9話 山田再び
「なぁなぁ達也ー」
「んー?」
「昨日から俺も配信者の仲間入りしたんだけどさー」
「へー」
「全然人来なくてさー」
「まぁ、だろうね」
「お前のチャンネルで俺の宣伝してくれよー」
「え?ヤだよ」
「なんでだよー、友達だろー?」
「身バレに繋がんじゃん」
またKY山田が田中にウザ絡みしてる・・・。
「あ、それとさ」
「うん?」
「俺、スマホで配信してんだけどさ」
「うん」
「やっぱマイクとかって要る?」
「んー、要ると思ったら要るんじゃない?」
「いや、だから要るかどうか聞いてんじゃん」
田中、正解。
でも、その言い方だとKY山田はバカだから分からないはず。
「今の機材だけじゃどうしても出来ない事がある。ってなった時が要る時だと思う」
「良く分からん」
いや、分かれよ。
「ってかさ、達也の機材で俺も1回配信させてくれよ」
「だから無理だって」
「なんでだよー。どうせ貰いモンなんだろ?いいじゃん」
「設定とかイジりたくないし」
「そのまんまで良いって」
「アカウントとかもあんじゃん」
「どゆこと?」
「俺のPCで配信するってなったら、お前のアカウントでログインしないとじゃん?」
「別に達也のアカウントでもいいぜ?」
「いや、だから・・・」
「良い機材だとどんぐらい違うのか知りたいだけなんだよ」
天と地ほどに違うよ。
知りたかったら自分で機材揃えろ。
「はぁ~・・・機材ってさ」
「うん?」
「安いのもあるからそんな気になるんだったら安いので揃えたら?アドバイスなら出来るし」
「だからー、金掛けずに知りたいんじゃん」
金掛けずに知って何か意味ある?
言ってる感じからして、知っても金掛けないだろうし。
「あー・・・うん・・・。今はスマホだけでも十分配信は出来るし」
「うん?」
「俺の機材は貸さないし、宣伝もしないし、コラボもしない」
「んだよケチクセーなー」
ヘソを曲げたのかKY山田はわかり易く舌打ちして教室を出ていった。
田中、正解。
相手するだけ時間の無駄だ。
前から考えてたけど・・・俺もコラボとかしてみたいんだよね。
配信者仲間も居なければ、リアルでも配信してる知り合いも居ないから相手が居ないんだけど・・・。
やってみたい企画はいくらでもあるから、まだコラボに手を出さなくても良い気もするけど、やってみたい気持ちはある。
ただ、ソロ配信と違ってコラボ相手との息も合わせないとだし簡単なものじゃないのは分かってる。
KY山田じゃないけど・・・やってみたい、どんな感じなのか知りたい。
とはいえ、失敗はしたくないからやるのであれば事前に研究もしたいし練習とかリハーサルも入念にやりたい。
まぁ・・・相手が居ないんだけど・・・ははは・・・。
他にも色々と悩み事がある。
こういう時は・・・ママにでも相談してみようかな。
ママって言うのは実母では無くVtuberのガワを産み出してくれた第二の母的な。
だから場合に依っては男性イラストレーターでもママと呼ばれたりもする。
思い立ったが吉日。
早速、ママにメッセージを送ってみた。
「石倉先生お久しぶりです。全然、重たい話とかでは無いのですが活動方針で悩みがあるので相談に乗って頂けませんか?」
ちょっと文章が固すぎたかな?
すると直ぐに既読が付き返信があった。
「ちょっとあたるくん!石倉先生じゃなくてママって呼んでって言ってるでしょ?」
「すみません・・・」
「それに、全然メッセくれないからママ寂しかったなー」
ママに相談しにくい理由としてこの謎のテンションがある・・・。
「ほら、ママって呼んで」
「え・・・」
「はーやーくー」
「いや、あの・・・」
「ママって呼ばないと相談なんて乗らないよ?」
くっ・・・。
「ママ」
「はーーーーーーーーーーい」
イラストレーターとしてはめちゃくちゃ優秀なのに中の人は・・・。
この人は僕に何を求めているんだろうか・・・?
「どうしたの?何があったの?ママに言ってみて」
「えっとですね・・・登録者数とか同接とか数字関係が伸び悩んでて」
「うんうん」
「これからどうすれば良いのかな?っていうのと、コラボとかすればそういう問題も解消されるのかな?って」
「アーカイブは全部観てるけどコメント欄の雰囲気も良いしこのままでもママは良いと思うけどなー」
アーカイブ観てくれてるのか。
「リアタイしたいけど忙しくてごめんね」
「いやいや、そんな。アーカイブ観て貰えてるだけでもありがたいです」
「コラボだったらさ」
「はい」
「ママとする?」
「え?」
「あたるくんと別にもう1人コラボしてみたい相手が居てね」
「はい」
「その為にVの身体作ってみましたっ!」
「え!?石倉先生受肉したんですか???」
「まだ配信とかはした事無いけどいつでも出来るよー」
「そ、そうなんですね」
「まだどこにも情報出してないから内緒ね?」
「はい!」
相談って・・・してみるもんだな・・・。
した所で結局答えを出すのは自分なんだから相談なんてしても意味が無いと思ってたけど・・・意外にもトントン拍子で話が進んでしまった。