戦場を包む霧
Side コルネリウス
今日はかなり風が強いな。
陣を出てから、敵とにらみ合う。
敵陣から一人の屈強な大男が出てきた。
暑苦しそうな奴だなと思いながら、大男が口上を述べる。
「我が帝国臣民を虐げる、卑劣な王国兵よ!
俺は逃げも隠れもせぬ!誰ぞ、俺と一騎討ちを望む!」
馬鹿馬鹿しい口上を聞いて呆れる。
何が虐げるだ、お前たち自身がやっていることではないか。卑劣なのはどっちだ。
だが、ここで一騎打ちを仕掛けられた以上、応えねば王国軍の名折れである。
誰をいかせるか。
「殿下、私がいきましょう」
「大将か、任せてもよいのか?」
「ええ、お任せください。あのような大男と戦えるのを楽しみにしていたのです」
「そうか。では、頼んだぞ」
「私のコンボを、あの大男に叩き込んで見せましょう!」
「こ、こんぼ…?」
最後の言葉に困惑しながら、大将を見送った。
頼んだぞ、大将。
俺はこの一騎打ちで何が起きてもいい様、参謀に念のための指示を出しておく。
「我こそは王国軍の大将なり!
貴様たちの自国民への卑劣な行いこそ、許せるものではないぞ!」
「何を言うか!
帝国の臣民を国へと入れながらも、殺害しているのは貴様らではないか!」
「もういい!口上はここまでだ!貴様との一騎打ち!私が勝たせてもらう!」
「抜かせ!貴様のような矮小な身、捻り潰してくれるわ!」
二人の口上が終わり、一騎打ちが始まる。
今のとこ帝国軍が動く気配はない。本当にただの一騎打ちなのか?
疑問に思いながら、二人が動くのを待つ。
風が吹く。
小石のような何かが浮いて、地面に当たりカツンと音を立てる。
その瞬間、二人が動く!
馬上の二人が思い思いに武器を振り回し、ぶつけ合う。
大男が身の丈もある大剣を振り下ろし、大将が太い突撃槍でその攻撃をいなす。
大男の大剣が地面に深く刺さり食い込む。
その隙を逃さず、突撃槍を突き出す大将。
だが、恐るべきことに、あの大男は素手で突撃槍を掴み取ったのだ。
大将の手から槍を奪い取り、それを遠くに放り投げる。
互いに無手になり、馬上から降りる。
「ふふふ、やるではないか。大男」
「貴様もな。王国軍に置くにはもったいない力だ。
どうだ、帝国につかぬか?王国では決して出来ぬ、いい思いが出来るぞ?」
「断る!私には仕えると決めた『姫殿下』がおられる。
貴様らの非道な行いを一緒にしていると知られれば、きっと悲しまれる」
「ほお?『姫殿下』と来たか。さぞ美しいのだろうな。
蹂躙するのが楽しみだ、はっはっは」
「貴様のような者に『姫殿下』を渡すわけにはいかぬ!
身命をもって、貴様を止める!!」
「いいぞ!もっと、もっとだ!この俺を楽しませてみな!!」
「いくぞ!ぬおおおお!!」
二人が素手で殴りあう。
大将が身長差で苦しそうだ。だが、何か秘策はあるようだ。
先ほどから動きに何かを誘う仕草を感じる。
ここで大男が大振りな拳を振るう。
それを待っていたかのように大将が動く。
俺は何が起きたのか一瞬理解できなかった。
大将が大振りの拳をいなしたかと思った。
勢いよく相手の脇に肘を打ち込み、その後、潜り込んでから掌底を顎に入れた。
相手の大きな身体がぐらついた。
正面に回り込み、的確に人体の急所を殴っていく。
腕を掴みながら鳩尾を拳を捻じ込む様に殴り、首に二の腕をぶつけ吹き飛ばす。
一連の攻撃を流れるように行った大将。
これが彼が言っていた『こんぼ』なのだろうか?
「ふむ。やはり実際に使ってみると、違和感があるな。
今度、使用感を感想で送っておこう」
何やら呟いていた大将だったが、ここで帝国軍に動きがあった。
奴ら、矢を一騎打ちの場に放ち始めたのだ。
くそっ!味方もろともか!
ここからでは援護が間に合わぬ!どうする!?
