろ」

「わかりました」

「任せて、雪夜くん!」


 人形の元に戻って来た雪夜から注意されて、ケーキは真剣な顔で大きく頷き、Aliceは笑顔でサムズアップしている。

 対照的な2人に雪夜は苦笑したものの、すぐに意識を切り替えた。

 ゴールがあるのか、あるとしてもどこまで続くのかわからない現状、油断することは出来ない。

 自分たちを気にすることなく歩み続ける人形を横目に、雪夜は決意を新たにする。

 その後も頻発するモンスターの大軍を、雪夜たちは連携を取って退けて行った。

 流石にノーダメージとは行かないが、人形には被害を出していない。

 雪夜たち自身も、充分に回復が間に合う程度である。

 だが、このときの彼らは知らなかった、最後に大きな障害が待ち受けていることを。

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