エピローグ
アミリア姫とカドリ結婚式は、つつがなくというか、予定どおりに執り行われることとなった。以前宴が開かれた広い中庭で、彼らは大勢の来賓に祝福されながら花びらを浴びる。一国の姫と公爵にしては素朴な結婚式に、この国柄が現れているようなきがした。とはいえ、さすがにこれだけとはいかないらしく、明日には大々的なパレードが行われるらしい。その上、結婚式から三日間は市井に祝いの品が配られるらしく、それと同時に祭りも開催されるとのことだった。
最初結婚を嫌がっていたとは思えないほどに二人は仲睦まじく、求められてもいないのに互いに頬を寄せ合ったり、見つめ合ったりしていた。
「幸せそうだな」
「そうだね」
セシリアとオスカーはそんな宴が行われている中庭の端にいた。
結婚式ということで、今回はプロスペレ王国から持ち込んだ式典服とドレスに二人は身を包んでいる。
もう方々には挨拶を終えており、式に関わることも全て終わっている。
なので現在は、『あとは皆さん、お好きにお楽しみください』という時間だ。
いつぞやの宴のように中央で踊っている人もいれば、お酒が入って声が大きくなっている人もいる。
アミリア姫とリュカはそういった人たち一人一人に挨拶をして回っていた。
「ねぇ。オスカー」
セシリアがそう声をかけると、隣にいる彼は「ん?」と片眉をあげた。
「こういう結婚式がしたいね。こう、みんなが楽しそうに笑い合ってるかんじの」
「……うちでこれをやるのか」
「やっぱり難しいかな?」
プロスペレ王国とマリステラ王国は、文化も風土もかなり違う。厳格で厳かな雰囲気を好むプロスペレ王国に対し、マリステラ王国は自由で賑やかな雰囲気が好まれる。セシリアとしてはプロスペレ王国式の結婚式も素敵だとは思っているが、楽しそうなのはやはりマリステラ王国式の結婚式だった。
オスカーはわずかな逡巡の末、ふっと表情を緩める。
「いいや、やろう」
「出来るの?」
「出来るかどうかわからんが、やってみなくてははじまらないだろう。それに、確かにこっちの結婚式の方がお前らしいからな」
微笑みながら告げられた言葉に、セシリアの胸は温かくなる。
彼が自分を大切にしてくれていることが、これからも大切にしようとしてくれていることが、その一言でわかったからだ。
「ありがと、オスカー」
「なんせ、俺は愛妻家だからな」
なぜか誇らしげに胸を張ったオスカーに、セシリアは堪えきれないとばかりに肩をふるわせる。そうしていると、オスカーが穏やかな声で「セシリア」と呼びかけてきた。
「なに――」
顔を上げた瞬間、なんの前触れもなく唇が重なった。
それは一瞬というには長くて、情熱的というには短い間。
けれど、記憶には焼き付くようなキスだった。
「お前はとりあえず、誓いのキスでそんなほうけた顔をしないようにしないとな」
「……ぜ、善処します」
セシリアは口元に手を当てながら、蚊の鳴くような声でそう言った。
これにて、セシリア・シルビィ完結です~!
また書きたくなったら、書きにきますね~!
皆様どうもありがとうございました!
こちらのオスカールートと、ギルバートルート&二人それぞれの追加話を収録した
『悪役令嬢、セシリア・シルビィは死にたくないので男装することにした。 延長戦!』
が、ビーンズ文庫さまより8月末に出版いたします~!
皆様どうぞよろしくお願いします!