大将は風の魔法で自身を守りながら、必死に拳で矢を叩き落している。
そのとき、胸元から声が聞こえた。
『まったく、帝国軍はホントに品がないわね…
大丈夫よ、コルネリウス。私が彼を守ってあげる』
「なっ!?この声は、姉上!!」
声が聞こえてから、戦場に嵐かと思うほどの強い風が吹く。
それも、帝国軍に向かっての恐ろしいほどに強い風だ。
帝国軍からの矢がすべて吹き飛ばされる。
今の内だと思い、大将に向かって大声をあげる。
「大将、戻ってこい!お前の『姫殿下』の風だ!!」
「なんと!?ただちに戻ります!!」
風は大将が無事に戻るまで吹き続けた。
大将に向かって放たれる矢は、一本たりとも彼には届かなかった。
『ふふっ、無事に戻れたようね。『軍曹』さん?』
「その声は、『姫殿下』!?い、今どこに?!」
『姫殿下?…なんのこと?まあ、いいわ。
コルネリウス、『少しだけ』手伝ってあげるわ』
その瞬間、帝国軍が深い霧に包まれていく。
こちらには温かい風が吹いている。
だが、奴らは手がかじかむほどの冷気に包まれているはずだ。
俺は知っている。あの霧はそういう風にできた魔法だからだ。
帝国軍に向かって強く風が吹く。
深い霧に包みこまれた帝国兵の肌にまとわりつく冷たい水分。
それが、風に吹きつけられることにより、体温をさらに奪うことになる。
もう、まともに武器が持てないほどだろう。
「姉上の得意魔法のアイスミスト…」
『おまけでパラライズもお見舞いしておいたわ。一人残らず動けないはずよ。
仕込み歯を抜いてから、全員無力化なさい。
その後は帝国に向かって、無血開城なさい。手筈は整えておくから』
「姉上はなぜ、ここまでするのですか?」
『昔、約束したでしょ?大事な時には助けるって。それだけよ。
まあ、帝国の方は密約に関係するのだけどね』
「約束はわかりますが、密約とはなんですか?!」
『国に帰ったら、お父様とお兄様に聞いてごらんなさい。
じゃあ、先に帝国に行っているわね?なるべく早く来なさいよ?』
慌てて胸元からネックレスを取り出し、話しかけるが、もう声は返ってこない。
「姉上っ!」
「殿下っ!『姫殿下』が姉君とはどういうことですか!?」
「まさか!?いや、しかし、そう考えれば全てが繋がる…?
だが、なぜ姿をお隠しに?」
「参謀殿は何を知っておられるのだ?!話せ!」
「いや、王家には第二王子がいたはずだ。『黒髪』のな。
あの頃は幼少期、女装すれば女児に見えてもおかしくはない。
…それに当時、誘拐事件があったはずだ。
あの時助けられたのは『王女』だと伝えられたが、それもまさか…」
「たしかに第二王子はいたな。いつからか、話題にも上がらなくなったが…
しかし、王家にこんな秘密があるとは。
だが、なぜ隠れる必要があるのだ?それがわからぬ」
「二人とも。『兄上』はこう言っていたぞ。
第二王子の存在に関しては、秘密でもなんでもないと。
いつの間にか、女装を強制されてしまったんだ、ともな。
そのまま存在が忘れられるほどまでに、女装が板についた。
そして、本当に第二王子のことを周囲が忘れてしまい…
王女という印象だけが残ってしまっただけだとな」
「…はあ。真実とはひどいものですな。周囲が忘れるほどだったのですね」
「一体いつから女装させられていたのか、可哀そうに…」
「本人も調子に乗ったせいであるから、自業自得だとも言っていたぞ。
さあ、今はそんなことはいい。
全軍に通達だ、仕込み歯を抜いて、帝国軍を無力化せよ。
その後、そのまま帝国に送り返すために、帝国に向かうぞ」
「はっ!仕込み歯を抜き、帝国兵を無力化。
その後、帝国に向けて出発!了解しました!」
「ふう、軍の方は大将に任せて、ティナ様に報告に戻りましょう、殿下」
「そうだな、この勝利を義姉上にも知らせねば」
陣地の方から伝令が走ってくる。
報告によると暗殺者集団が陣地に侵入しているとのこと。
まったく勝利の余韻にも浸らせてくれぬのか、帝国軍めっ!
義姉上、今行きます!無事でいてくださいよ!!




