14ラウンド目・終わった後にする事は?
書いたら投稿!!
「気絶したまま……技を掛けた……だと?」
自らに技を掛けられたまま、ジレッテーナが呟きます。無論、四肢の自由は利かないまま、身動き出来ないままですが。
「そうさ……身体が勝手に動くってもんよ、繰り返し繰り返し、ぶっ倒れるまで練習をしてるとさ……」
嘯くミライクこと郁美は、ジレッテーナの背後から四肢を絡め関節を極めたまま、手足に力を籠めます。
「……ぐぅ!? だ、だが……痛みに耐えるのは慣れているさ……このままでは、埒が明かないだろうがな……」
苦痛に顔を歪ませながら、ジレッテーナは脂汗を垂らして耐え続けます。彼女の言葉は嘘では無さそうですが……
「……へっ! だから、止めろってか? 甘いんだよ……っ!!」
ミライクはそう言うと下から締め上げていた体勢を崩し、横向きに変化しながら素早く背後を取ったまま、両腕をジレッテーナの首元へと絡めました!
「……ひゅっ!?」
「だったら……落とすっ!!」
背丈の小さいミライクが、身の丈に優るジレッテーナの首に腕を回し、気道と頸動脈をぎりりと締め上げます!
その姿は小さな蜂が大きな甲虫を針で突き倒す姿に酷似し、ジレッテーナの顔色は毒が回ったかのように青ざめていきます。
「……っ!!」
しかし、意地でも敗けを認めたくないジレッテーナが、ミライクの腕を掴み、無理矢理引き剥がそうと力を籠めますが、次第に彼女の抵抗も弱まり、そして遂に……
「……そこまでじゃ、お嬢様」
見届け人のチャップマン翁が手を振りながら声を掛けた瞬間、ミライクは拘束を解き技を外しました。
「……くそっ!! ……勝てなかった訳じゃないのに……」
悔しさを滲ませながら、ジレッテーナは伏したまま舞台の床を叩きました。実力の違いは明白だったにせよ、小柄なミライクに手も足も出なかった自分の不甲斐なさを嘆き、身を震わせながら自らを責めます。
「まあ、頑張ったんじゃないの? 素人にしては、ね」
しかし、ミライクは呆気なく言うと、まるで友達に手を貸すかのように差し出して、
「ほら、まだ足元がぐらつくだろ? 掴みなよ」
「……済まない」
ぐっ、と握り返す手を掴み、ジレッテーナを引き起こしてあげたのです。
今の今まで殴り合っていた相手に、驕る事をせぬ行動……観衆から声援と拍手が上がります。近衛兵達もミライクに賛辞を惜しまず、人々の声は渦となって舞台をつつんでいきました。
「いっつつ……派手に叩き合ったからなぁ……」
屋敷へと戻ったミライクこと郁美は、腫れ上がった顔に濡れた布を当てながら呟きます。
(……しかし、お前が度々口にしていた【ぷろれすらー】とは、一体何の事なんだ?)
戦いの後、ジレッテーナは別れ際に尋ねました。
(……うーん、何と言えばいいんだか……)
返答に詰まった郁美は考えてから、ぽつりと答えました。
(……派手に叩き合ったり、技を掛け合ったりする大道芸人みたいなもん……かな?)
それを聞いたジレッテーナは、呆れたように口を開けたまま暫く黙り、顔を綻ばせながら言ったのです。
(……私は大道芸人に敗けたのか? ……まだまだ、修行が足らんな)
その後、別れ際にジレッテーナは思い出したように、
「……ヤンデレナが倒された、と聞いた時はさぞや筋骨粒々の化け物が現れたのかと思ったけれど、結局……強さの基準なんて誰にも計れないって事だな」
そう呟きながら、ミライクと別れました。
その事を思い出しながら、ミライクこと郁美は、
(じゃあ、私にとっての強さとは、一体何なんだろ?)
と考えてみました。
自分が所属していた団体の大先輩や、違う団体の猛者達も確かに強かったけれど、自分が目指していた強さとは、また違っていたような気がします。
(……プロレスラーになったのだって、合気道から離れたくて始めたようなもんだったけど……)
しかし、ジレッテーナとの戦いの最中、意識を失った筈の郁美が繰り出した技は、プロレスの技では有りません。父親から手解きされた合気道の技の亜種……郁美の中で咄嗟に作り上げた技だったのです。
結局、父親の姿を思い出したくなかった郁美が、回り道をして辿り着いた先は……皮肉にも元の同じ場所だったようで、思わず一人で苦笑いする郁美でした。
「……さて、そんな事より筋トレしなきゃ!!」
一日サボった分は一日では取り戻せないのが筋トレだ、と常々思っている郁美は、翌朝も変わらずトレーニングを始めようと庭に出ましたが……
「あ、ミライク君! また無茶したんだって?」
久々に顔を合わせたヤレンナー君の後ろに、見覚えの有る二人が……
「うっわ!! ヒドイ顔じゃない……そんなんで筋トレする気なの!?」
相変わらずの口調と髪型のヤンデレナと、
「……あ、いやその……たまたま通りかかっただけと言うか……」
何故か言い訳を始めるジレッテーナが居たのです。
「ジレ姉さんったら、一人じゃ行きにくいって始まってさ……いや、別に私だって来たくなかったのよ? たださ~、案内しろって五月蝿くって……」
「なっ!? ず、ズルいぞヤンデレナ!! 私は別に行きにくいとか思っては……」
突如言い合いを始める二人でしたが、ミライクは取り敢えずジレッテーナの思惑だけは判りました、たぶん。
「まーまー、細かい事はともかくさ、三人とも朝ごはん食べたの?」
……へ? と言いたげなジレッテーナとヤンデレナ、そして早くも察したヤレンナー君だけはサッと顔色が変わります。
「だって、あんまり食べ過ぎてっと、トレーニングしたら吐いちゃうからさ~♪」
郁美はキッツイ事をさらりと告げながら、嬉しそうに笑います。
「やっぱり筋トレはみんなでやった方が楽しいよね?」
遅くなりましたが、宜しければまた次回も……!




