表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
黒の矜持  作者: 川端マレ
第三部 グローテハーフェン編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

88/88

番外編③

※本編に一切影響のない別軸のお話です。

 多忙なジークフリートは珍しくこの日、社交場へ顔を出していた。

 公爵家嫡子として、このような場に出るのは務めのひとつなのだろう。


 黒い軍の礼装で現れた彼は、その立ち振る舞いと地位で、計らずも注目を集めるのだった。


 西の領主の伯爵が、傍に令嬢を連れて、ジークフリートへ声をかける。


「これはこれは、アイゼンブルク公子」


 ジークフリートは無害そうな笑みを浮かべ対応する。


「お初にお目にかかります。ナハトシュテルン伯爵」


(伯爵の治める地域では織物が盛んだったな……)


「こちらは娘のイゾルデです」


 紹介されるとイゾルデは、品の良い所作でスカートの裾を摘み、優雅に一礼した。


 ジークフリートは笑顔を返すと、娘イゾルデを観察する。

 ドレスと接する箇所の不自然な肌の荒れ、更に、それを隠そうとした化粧の跡に目をやる。

 そのまま、着ている青いドレスを凝視する。


 その意味をどう捉えたのか、伯爵は「後はふたりで」とにこやかにその場を去る。


 ジークフリートは、人好きのする笑顔でイゾルデに話しかける。


「その青いドレス。あなたの地域で染められ、作られたドレスかな?」


 香水の奥にまぎれる金属の香りに、短くすんと鼻を鳴らす。


(青いドレスか……)


 ふと脳裏に西の領内で最近流行っている皮膚病の噂がよぎる。

 ジークフリートの温和な声色と表情に、顔を赤らめながら答えるイゾルデ。


「ええ、こちらは今、父が精力的に取り入れている染料で、お国の貿易にもきっとお役に立てると思います」


「なるほどなるほど、それは真剣に検討しないといけないね」


 イゾルデは上目遣いでジークフリートを見つめた。


「アイゼンブルク公子にお話を聞いていただけて、嬉しく思います」


 爽やかな笑顔をたずさえジークフリートは見つめ返す。

 だが、その一時の後、すっと細められたグレイシルバーの瞳は鋭さを灯す。


「あなたはその広告塔ってわけか」


 その言いようにイゾルデは驚き、目を見開いた。


 ジークフリートは含み笑顔で、軽快に言葉を並べていく。


「あなた、そのドレス似合っていないよ」

「それに、化粧の厚塗りも肌に悪いから止めたほうがいい。あはは」


 ひどい言葉の羅列にイゾルデは怒りを滲ませ「なっ……」と、ふるふると震える。


 何か粗相があったのかと、慌てて戻ってきたナハトシュテルン伯爵に、ジークフリートは声色穏やかに耳打ちする。


「目を引く色に、迂闊に手を出したら痛い目を見るよ。ほどほどにね?」


(俺は社交界仕様じゃないと知っていただろうに)


 ジークフリートは、口元に穏やかな微笑みを浮かべたまま、手袋をはめた右手を胸元に当て優雅に礼をすると、その場から姿を消した。


 こうしてジークフリートはまた女性に嫌われ、社交界で浮く存在となっていく。


 誰もいない廊下をひとり歩くジークフリート。


(これで彼女はあのドレスを着なくなるだろう、まあ、恨まれても仕方ないか)

(社交界の同情の目は彼女に向いていた。その点は大丈夫だろう)


 コツコツと靴音だけが響く廊下を進みながら淡々と考えていた。


 その夜、ジークフリートは青い染料について調べる。

 それがどこで集められ、生産されているのかを調査するのだった──


 ※本編にイゾルデとナハトシュテルン伯爵は出てきません。

 ※この番外編に登場する青色加工は、本作世界特有の技術設定です。物語としてお楽しみください。


追記:『社交界』『貴族の社会』にジークフリートを混ぜたらどうなるかなー?の軽い気持ちから生まれた番外編です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