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黒の矜持  作者: 川端マレ
第二部 エルデンシュトラ編
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第十九話 主と屋敷

 皇帝陛下により粛清された貴族の屋敷──


 現在一時的にエルデンシュトラ地域の駐屯軍による、暫定管理がなされていた。

 警備兵は一応常駐している。だが、配属されているのは最低限の人員だけだった。

 

 屋敷の門には、帝国軍の軍旗が掲げられ『帝国駐屯軍管理下』の札がぶら下がっている。

 屋敷で使用人をしていた者は、貴族の罪を背負わされるのではと逃亡し、行方をくらます者もいた。

 混乱の最中、現地の駐屯兵に捕まり処刑された者もいたため、敷地内は今も血の気配を残している。

 

 苛烈な惨状の屋敷も、日を跨ぐと緊張感が薄れる。

 この地域はこれほどまでに、他者に対しての興味が薄い。

 

 旧伯爵邸の門兵を任された若い兵士二人も、緊張感はないのだろう。私語にいそしんでいるようだ。

 

「中央から大隊が、近日中に来るらしいな」

「先発隊は明日の朝到着だろ?公爵家の少佐殿の本隊は数日後って所か?」

「エリート将校様がこんな辺境の地にやってきて、何をしようって言うのかねぇ」


 そんな緩み切った現場の空気を変えたのは、現状確認のために現れたゲルハルト・ブロイアー大佐だった。

 

「俺の隊の末端の兵士がこんな態度だったら、即、罰を与えるのだがな。ハハハ!」

「お前たち、俺の隊じゃなくて良かったな」


 豪快に笑う大佐に、身を縮こまらせる若い兵士二人。


「中央を貶す暇があったら、しっかり警備をするように」


 そう告げると、屋敷の門を潜り抜け、二十名ほどの兵士を引き連れ中へ入っていった──


 屋敷内に入ったブロイアー大佐は、部下に手短に指示を与える。


「現物は全部リスト化しろ。部屋の用途も報告に残せ。書類は俺の机に集めろ、順に精査する」


 大佐の言葉を受けると、即座に部下達は、各自の任務へ就くために分散した。


 ブロイアー大佐は、ジークフリートの第十三特務大隊が、この屋敷を軍事転用すると情報を手に入れていた。

 到着する前に確認しておきたいことがあったのだ。

 

 ジークフリート少佐は、公爵家出身のエリート軍人。

 国家中枢の不都合があると、それを抹消する人物。

 人心を顧みず、無慈悲な対応をするとブロイアー大佐の耳に入ってくる。

 このエルデンシュトラに来たのも、人道に反する行いをする為に来ているのでは?と考えている。

 

 ブロイアー大佐は、机上の論では動かない現場肌の軍人だ。

 政略的なことは専門外だが、不正が行われようとしているのであれば、それを止めなければいけないと思っている。

 

 一人、屋敷内の執務室に移動したブロイアー大佐は、貴族が使っていたキャビネットや本棚を調べていく。

 貴族の手帳に記された『使用人の処刑』という一文を見て、ブロイアーは眉をひそめる。


「何でもかんでも、切り捨てていいわけじゃねぇだろ……」

「本当にこの国の人間は、どうなっちまってんだろうな」


 ブロイアー大佐が連れてきた部下は皆優秀で、指示された情報を書き留め、それを次々と大佐のいる執務室へと提出していく。

 

 一人の部下が書類の提出と共に、鍵を連ねている輪の中から、ひとつの銀色の鍵を手渡す。


 「こちらの鍵ですが、どの部屋とも合わず確認が取れていません。いかがしますか?」

 

 ブロイアー大佐は、差し出された銀色の鍵を、受け取り指先でつまむと、それを目線の高さにあげた。

 鍵の裏と表、鍵山からキーヘッドに施された装飾まで、隅々と見て観察する。

 

 それは古びた鍵だが、貴族趣味なのだろう細工が綺麗に施されている。

 造りが粗雑ではないため、見過ごすこともできず、ただすぐにわかる物でもなさそうだ。

 

 用途がわからない鍵を、このまま置いていくのも何故か悪い予感がし、ブロイアー大佐はそのカギを胸ポケットにしまう。


「鍵の使えそうな場所を見つけ次第、報告しに来い」と指示をした。


 ──そして、屋敷で調査を始めて数刻。

 空高くにあった太陽はすっかりその姿を消し、深い藍色の空には満月が煌々と存在感を表している。

 

 暗闇の中、遠くから馬蹄の地響きが、空気をわずかに震わせた。

 その気配に、門兵をしていた駐屯兵も、背筋が冷えるような感覚を覚え緊張する。


「第十三特務大隊の先発隊は明日の朝到着だよな……?」


「ああ……どこの隊だ……」


 門兵は互いに確認した後、こちらへ向かってくる土煙をただ見つめる。

 

 やがて帝国軍服を纏った黒い集団の姿が現れた。

 隊を率いてた少尉が門兵に告げる。

 

 「アイゼンブルク少佐より本邸を、第十三特務大隊所轄とし、指揮、収容拠点に転用する」

 

 その報告と同時に、黒い一団は動き出し、軍旗の入れ替えが始まり、門の札には新しく『第十三特務大隊・管理地』と掲げられる。

 

 門の札が音を立てて掛け替えられた瞬間──この屋敷の『主』が変わったことを、誰の目にも明らかにした。


 門兵の手元がわずかに震え、互いの視線が交差するも声を上げず、その様子を見ている。

 ただ、静かに、主が変わったことを悟るのだった。


 外のざわめきに気が付いたブロイアー大佐は、窓から確認する。

 

「少佐殿は動きが早いな。まるで全て読んでいたかのように動いてやがる」

「現地が信用ならんのか、何か隠したいもんがあるのかねぇ……」

 

 ひととおりブロイアー大佐の隊で集めた情報を纏め、大佐は執務室のソファに重たく腰を下ろすと、腕を組みゆっくりと目を閉じた。

最後まで読んでくださりありがとうございます。

彼らが何を選び、どう進むのか、見届けていただけたら幸いです。

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