56.オネエは逃げ出したようです
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「レディース、アンド、ジェントルマン。イッツ、ショータイム!」
俺は壇上まで掛け戻り、台本をナナメ読みして頭に詰め込むと『ロリコンオヤジ』から取り上げたピンマイクに向って叫ぶ。
出番は当分先だ。出番までは台本に沿って進めればいいだろう。それに俺が着るドレスやユウタ、ヒデタカ、タツヤが着るタキシードの材質も優子さんから聞き出してある。それに優子さんが饒舌に喋ったところこそが皆に知って欲しいところだろう。
ピンマイクに台本通り喋り出すとようやく舞台が動きだした。
「なによ。これ皺だらけじゃないの。」
俺が舞台裏の通路を使って、優子さんのところまで戻ると悲鳴があがる。
「ゴメンね。なんとかなる?」
『ロリコンオヤジ』に胸倉を掴まれたんだった。後でアイツにも謝らせなきゃな。
「なんとかするわよ。」
ファッションショーはユウタたちに黄色い悲鳴があがる中、何の問題もなく全てのプログラムが終了した。
「最後に総合プロデューサー、兼お針子係りの山品優子さんです。拍手でお迎えください。」
そして最後には舞台裏で頑張ってくれた人々を引っ張り出す。これで全員・・・だよな。この辺は抜かりなく全員の名前を聞き出してあったのだ。
「最高っ。特にチー君が最高! MCにメインゲストに、裏ではてんやわんやで着替えながら、メイクしながら、絶妙なタイミングの進行。本当に大好きっ。」
ありゃっ。優子さんに舞台の上でキスをされてしまった。後ろが怖い。後ろに居るはずの順子さんにも優子さんのような能力が備わったかのようにおどろおどろしい雰囲気が漂ってくる。
ヤバイヤバイ。ヤバイってもんじゃない。俺は優子さんが離してくれた隙を狙って、舞台袖に引っ込む。そのまま男子更衣室に入り、鍵を掛けた。
逃げ出すときにチラリと順子さんの顔を見たが、ギラついた目が怖かった。
なんであの人って、ああなんだろうな。従弟のユウタは冷静沈着タイプなのに彼女は猪突猛進タイプで周囲が見えなくなる。他人のことはどうとでも言えるが、あの人の手綱を裁ききれるだろうか。悪い未来しか見えないよな。
そんなこんなで元の服に着替え終わる。
カチッ・・・。
えっ。更衣室の鍵が外から開けられた。どういうことだ。ここの鍵は内側からしか開かないはず。外から開ける鍵は教職員しか・・・。バカだ俺。扉を開けて入ってきた人物は思った通りの人だった。
「どうして逃げるのよ。」
教職員室まで駆け戻ったらしく汗びっしょりになっている。俺はポケットから出したハンカチで額の汗を拭うと険しかった顔が心なしか和らいだ。気がするレベルかもしれないけどね。
「逃げてないわ。終わったから、戻ってきただけよ。生徒は生徒でも高等部なんだから、喝采を受けるのは優子さんたち中等部の生徒よ。だから先生も戻ってきたんでしょ。」
「むう・・・。」
反論出来ないらしい。
俺はソッと近付くと順子先生に口付けをした。
「なによ。こんなことで誤魔化されるほど子供じゃないわよ。」
「祝福のお裾分けよ。それ以上でもそれ以下でも無いでしょ。あのキスは。」
「むう・・・。」
やっぱり反論出来ないらしい。
「ほら何をしてるの。お返しのキスをちょうだいな。どんな言い訳して鍵を持ってきたかしらないけど、すぐに学年主任の先生がくるわよ。」
あまり、お預けばかりでは可哀想だから、好きにさせることにする。貪るようなキスの後、落ち着いたのか、ソッと離れて俺の顔を見つめてくる。
「ズルい。ズルいわ。何でそんなに冷静なのよっ。」
「そんなこと無いわ。下半身は暴走寸前よ。見栄を張ってるだけ。」
あんなキスをされれば誰だってこうなる。
「そう・・・なの? もうすぐ冬休みなんだし、ゆっくりと旅行でも行こうね。」
例の女装すれば2人で出掛けても怪しまれないという役得の機会らしい。でもなあ。
「旅行ね・・・京都なんかどう?」
さり気なく話を合わせるように提案してみる。
「そうね。2人で舞妓に扮して、お茶屋さんでシッポリと・・・いいわねえ。」
俺も舞妓に変身させられるらしい。舞妓姿で何をされるんだか。
「順子さん。よだれ、よだれ。」
確か女装向けの変身舞妓の店があったよな。お茶屋さんは密室だし、確かにいいかもしれない。俺も男の子だ。エロいことは大好きだ。ただ一方的にエロいことをされる側というのがアレなんだけど。
それに今回デビューする映画は冬休みに京都で撮影するのだ。少しくらい楽しみがあったほうが良いに違いない。
☆
「順子姉。もういいか?」
俺が返事するとユウタたちが着替えのために入ってくる。
「監督さんから伝言。『良いものを見せて貰った。参考にさせて貰う。』だとよ。何のことだ?」
監督さんたちは帰っていったらしい。まあ後は特にみるものもないけどね。
「さあ。映画のエピソードを思い付いたんだろうけど、ファッションショーなんて入れないと思うし、なんだろうね。」




