51.オーガナイザーが来てくれました
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「冗談ですよね陽子さん。このメンバーがアタシのサポートに入ってくるんですか?」
陽子さんから女装イベントの運営に携わるメンバーの提示があった。それには、東京・大阪・名古屋で活躍する女装イベントのオーガナイザーが4人も含まれていたのだ。他にも女装界隈で有名なDJも複数居て、芸能界で活躍する演出家まで居るのだ。
「もちろん必要なければ削っても構わないわよ。」
削れるわけが無い。どちらかといえば不要なのは俺のほうだ。これだけ有名どころがいれば大成功間違いなしだ。
「いや違うでしょ。実績も何も無いアタシにこんな界隈の有名人たちが従ってくれるわけが無いじゃないですか。」
こんな海千山千の人たち、絶対に無理だ。特に女装界隈の有名人は一癖も二癖もある人物が多い。これなら、会社を経営するほうが容易いに違いない。
「言って置きますけど。お金を出して来て貰ったわけじゃないのよ。チーくんが主催する女装イベントがあるって聞きつけてやってきたメンバーなの。」
「えっ。違うんですか。」
てっきり、そうだと思ったんだがな。
「失礼ね。私だって反省するのよ。そう同じ間違いを何度も繰り返さないわよ。」
「ごめんなさい。」
俺は素直に謝る。
「でも気をつけてね。皆、邪な下心を持ってやってきてるかも。特にこの演出家なんてショタで有名よ。」
「荻尚子さんですよね。大丈夫です。」
この人は社長の側近だ。社長の名前を出せば静止できるだろう。それに普通の女性なのだ。組み伏せられることはあるまい。
「知り合いなの?」
「ええまあ。」
確かに全身を舐めるように見られたことはある。ショタなのかもしれないと思ったことはあるが、それを言えばあの会社の人間には多い。何度も女性従業員にお尻を触られた過去があるのだ。
あの会社にはハラスメント防止に関する社内規則が無く、圧倒的大多数を占める女性から男性へのハラスメントが横行している。
被害の大部分を受ける社長が何度も提案しているのだが握りつぶされているのだ。
「まさかもう唾をつけられたの?」
「それは無いです。さすがに母親より年齢が上の女性は対象外ですよ。」
そう言ってしまってから、心の中で汗を掻く。そういえば、この人もうちの母親よりも年上だっけ。タツヤから陽子さんの年齢を聞いたときに驚いたんだった。
「へえ・・・そう。」
なんだろ今の間、心を読まれたかな。まあその程度で諦めてくれるなら、その方がいいよな。
「そうなんです。」
「チーくんのお母様って看護師だったよね。」
なるほど、逆算したのか。普通看護大学を出れば22歳か24歳だ。看護師は忙しいからどうしても晩婚化しているのだが、うちの母親の場合、高等学校5年一貫教育だから卒業時で20歳だ。しかも看護師なりたてのころ父親と出会って俺を産んでいる。
見た目は陽子さんよりも老けているが、年齢は随分下のはずだ。
「へえ凄い夢じゃないですか。凪平さん。」
「えっそうかな。」
早速、1人のオーガナイザーがやってきて、女装イベント運営のイロハを教えて貰った。凪平さんは凄く格好いい女装さんだ。凄いハンサムで界隈の女性や女装さんにモテるのだ。
LGBTに対する差別の酷かった時代はイベント会場の近隣の住民から警察に通報されたこともあったらしい。
その頃は女装するところといえば女装サロンしか無い。しかもメイクの仕方も口伝らしく酷い化粧の仕方だったらしい。だから、女装イベントの会場の周囲を徘徊する魔女の集団に見えたらしいのだ。
自虐的にイベントを陰で女装サバトと呼んでいた時代もあったらしい。
「アタシ応援しますよ。」
凪平さんの夢は、LGBTだけの学校を作ることだそうだ。そのために今主催する女装イベントを大きくしていこうとしているらしい。学校設立のための寄付も集まってきているらしいのだ。
