黒髪の魔女の話
さてさて、遠目に王国軍が見えてきたな?
さすがにあれだけの帝国兵を連れているために進軍が遅い。
これは、あと二日くらいはかかるかな?
さて、どれくらいのタイミングで帝都で騒ぎを起こそうかなあ?
俺も宮殿でやることがあるから、タイミングバッチリとはいかないかもなあ…
まあ、ここまで来たんだ。なるようになれだ!
Side 帝都
「なんだなんだ?今日はお祭りなのか?
変なのが楽器を鳴らして行進してるけど?」
「こっちでもかい?さっき、あっちの通りでも見かけたよ?」
「まあ、お祭りなんだろうさ。なんのお祝いなんだろうかねえ?」
「さっきから衛兵さんたちも見かけないし、なんだかおかしな祭りだねえ」
「でも、子供たちに飴やお菓子を配ってる姉ちゃんたちもいたぞ?」
「それも籠一杯だったよなあ?
あれだけあれば、帝都中の子供のおやつは賄えるな。ははっ!」
「城門まで続いてるって話だよ、この行進。
しかもそこで止まって、楽器を適当にかき鳴らして踊ってるんだってさ」
「まったく、愉快なお祭りだ。金もかかってるのかねえ」
「そら、これだけの大騒ぎさ、金もかかってるだろうさ」
「まあ、今は戦争のことも忘れて、お祭りを楽しもうじゃないか?」
「それもそうだな、ガハハ」
「お、おい!戦争に出ていたはずの帝国兵が戻ってきたぞ!
そ、それも王国兵に捕まっている状態らしい!」
「なんだって!?うちの子は無事だろうか?」
「そ、それが全員無事らしい!ほぼ無抵抗で捕まってるってよっ」
「あの数の帝国兵を無力化したってのかい!?王国兵はとんでもないね…」
「もしかしてだけど、このお祭りも王国兵の仕業なんじゃ…?」
「そんな馬鹿なことがあるかい!?」
「で、でも実際に、城門まで続いてるんだぜ?この騒ぎは」
「どうなってるんだい、一体…」
Side 帝国宮殿
「だ、大臣殿!大変です!帝都で大騒ぎが起こっています!」
「なんだと?何が起こっている?」
「謎の集団が楽器をかき鳴らし、子供たちに飴やお菓子を配っているそうです…」
「はあ?衛兵たちはどうしている?なぜ動かぬ!」
「それが、衛兵たちの姿がどこにもいないのです…」
「一人もか!?」
「数人はいるそうなのですが…
目撃情報では止めようとした衛兵が謎の集団に飲み込まれ、消えたと…」
「なんだそれは!?馬鹿にしているのか!
ワシは皇帝陛下に何でもいいから動かしてもらえる様に頼んでくる!
お前はその騒ぎを止めるように動け!」
「は、はっ!」
くそっ、何だというのだ!
もうじき、あの国がワシのものになるというのに!
そろそろ戦場からの報告が来てもおかしくないのに、その伝令も来やしない!
どいつもこいつもワシを馬鹿にしおってからに!!
ワシは皇帝の私室に赴き、人払いをする。
「おい、皇帝起きろ!一大事だ!」
「お、おぉ。大臣じゃないか?一体どうした?」
「兵を貸せ!近衛でも私兵でもいい!」
「近衛は動かせぬ。私を守ってもらわねばならぬからな…」
「なら、私兵だ!私兵くらいいるだろう!?」
「私兵などおらぬよ。そのような余分な兵など持たぬ」
「かー、この役立たずめ!
この帝都が攻められているというのに、守るための兵もおらぬのか!」
「大臣、お主が言ったのではないか。全兵力を持って、王国軍を倒せと」
「馬鹿が!本当にすべての兵を戦場に投入する奴があるか!」
「それよりも大臣。そろそろ薬の時間じゃないか?」
「ちっ!ああ、そうだな。お前の薬の時間だな。
ったく、そろそろこいつにも死んでもらうか?」
「死んでもらうとは、穏やかではございませんね?」
「だ、誰だっ!?」
「まったく。随分と身体を毒されていること…
このままでは命も危ないほどですわね?」
「誰だと聞いている!ここは皇帝陛下の私室なるぞ!!」
「うるさい豚ですこと」
「ワシを、豚じゃと…!ええい、近衛は何をしておるか!!」
「あなたが誰も部屋に入れるなと言ったではないですか。
まあ、おかげで楽に侵入できましたが」
「くっ、だ、だれかっ!」
「はあ、騒がれても困ります。お黙りなさい」
「んん!んぐっ!?」
「黙って、地面に、這いつくばっていなさい」
「んん!?」
「まったく、手のかかる豚ですこと」
「さて、それでは皇帝陛下?診察させていただきますわよ?」
「あ、ああ。たのむ」
「複数の薬で思考能力を奪い、魔法で体力の低下、免疫力の低下を誘発。
そこにさらに呪術ですか。今も呪術部隊は動いていると。
ドール、潰してきなさい。
捕らえたら枷を嵌めて、地下牢獄へ連れていきなさい」
『了解しました』
「さて、皇帝陛下。こちらの薬をお飲みください。
意識がはっきりして、体力も少しは戻るはずです。体調も回復すると思いますわ。
