40.裏月 ヘカテーブレイク⑤
百華さんと打ち合わせをした翌日、私と大志は札幌のイベントに参加した。
「えーと、残念ながらジュン不在だけど……。気合い入れて行こう……」
「なんだよお前? 元気ねーぞ?」
「ん……。んな事ないんだけどさ……。なんか拍子抜けしちゃって……」
正直な話、ジュンが居ないステージというのは気が抜けた。
大志1人では不安という訳では無い。
でも何となく気が抜けてしまった。
「気持ちは分からんでもねーけど、本当に気合い入れっぞ! 再起かかってんだから!」
「だね! うん、頑張る」
大志にはそう言ったものの、やはりジュンが居ないのは不安要素が大きい。
今まで何回か他のバンドのベースと組んでみた事があったけれど、ジュンほどのベーシストは居なかった。
ステージセットは屋外らしくコンパネ類と鉄パイプで造られていた。
今回のイベントは4組ほど参加するようで、私たちの順番は思わず最後のようだ。
「あー……。例によって大トリね」
「なんだよ? なんか問題でもあんのか?」
「いやさー……。なんとなく気が引けるっていうか……」
我ながら歯切れが悪い。悪すぎる。
せっかくの久しぶりのステージだというのに私は乗り切れずにいる。
そんな私の様子から察したのか大志は私の頭を思い切り小突いてきた。
「痛ってー! 何すんだよ!?」
私は頭を押させながら大志を睨んだ。
「どうだ? ちったー気合い入ったか?」
「暴力反対! どんな理由があろうと女に手を上げる男はサイテーだね!」
「ハハハ、そんだけ憎まれ口叩けりゃ上出来だ。んじゃ本番もそれくらいの勢いで行くぞ」
正直に言おう。
その大志の行為をするよりは腹が立った。
手を上げた事に対してでは無い。
うまく言葉には出来ないけれど、子供扱いされたような気がしたのだ。
もう子供なんかじゃない。もう妹みたいなもんじゃない……。
会場はそんな私の気持ちとは裏腹にかなり盛り上がっているようだ。
百華さんの広報活動の賜物だと思う。
「っ!? あーもー!! 無理矢理でも気合い入れて乗り切ろう!」
「だな! ま、気負いせずに楽しめば良いよ。お前はいつもそうしてきたろ?」
大志の言葉はいつも私を奮い立たせてくれる。
出来れば、もう少しオンナとして扱って欲しいという欲はあるけれど……。
ライブは予想以上に盛り上がった。
会場に詰めかけた観客たちは私の演奏を楽しんでくれたし、中には私の名前を知っている人間も居た(まさか札幌で『ウラちゃーん』と呼ばれるとは思わなかった)
「2人ともお疲れ様! すごく素敵だったよぉ」
ライブ後、控え室で休んでいると百華さんが様子を見に来てくれた。
「ありがとうございます! 久しぶりにステージ出来て本当に嬉しかったですー」
「いえいえ、こちらこそ。2人が喜んでくれたならそれが一番だよ」
百華さんが神様のように見えた。
再起を機会をくれる女神――。
ライブを終えた私たちは都内へとんぼ返りした。
大志には仕事もあるし、私自身も生活の為のアルバイトが待っている。
札幌でのライブは思いのほか、全国的に反響しているらしい。
YouTubeの動画の再生数も日に日に伸びたし、百華さんの話だとイベント会社に私たちのバンドの問い合わせが多数あったようだ。
それの様子は再起動するための胎動のように感じた。
そして……。
その予感は予想以上の成果を私たちにもたらした。




