76.オネエは誰も信用できないようです
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上条さん家は高級住宅地の中にあった。四角い建物で窓が細長く中をのぞき込めない。変な形をしていた。
「貴男ね。ウチの娘を泣かせたのは。これだから、トランスジェンダーは信用できないのよ。」
玄関先で母親が立ちはだがっていた。いきなり辛辣なモノ言いだ。
この母親が経営する派遣会社はLGBT界隈では評判が悪い。人不足の世の中でもLGBTを雇用してくれる人間は少ない。トランスジェンダーが本来の生物学的性とは違う姿で雇用してくれる人間は皆無だ。
初めは評判が良かった。トランスジェンダーの雇用先を見つけてくれる。しかし、その実体は相場の2倍以上ピンハネする会社だったのだ。しかも辞めようとすりとトランスジェンダーであること業界へ広めると脅されたらしい。
だがそれもLGBTが世間に認知され、この会社を経由せず勤められるようになったとき、一斉に辞めて行った。未だに残っているのはトランスジェンダーであることをひた隠しに隠している人々だけである。
「それは貴女も同じ。どれだけの仲間たちが身体を壊したか。」
派遣先は介護関連だった。MTFさんが女装のまま、FTMさんが男装のまま入れる職場だったが、その実、必要とされていたのは男の肉体。重労働ばかり担当させられて、腰の故障が相次いで発生したのだ。
しかもセクシャルハラスメントは日常茶飯事、中にはレイプされそうになった子も居るのだ。
「介護だと言ってあったわよ。なめてかかった奴らが悪いだけでしょ。その所為でどれだけこちらが損害を被ったか。」
ああ言えばこう言う。しかも開き直りが激しい。
上条さんの切り替えの早さは母親から受け継いだらしい。幼少の頃は周囲にトランスジェンダーが多かったらしいが、母親が悪口ばかり言うトランスジェンダーのままでいて欲しく無いから、ユウタから俺を引き離そうとしたんだ。そう考えれば納得がいく。
「未払い残業代まであるじゃないですか。もうこれ以上、貴女の自由にさせません。こちらも派遣会社を設立して、貴女の会社に所属しているトランスジェンダーを引き抜きます。」
「それは何よ! ・・・なによ。これ、派遣単価まで載っているじゃない。こんな資料、何処で手に入れたのよ。」
俺が持っていた資料を奪い取るとザッと目を走らせ、引きつった顔を上げる。
「派遣単価など、募集すれば公開する情報でしょ。営業担当なら誰でも知っている情報ですよ。それと貴女の会社の従業員の派遣先を突き合わせれば、自ずと現れてくる。」
これは知り合いの派遣会社のサーバーに蓄積されていた情報と渚佑子さんに調べて貰った情報を表計算ソフトで合成しただけだ。
それよりも未払い残業代なんて何処で調べてくるんだか。これらは上条さんから離れるための最終手段だったのだが、変なところで役に立った。
「貴男はここに何をしに来たのよ。」
「友香さんを含めて、全てを奪いに来ました。」
「トモヒロくん・・・。」
友香さんが飛び出してきて俺に抱きついてきた。
「連れて来たわよ。・・・と言ってもすぐそこの応接間で話を聞いていたけど酷い話ね。会社設立かあ流石に御曹司は違う。」
後ろからアキエちゃんが出てくる。男の娘姿では簡単に通してくれなさそうだったので先にアキエちゃんに入って貰って玄関先に来てくれるように誘導して貰ったのだ。
「何処でそれを・・・。」
「陽子さんがそれは自慢げに話していったわよ。もしかして内緒だった?」
そう言えば陽子さんは五代ダンススクールに通っているんだっけ。
お客様の秘密は何が何でも守るのが信条とか言っていたくせにあっさりとバラされてしまった。全くもう。




