お付き合い、はじめました
side.T。バカップルの攻防戦、はじめました。
「よ、よろしくお願いします」
「よろしく…って、これ何度目?」
笑う声はとても機嫌が良さそうで、珠稀もつられてはにかむ。
…とはいえ、これからどうすればいいのかわからない。
当たり前だが、珠稀は男の人…まぁ、男の子もだがー…と、付き合った経験はない。
それが『はい、付き合いましょう!』で、あっさりと変われるはずもないのだ。
自分の│家にいながら、アウェイ感に苛まれる珠稀は、折りたたんだままの足の上で、もじもじとお尻を動かす。
正座を崩すのもろくに出来ない珠稀は、直の動き一つにしても緊張してしまっていた。
「タマ」
「ふぁいっ!?」
「そこまで緊張しなくてもいいだろ」
気合いが入りすぎて変な返事をした珠稀に、直は苦笑して頭を軽く叩く。
ぽんぽんと軽い調子で叩かれた後、短い前髪を指先で整えられる。
くせでも付いていたのかもしれない。
硬直したまま、されるがままになっている珠稀はそんな風に思っていた。
やがて手ぐしでクセが直ったらしい前髪から、指がスルッと滑り降りる。
今度は手の平全体で頬の弾力を楽しむように何度も撫でさすられ、珠稀はくすぐったさに思わず顎を引く。
「直さん…」
「何?」
「喉、鳴りませんよ」
スリスリと撫でていた手を首から離して、彼は何も言わずに笑った。




