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21.新たなマドンナが現れました

「こんにちは。・・・あらっ、トモヒロ君もいるのね。」


 順子さんの分を食べさせ終わって、自分の分を食べているときに扉が開いて人が入ってきた。保健室の先生だ。保健室は中等部と高等部の中間地点にあって、俺も良くお世話になったものだ。


 おおらかな性格で、ものに動じないタイプで、頼りにされている。決して若く無いと思うのだけど、男女を問わず結構人気がある。


「あっマドンナ先生。こんにちは。」


 一説によると古い映画のマドンナ役の女優さんに似ているらしく。マドンナ先生と呼ばれている。


「良かったわ。高柳さん。ちゃんと見ていたのね。」


「なんのことですか?」


「トモヒロ君が転入生に女の子にされているという話を聞いて、話を伺おうと思ってきたのだけど。ちゃんと指導されていらっしゃるみたいね。」


 どこかしらから先生たちには伝わると思っていたが、まずはマドンナ先生か。厄介だな。この先生以外と粘り強く説得しようというタイプだから困るのだ。


「ええまあ。」


 順子さんが言葉を濁す。そう言えば、順子さんとは事前に打ち合わせをしてなかったな。担任なんだから真っ先に事情とか聴かれるよな。その辺りのことはユウタに任せきりだ。


「トモヒロ君、大丈夫。無理やりキスをされたりしていない?」


 心を落ち着けようと思った順子さんがペットボトルのお茶を飲もうとしているタイミングだったらしく。激しく噎せる。そんなに動揺するなよ。バレちゃうだろ。


「アタシは平気よ。化粧は好きでやっているの。マドンナ先生、似合うでしょ。」


 学年主任の先生向けに理論武装はしているがマドンナ先生にも通用するだろうか。


「そうね。トモヒロ君は元が可愛いもの。スッゴく似合うわ。」


 あっあれれ。いきなり肯定されてしまった。力が抜けるなあ。


「これでも一応校則の範囲内なんですよ。」


「校則なんて別にいいわよ。なんなら女子用の制服を着れるように先生から頼んであげましょうか。」


 ああなるほど、オネエじゃなく性同一性障害に間違われているのか。さて困ったな。


「いいの。これでいいの。あまりの似合わなさに自分に幻滅しちゃうといけないもの。徐々に進めたいの。別に急いでいないもの。今、お勉強中なのよ。女の子の格好をするのは外でも出来るからね。」


 途中から順子さんの視線が痛くて目を逸らしてしまった。


 一応、外で見られてもいいように予防線を張っておく。これで順子さんと一緒のところを見られても生徒指導の一環に見られるだろう。


「そっか。トモヒロ君が女子生徒の格好をしたら目に毒だわね。逆に襲われても困るだろうし。」


 もう襲われました。とは言えないよな。


 順子さんに視線を戻すと目を白黒していた。挙動不審過ぎだろう。


「そんなぁ。アタシを襲う人なんていませんよ。ねえ。順子先生。」


 キッパリと言ってくれよ。順子さん。


「誰かに取られる前に私が襲・・・いたいと思うくらい、可愛いわよ。」


 おいおい、大丈夫だろうか。この先生、本音がダダ漏れだ。


「ああそれから、なにかあったら絶対に私に相談して、自分の中で溜め込んじゃだめよ。解った?」


 扉まで見送りしたところで抱きすくめられてしまった。順子さんとはまた違った弾力の胸だ。思わずそのまま吸い込まれそうになる。この先生、男女を問わずこうやってスキンシップを取るので有名なのだ。


「はい。解りました。」


「本当に可愛いわね。このままキスをしたいな。女の人もいいものよ。」


 ようやく解放してくれたと思ったら、とんでもない爆弾を落としてくれる。


「ダメっ。」


 俺、すぐに反応出来ただろうか。一瞬、本気で考えなかったか。後ろを振り向くのが怖いよー。


「ダメなの残念。じゃあ高柳さん、引き続きトモヒロ君の指導をよろしくお願いしますね。」


 マドンナ先生が出ていったあと、今度はしっかりと鍵を掛ける。そしてゆっくりと振り向くと般若の顔をした順子さんが立っていた。


 せっかくの雰囲気が全部台無しだ。まあ自業自得な部分もあるから大きなことは言えないけど。


 俺は近付いていくとその唇に軽く触れるキスを捧げる。ようやく順子さんの眉間の皺が消えたのだった。まだまだ制御は難しいらしい。


「あれっ。あれは上条さん?」


「そんなことで誤魔化そうとしてもダメだから・・・あら本当だわ。リンチかしら。」


 2階の窓から見下ろした中庭では上条さんと数人の女の子たちとで険悪なムードを漂わせていた。


「のんきなことを言ってないで止めなきゃ!」


「誰が?」


「誰って先生。教師でしょ。」


「イヤよ。あの子のやっていることが好意だったら最大のライバルになりそうだし、悪意がひと欠片でも混じっていたら、向こう側に回りたいわよ。まさかチーちゃんが止めに行く気?」


 本当に順子さんって教師らしくないよな。


「アタシのコンセプトは『少女漫画にしか居ないオネエキャラ』なの。男気があって女の子には優しいのよ。」


 ほんの少しだけ迷ったがそう言って数学準備室を飛び出した。

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