俺が祖父の跡を継ぎ、十分な利益を出せば自由に投資することも可能だろう。こうやって虐げられてきた人たちを応援するのもいいかもしれない。
その後も次々と運営に参加したいという人がやってきては対応していく。
「あっ。パインママ。」
「大丈夫? 無理しちゃダメよ。」
『キャラメ・ルージュ』の控え室を使って打ち合わせをしているのだ。
パインママが俺を気遣って抱き締めてくれる。その大きな胸とお腹に埋もれる。やっぱり大きな胸が大好きなんだなあ。思わぬご褒美を堪能してしまった。
「大丈夫です。」
「失敗しちゃったかな。女優業も大変みたいだし、学業もあるでしょう。『キャラメ・ルージュ』も休まないし、本当に大丈夫なの?」
「いま、やる気が漲っているんです。」
もちろんカノンの件もあるし、文化祭の件もある。大変というよりは充実感でいっぱいだったのだ。
「そうならいいけど。そうそう蓮川さんがいらしたわよ。お通ししていい?」
蓮川さんは東京では老舗中の老舗の女装イベント『メイクアップ・ローズ』のオーガナイザーで凪平さんの師匠にあたる人だ。
「もちろんですよ。」
☆
「なかなか忙しいみたいね。」
蓮川さんは今回のイベントにスタッフも貸してくれる。スタッフには女装さんのDJやVJの他、純女さんのカメラマンやドラッグクィーンのメイクアップアーティストなど、色とりどりのスタッフが揃っている。
「はい。ご来店ありがとうございます。あっ、違った。」
実は『キャラメ・ルージュ』のお客様でもあるのだ。しかも噂ではバリタチ、つまりエッチでは男役なのだそうで、公然と俺を落とすと宣言している人なのだ。
「疲れているみたいね。打ち合わせ、大丈夫? 何なら膝を貸して上げるから横になるといいわよ。」
蓮川さんは、ポンポンと自分の膝を叩く。バリタチと言っても見た目は綺麗な女装さんだ。しかし、眼光は鋭い。エッチなことをしようと言っているも同然だ。
「それじゃあ、お言葉に甘えようかな。」
俺は彼の隣に座るとその膝に頭を乗せる。
まあこの場所でできることなんてたかが知れている。まあ控え室である分、危ないかもしれないけどね。蓮川さんの手は空中を往復して結局、頭に乗せられ撫でてくれる。
「なんで無防備なのに。こんなに意気地なしだったのかワタシ。」
お店でも大抵このパターンだ。チョッカイは掛けてくるのだが、キスどころか胸もお尻も触られたことがないのだ。
「ううん。蓮川さん優しいもの。嫌がることなんてできない人なのよ。」
「そんなことないのよ。結構裏ではコマしているのに、なんでチヒロくんには出来ないかな。」
「ふふ大好き。」
下から見上げてそう呟くと顔が真っ赤になる。可愛い人なのだ。
「ところで凪平来た?」
照れ隠しなのか話題を変えてくる。
「ええ、いらっしゃいましたよ。いろいろと教えて頂きました。」
「大丈夫みたいね。」
「どういうことです?」
「あの子、トラブルメーカーなのよ。常識がどこかしら抜けてるのよね。」
「あの人って教師ですよね。」
「うーん。学校という閉鎖空間から出たことが無いみたい。ときどきヤラかしてくれるのよ。ウチを出ることになったときもトラブルを引き起こしてくれてね。ウチのスタッフの意見が真っ二つに割れて、解散の危機かと冷や冷やしたのよね。」
「やっぱり女性にモテるから?」
「そう、特に純女さんはあのハンサムな顔にメロメロになるの。多少のことなら許せるみたい。」
「ああそれで出入り禁止にはなって無いんですね。」
普通トラブルを引き起こせば、出入り禁止になるのが当たり前なのが女装イベントなのだ。険悪な雰囲気にならないようにしているらしい。
「そう見かけ上は穏便に出て頂きました。今でも時々スタッフと仲良く交流しているわ。」