呪術の方はわかりませんが、きっとよくなるでしょう」
「お、おぉ…」
「ゆっくりでいいですわ。ゆっくりとお飲みください。
今は、嚥下能力も下がっているはずですからね」
「ふぅ。其方に感謝を。意識がはっきりとしてきた…
失った体力までは戻る気配はないが、体調は随分といい。不快な感覚も消えた」
「それはようございました」
「それで?陛下、今までのことは記憶にありますか?」
「ああ、ある。今は多少朧気な感覚ではあるが…
あの大臣が私を裏切ったことだけはしっかりと覚えておるよ」
「じきに記憶の方もはっきりとするでしょう。
現在の状況も理解しておいでですか?」
「ああ、私は取り返しのつかぬことをしたようじゃな」
「そこまで理解できていれば大変助かりますわ」
「もしや、其方は王国の者なのか?」
「詳細は言えませんが、その通りです。
皇帝陛下の現状を把握し、今回の件もすべて把握しているつもりです」
「そうか。和平交渉に動かねばな。その前に、そこの豚だけは処分しなければ…」
「んん、んぐっ!」
「皇帝陛下、失礼ながら申し上げます」
「なんだ?」
「そのような豚の血で、この美しい宮殿が汚れるのは私の本意ではございません。
よければ、こちらで地下深くの牢獄にて預かりましょう。
一生魔力を吸われながら、生命活動だけを維持して、意識を保てないままに」
「そこには誰かが助けに入る隙はないのか?
それと一生と言ったな?肉体が滅ぶまで魔力を吸い続けるのだな?」
「隙などありません。入ったら最後、誰にも管理されませんから。
生きるための最低限を薬で生かしています。
生かさず殺さずを体現した牢獄でございます」
「ほお?そのような恐ろしい牢獄を所有しておるとは。其方、本当に人間か?」
「人間のつもりです。この美しさを保つ秘訣ですわ」
「…まさか、魔力で生きているのか?」
「冗談ですわ、ほほほっ」
「…ふふっ、愉快じゃ!それでは、その者の処遇は任せた。
私は戦後処理に動くとしよう」
「簡易的に、ではございますが、交渉担当ももうすぐ到着するでしょう」
「ほお。我が軍は負けたのか」
「ええ。ですが、ほぼ無傷ですわ。兵もお返ししましょう。
こちらで管理できる数ではございませんからね」
「何から何まですまぬ。無血開城といこうかの」
「ええ、それがようございましょう」
「其方、名は何という?」
「今は名もなき、貴族だった者ですわ」
「ほお?それだけの美しさ、知性に力も持っているというのにか…」
「力とは、持っているだけでは、ただの暴力ですわ。
それを正しく扱う知性が必要であります。
その上で、周囲を魅了する美しさが世を渡る秘訣ですわ」
「ふふっ、本当に面白いな、其方は。いつか絵姿を描かせてはもらえぬか?」
「…ええ、いいでしょう。『帝国に』貸し一つで、承りましょうか」
「私個人ではなく、この『帝国に』貸し一つか。
よかろう、其方の名を知るためだ。それくらいの代償は惜しくはない」
「では、またいずれお会いいたしましょうか。
ああ、そこの豚を持ち帰らないとですわね。ドール、お願いね」
不思議な扉を開き、現れた配下と共に豚を連れて、女はこの部屋を去った。
そして、間もなく近衛がやってきた。
王国兵が帝国兵を連れて、無血開城を求めていると。
ここまで早いとは。どこまで思慮深いのだろうか、あの女は。
私は身体の調子を確認して、声を張り上げる。
「丁重に迎えよ!大事な客人だ!和平交渉の前哨戦と思え!!」
翌年、和平交渉の会議の場で誓約書を互いに確認し終わったところだ。
そんなところに王国の王太子が静かに近づいてくる。
「なにかな?王太子殿」
「いえ、絵姿に夢中になるのはいいですが、声は控えたほうがいいですよ?
すでに宮殿内の一部の侍従たちの噂になっていますよ?」
「なっ、何を!?」
「ふふっ、私の妻が戦場の場に出ることになったのです。
このくらいの仕返しはいいでしょう?」
この国は恐ろしい情報網を持っているようだ。
この先、帝国はこの国に手を出すことはないだろう。
あの絵姿と共にそのような話を残すとしよう。
いい子にしていないと、『黒髪の魔女』が来て、地下の牢獄に連れていかれると。
逆に、いい子にしていれば、どんな願いも叶えてくれると。
次でたぶん最後です!
うーん、筆が乗るとネタ帳に書いてある話と話のテイストがガラッと変わってしまうなー。
この辺は自身の癖なのかもしれませんね。
それがいいという人もいれば、ちゃんと話の構成を組んでから書けよっていう派。
あなたはどっちですか?
大筋さえ守っていればいいかなーとは思ってはいるんですけどね、自分は。
では、サクサクと最終話を書きましょうかね!ネタ帳にはおおむね書き終わってます!
しばらくお待ちください!




