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黒の矜持  作者: 川端マレ
第二部 エルデンシュトラ編
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第十八話 二択の質問

 現地での任務を確認する為、将校用の馬車へ乗り込んでいた、アンネリーゼとリオラ曹長。

 次の休憩で馬車が停まるまでは降りる事は出来ず、車内は身分と立場が様々な者がいる事で、異様な空気感に包まれていた。


 そんな中、リオラ曹長は直属の上官二人と、密室で数時間も過ごすのは緊張を強いられ、胃に穴が開きそうだった。


 ジークフリート少佐は、人を試し、翻弄し、心情を無視して命令を下す。

 ハインリヒ大尉は、いつも無表情で、業務以外の言葉を発している場面を見たことが無い。

 

 それでも自分以上に、心細い状況に置かれているアンネリーゼの傍に、一緒にいてあげたいと思うのがリオラ曹長の、強さと優しさなのだろう。


 しかし……本音を隠す事が苦手なリオラ曹長は考えてしまう。


(地獄すぎる……)


 そう思うと、自然とため息が漏れてしまう。


 そんなため息に、すかさず気がついたのはジークフリートだった。

 それまで窓の外にあった視線を室内に移し、横目でリオラ曹長を見る。


「居心地悪いんだ?」


 ふっと悪魔的な笑みを浮かべるその表情から、それが答えを分かった上で投げられた皮肉だと、すぐに察せられる。


 リオラ曹長は、出来れば空気の存在でいたかった……。

 ジークフリートに話しかけられると、弱みを掘り起こされ、任務を与えられるのでは?と生きた心地がしなくなる。


 ツーっと背中に冷や汗を感じながらも、上官の問いかけを無視する訳にもいかず答える。


「私の居心地がどうかは、お構いなく……」


 リオラ曹長は、そう言うとなるべく話が続かないように、視線を窓に投げた。


 その二人のやり取りを、無表情に聞いているハインリヒは、自分が捕まらなくて良かったと思う反面、リオラ曹長を生贄にしてしまったかのような、関係もないのに妙な罪悪感を抱いていた。


 緊張漂う空気の中、ジークフリートはひとり楽しそうに話し始める。


「あはは、話しかけられたくないんだ?」

「これは、早急に部下と親睦を深めないといけないね」


 笑顔の中、相手を試すように目を細めた。

 ロシアンルーレットの状況に置かれる、ジークフリート以外の三名は気が休まらない。


 親睦を深める事が、まず罠だ、と考えるハインリヒとリオラ曹長は空気になる事に徹する。


 そんな二人の様子に、なんとなく深入りしてはいけない雰囲気を感じ、アンネリーゼは目を伏せる。

 そして、この状況を作り出している諸悪の根源である、ジークフリートをチラっと見ると、目が合ってしまった。


(あっ……)


 嫌な予感がする……そう思ったと同時に、斜め前に座るジークフリートの声がアンネリーゼを捕らえる。


「なんか、二人は親睦を深めたく無さそうだから、アンネリーゼ」

「あなた、俺の質問に答えてくれる?」


 笑いかけるジークフリートのその表情は穏やかだが、グレイシルバーの瞳の奥底は鋭く、逃げられそうにもない。


 アンネリーゼはこうなったら答えるしかないだろう。と腹をくくり返事をする。


「どんな質問でしょうか……?」


 そう答えつつも、何を聞かれ、そして、返答次第では自分の立場が危うくなるのでは?という不安を覚えていた。


「難しい事ではないよ”はい”か”いいえ”の二択で答えて」


 自分で言葉を選ぶ様な質問ではないのか、とホッと安心したのも束の間、すぐに質問が飛んでくる。


「昨日はちゃんと寝られた?」


 ジークフリートの表情は、笑顔から無表情に切り替わっており、その意図が読めない。


 日常の質問から始まったことで、アンネリーゼは本当に親睦を深めようとしているのだろうか?と考え、返答する。


「はい、寝られました」

 

 その返事に、ジークフリートがふっと笑う声だけ漏らすと、次の質問がすぐになされる。


「今回の任務は緊張している?」


 アンネリーゼは、あえて質問にして回答させることで意味を持っているのだろうか?と深読みする。


「はい」


 そう答えると、ジークフリートの意図を読もうと、観察するように目の奥底をじっと見る。


 アンネリーゼの視線の意味をジークフリートは受け止めた。


(へぇ、こちらを逆に読もうとするのかぁ、楽しみだな)


 ジークフリートは表面的な態度を変えず、そのまま第三問目を出す。


「タラモンの通訳の件は、マティアスに話してきた?」


 その質問に、アンネリーゼは驚くように目を大きく見開くと、すぐに寂しそうな表情に変わった。

 そして、返事はか細くなってしまう。


「はい……」

 

 アンネリーゼの中で、自分の決断で父親を悲しませてしまったこと、心配させてしまったこと、それでも送り出してくれた父親を想うと胸が痛くなる。

 彼女の中に、色々な想いが消化しきれず残っていた。


 アンネリーゼのその表情を見ていたリオラ曹長は、遠慮気にジークフリートへ異議を唱える。


「少佐……これは親睦を深めるどころか嫌われます」


 そのリオラ曹長の言葉を受けると、ジークフリートは笑い出す。


「あはは、嫌われるのは困る。本末転倒だね」

「リオラ曹長の頑張りに免じて、今回は、これくらいで勘弁してあげる」


 小さく息を抜くように笑うと、ジークフリートは窓枠に肘を置き、頬杖をついて窓の外を眺めた。


 3つの質問の返答で、ジークフリートはアンネリーゼが、その場の気配を感じ取ろうとする人物である事。

 感受性は豊かでも、それを常に引きずるわけではなく、緩急のさじ加減は取れる事。

 マティアスに話したという事は、父親である彼は必死にアンネリーゼを引き留めただろう。

 それでも、任務に従事することを選んだ。

 そして、ジークフリートが選んだリオラ曹長は護衛という役割を、心身ともに保護できそうだと確認できた。

 

 ──馬車はいつしか深い森を抜け、景色が広がる。

 鋭く立ち上がる灰色の山肌は、まるで試される者を拒むように、険しい坂が続いている。

 それでも、馬車はその道を止まることなく進んでゆく──


最後まで読んでくださりありがとうございます。

彼らが何を選び、どう進むのか、見届けていただけたら幸いです。

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