44.オネエは反則のようです
「なんか異様に柔道で出場するヤツ多くねえ。この学校はいつもこんなんか?」
例年なら体育館の1階の半分は剣道場でもう半分が柔道場でその半分空手で残りを柔道なんだが、柔道競技のみ急遽2階にマットを敷いて行われることになったのだ。
普通の男子生徒はやりたがらないものなんだがな。どうしたというのだろう。
「ほら客席を見てよ。ヒデタカたちがアタシに付き合って柔道競技に出場するって言ったから、女子生徒の応援を期待して集まったんじゃないかな。」
自分で言っておいてなんだが双眼鏡片手に女子生徒が3階席にズラズラっと並んでいる姿は異様だ。目当ては3人のうち誰かなんだろう。
その中に優子さんと何故か陽子さんの姿を見つけた。少なくとも彼女たちは俺に応援してくれるはずだ。
「タツヤ。ほら陽子さんも居るよ。」
そちらに向けて手を振ると黄色い声援が返ってきた。
えっ。俺?
違うよな。
「順子姉がチヒロのこと、他のクラスで『格好良い』『可愛い』とノロケてるから随分浸透してきているみたいだね。その分、向こうからの敵意の半分くらいはチヒロに向いているみたいだ。」
マジか。睨まれているのは知っていたがユウタたちに向いているとばかり思っていたのに。
順子さんは俺たちの関係を隠す気は無いのか?
『トモヒロ君。頑張って!』
今度は反対側から声援が飛んできた。
声からすると上条さんだ。周囲に居並ぶ男たちが多過ぎて視界に入らないのだ。
仕方なしに飛び跳ねながらそちらに手を振るとヤッパリ黄色い声援が飛んできた。
『可愛い!』という声援ばかりだが、今まで声援に無縁だった俺からすると新鮮だ。
まあオモチャかマスコットの類なのだろう。
「95パーセントだな。」
珍しくヒデタカがシリアスな表情で酷いことをのたまう。
「嫌なことを言うわね。残り5パーセントはヒデタカに向かってるの?」
確かに周囲の視線が痛い。
「違う。チヒロへの好奇の視線だ。さっきも知り合いにお前が本当にノーパンなのかと聞かれたぞ。まあ気をつけろよ。」
「まさか。柔道着のズボンをズラそうと狙っているの?」
「あり得るだろうな。一発芸でオレが今ここでズリ下げてやろうか。きっと敵意の視線が減るぞ。」
「嫌よ。何考えているのよ。このヘンタイ!」
何故だ。男たちを弄ぶのはオネエの特権なのに。反対に遊ばれてしまった。普段、ヒデタカを的にしていたのがまずかったか。
「なんかいつもよりも化粧が濃くないか?」
教頭先生から訓示を受けるために整列していると前に並んでいたヒデタカが覗き込んでくる。
「まあね。汗を掻くからウォータープルーフにしたのよ。似合わないかな?」
「似合うというか、綺麗過ぎて男だらけの武道大会とは思えないんだが。」
「まあいいじゃない。」
どうせなら、この外見を生かさないとな。こんなことで侮ってくれるなら、嬉しいんだけど。
仕草も男の娘モードでいくか。油断は続かないからな。キモイと思ってくれれば儲けものだ。
「どうしても、先鋒で行く気か?」
「そうよ武道経験者がアタシしか居ないんだから。なるべく多くの相手と対戦したほうが効率的でしょ。」
対戦は4人一組で俺、ヒデタカ、ユウタ、タツヤの順番で対戦する勝ち抜き戦だ。
「体力は大丈夫か?」
「大丈夫よ。合気道は寝技が無いからね。よっぽど隙だらけじゃなきゃ使わないつもりよ。」
『1本!』
「決まりましたね山品さん。入り身投げですか。」
「ええチヒロ選手は小柄なので捕まえるのが大変なんです。いつの間にか側面に入られて投げられてしまうんです。本当にいつの間にか転がっているんです。」
ヒデタカとタツヤが暇なのか勝手に解説を始めた。タツヤも意外とノリノリだ。
でもこれで3人目だ。今のところ武道経験者は居ないようだ。後は大将・・・で、デカい。
「おおっと、ここで相撲部のルーキーが登場だ。チヒロ選手は、この巨体を投げられるのか。大丈夫ですかね山品さん。」
「初めてのピンチといったところでしょう。どんな戦いを見せてくれるか楽しみです。」
もう勝手なことばかり言って、俺が負けたら次はヒデタカだぞ。
まあ巨体ということは動きが遅いということだ。俺は後ろに回り込むと左足を使って相手の右足を膝カックンするようにして抱き込みそのまま持ち上がらないよな。仕方がない体勢の崩れた男と共に後ろに倒れ込む。
『技あり』
ちっ。やっぱり1本というわけにはいかないか。
「今の技は何ですか山品さん。」
「掬い投げを打とうとして谷落としに変更したようです。だが相手の身体が浮いている期間が短かったようで『技あり』となったようです。これは危険です。」
「どうしてですか山品さん。」
「チヒロ選手が相手の体重により、足が抜けないようです。捕まえられてしまうのか。チヒロ選手の運命は如何に。」
だから解説すんなって、相手が気付いただろうが。
相手の腕が俺の肩を押さえつける。何をする気だろう。
「はっはっは。このクソオカマめ。手も足も出ないだろう。」
『警告。あわせて1本。離れて!』
俺は開始線に戻ると頭を下げて、仲間たちのところへ戻った。
「相手がバカで助かったわ。」
「なんだったんだ。さっきのは?」
「柔道では相手の人格を傷付ける行為は反則なのよ。結構重い反則で『技あり』と同等なの。それでさっきの谷落しの『技あり』と2つの『技あり』でアタシの勝ちってわけよ。」




