72.オネエは驚愕したようです
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「えっ、本当に来たの?」
母親が突然、授業参観に来ると言い出した。これまで仕事と妹たちの世話に掛かりきりだった母親は、これまで1度だって授業参観など来たことが無かったのだ。
前の父親が保育園の頃、亡くなってからは学校という場に現れたことすら無い。
「嬉しくないの?」
「恥ずかしいよ。」
高校生にもなって授業参観に来る親なんて稀だ。進学指導の時期でも無いってのにどうしたのだろう。
「お母さんのほうが恥ずかしいわよ。先日、先生から学校で『男の娘』になっていると聞いて、どんなに恥ずかしかったか。」
とうとう母親にバレたのである。本人に内緒で親にバラすなんて、モラルハラスメントだ。あの担任め、ハゲだけど性差別をしない良い人だと思ったんだけど間違いだったみたいだ。
トモトモの親に常識があるなんて思った俺がバカだったのだ。
「アタシ言ったよね。今度、映画に出演するって。それで既に知っているもんだと思ったわよ。」
世間の人々が殆ど知っていて母親だけが知らないのは可哀想だと思った俺はカミングアウトしたのである。
「ポスターを見たわよ。クレジットはあったけど、ど真ん中の可愛い女の子が、そうだと思うわけ無いでしょ。端役だと思ったわよ。」
クレジットを見たなら、一番最初に大きく書いてあっただろうが。
「それに父さんに聞いて無かったのかよ。」
「あの人は普段から『可愛い』を連発してるわよ。お義父様のところへ行ったときもすっ飛んで行ったわ。押し倒されないでね。」
ゾゾッ。
「マジか。」
これまで、そんなふうな視線で見られたことなど、数知れないが親父が、あの笑顔の下に、そんなものが隠されていたなんて。
「昔の君にそっくりだねって。今日も家に居て子供たちの面倒を見て貰っているの。助かったわ。」
そういう意味か。ノロケられてしまった。
ようやく教室の扉に到着する。幾ら方向音痴だからって、案内させるなよな。
「はいはい。そんなに睨まなくても父さんにも役職を与えるよ。ほら、ここがアタシの教室よ。」
助かったと言いながら睨んでくる。家でゴロゴロばかりしている親父に飽き飽きしているようだ。
「ここがそうなのね。あの人もこの教室で学んだと言っていたわ。」
実は加納家御用達の学校なのだ。経営にも関わっている。でも方向音痴のくせに良くこの教室と解ったな。
「はいはい、入って。・・・あら。皆、お揃いで。順子先生はアタシの恋人で優子さんはアタシの愛人でトモトモはアタシの彼女よ。」
休み時間中にスマートフォンで連絡が来たので皆、母親を連れてくるのは知っているはずだが、順子さんは自分のクラスは大丈夫なのだろうか。同じ学年だから、向こうも授業参観のはずだ。
優子さんも、もうすぐ休み時間が終わるはずだ。教室は1階上だ。この時間にはいつもなら居なくなっているってのに間に合うのだろうか。
俺の心配をよそに笑顔を振りまいている。正直に紹介してみたが、物凄く嘘臭い。だが嘘を吐けば後で何かと厄介だ。まあ聞かれたとしてもクラスの誰も信じないだろう。
「へえ。これはまたゴージャスな恋人ね。ちゃんと避妊しとくのよ。年下の愛人か。全然見えないけど、実は30代とかじゃ無いでしょうね。」
息子が大人の階段を登ったのは薄々気付いていたらしい。
優子さんの学年が下なのは付けている校章の下のバッチで解る。その雰囲気はやはり年上だと思われてしまったようだ。それでも優子さんの笑顔に変化は無い。怒っても良いところだぞ。嫌拙いか。
「母さん!」
「はいはい。よろしくね。こっちは凄い美少女ね。愛称で呼んでいるということは彼女が本命?」
同じグループになったとき、半ば強制的にそう呼ばされているが何故だろう。
「よろしくお願いします。上条友香と申します。」
上条さんが酷く緊張した様子で自己紹介している。子供たちに取っては怖い母親の面も覗かせるが他の人、特に勤めている病院の患者さんにはすこぶる評判がいい。嫁にはキツいのかどうかは解らないが、彼女たちには笑顔を振りまいている。
「友香さん? トモトモってまさかっ。」
母親の顔が険悪な表情に変わる。上条さんを知っているらしい。おそらく五代さんのいう幼い頃の話だろう。
「母さん。トモトモを知っているのか?」
「あなた・・・知っているわよ。この近辺で有名な美少女でしょ。芸能事務所にスカウトされたとか。」
母親が何かを言いかけて止めた。余程の事情があるらしい。
「言いかけて止めるなんて酷い。どうしてダメというのなら自力で調べるぞ。」
この母親にあんな顔をさせるなんて気になるじゃないか。母と父のことを調べて貰ったことがある。その情報の正確さは知っているはずだ。砂を吐きそうになったけど。
「友香さん。あなたから言いなさい。弁明したいこともあるでしょ。」
「弁明なんて、あの事件は全面的に私が悪いんです。」
「事件なのか・・・。」
「あなたのお父様が亡くなった事件に私が深く関わっているんです。」




