表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
70/82

69.聖子 赤は血より出でて血より赤し

 6月下旬。私は国道51号を北上していた。後ろの席のチャイルドシートにはヒカリくんがいる。

「おねえちゃん。今日はどこいくの?」

「いいとこだよー。ちょっと遠いけど我慢してね」

 私はルームミラー越しにヒカリくんの顔を見た。ヒカリくんは少しだけ不安そうな表情を浮かべている。

 それにしても最近は国道51号をよく通る。最初は京極大輔の事件のとき、次は彼の葬儀。この前、上京したとき通った道もこの道だった。銚子からい茨城県央地域に行くにはこの道を通るのが普通なので当然なのだけれど。

 51号に乗ってすぐ、左手にサッカー場が見えた。ここは鹿島アントラーズの本拠地で試合のある日はかなり賑わっている。今日も試合があるはずだけど、今のところは空いていた。きっと試合のある夕方は混むと思う。

 銚子大橋からここまで1時間掛かっているけど、まだまだ先は長い。大人の私でさえ長く感じるのだ。ヒカリくんはきっと飽きてしまうだろう。

 私はふと、伊瀬さんのことを思い出した。もう半年前だけど彼とこの道を通ったのだ。あのときは彼が死んでしまうなんて予想だにしなかった。彼はもうこの世にはいないのだ。もういい加減慣れても良さそうだけど、未だにその事実が信じられない。

 矛盾しているようだけれど、信じられない反面、私は彼の死に対して納得はしていた。いつかこうなる気がしていたと言ってもいいだろう。彼は昔から危ない橋を渡っていたし、きっと今回無事でもいずれこんな目には遭っていたはずだ。残念だ。けど仕方ない。

 鉾田市内に入ると道は空いていた。自然と車もスピードが出る。

「おねえちゃんお腹すいた」

「そうだね。私も……。どっかでご飯食べてこうか?」

「うん。ハンバーグがいい」

 ヒカリくんはハンバーグをご所望のようだ。

「わかった! じゃあ途中で食べよう」

 ヒカリくんは東京以来ずっとハンバーグがお気に入りだ。あの味が気に入ったのは分かる。私ももう一度行きたいと思うぐらいだ。

 たしかに高橋さんと一緒に食べたハンバーグは絶品だった。あんな場面でなければもっと堪能できただろう。空気を読まず、飄々としたあの男がいなければ……。

 でも不思議と高橋さんのことを思い出しても嫌な気持ちにはならなかった。非常識そうな振る舞いをしてはいたけれど、彼の言葉自体は間違ってはいないと思う。誠実さの欠片もないけれど、彼の言葉にはそんな不思議な響きがあった。まるで私の心の中を見透かしているような。そんな響き。

 51号でハンバーグが食べられそうな店を探す。しかし、なかなか見つけられなかった。あまり意識していなかったけれど、この道路沿いには飲食店が少ないのだ。コンビニやラーメン屋は割とあるのに洋食店は極端に少ない。

 道路沿いには寂れた街が広がっていた。街……。という表現は適当ではない。どちらかというと『農村』『漁村』といった方が近いと思う。まぁ、茨城の主要な移動路なんてこんなものだと思う。水戸市内にでも行けば違うだろうけれど、基本的にはこんな感じなのだ。

 ルームミラーを覗くと、ヒカリくんが窓から流れる景色を眺めていた。彼の瞳は、好奇心と不安が混ざったような色をしている。

 これから彼に起こるであろう困難を思うと、胸が苦しくなった。このままウチの実家の養子でもいいのに。そんなことさえ思う。でもこのままではいけないだろう。今日はルナちゃんのお姉さんも来てくれているだろうし、しっかりと彼の将来を話し合わなければ。

 ようやく洋食屋に辿り着いたのはルナちゃんとの待ち合わせ場所にかなり近づいたときだった。その洋食屋は国道沿いの畑の真ん中に急に現れた。

 やれやれ、やっと昼食だ。ここに来るまでの間に色々なことを考えてしまった。

 駐車場に入ると私はヒカリくんをチャイルドシートから下ろした。とりあえず昼食にしよう。

 そして……。それが済んだら京極姉妹に会いに行こう。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