17.鈍感だからこうなりました
「それでね。ここであった出来事は一切外へ漏らさないで欲しいの。」
水着をズリ上げられたことよりもオネエ姿で偉そうなことを言ったことのほうが恥ずかしいのだ。今思い返しても顔から火が出そうだ。
「そんなチーちゃんがさらに恥ずかしい思いをするようなことはしないわよ。ねえ皆。」
有り難いことに順子さんが上手く纏めてくれたからか頷いてくれた。
「口止め料代わりに昼食代とこの後のプロ野球観戦チケットをぶんどったから。VIPルームなんだけど皆行く? 誰か有名人が居るかもよ。」
社長に事の次第をSNSで報告した。生意気にも流水プールの警備員の人事にまで口を出してしまったのに、この後会って直接謝りたいというのだ。友人たちへのフォローをお願いすると快く応じてくれた。
「それでチーちゃんが安心するなら行くけど。そんなことよりも抱き締めさせて頂戴。一番ダメージが大きかったのはチーちゃんなのよ。そうやって無理しないで欲しいの。」
怒った顔の順子さんが近付いてきて抱き締めてくれる。順子さんの大きな胸に顔を埋める。不覚にも涙が滲んだ。頑張ったんだ。少しくらい役得があってもいいよな。
「チヒロ大丈夫だったか。」
涙を拭い、警備員室の外に出るとユウタたちが心配そうな顔で待っていた。
「うん。警備部長さんに助けて貰ったから大丈夫だよ。安田さんはアタシの・・・あれっ。後輩・・・でいいんですよね。」
「ああ入社は遅かったからね。トモヒロくんが先輩だ。」
そう考えると随分長い間お世話になったんだな。
「さあ昼食に行こう。昼食代は安田さんが奢ってくれるって、好きなもの頼んでいいみたい。アタシもお腹が減ったの。さあ行こう。早く行こう。さっさと行こう。」
「お前、何か隠しているだろう。後で全て話して貰うからな。」
学年カーストのトップは心を読むのが上手いのか。それとも俺の顔に出やすいのか。見抜かれてしまった。敵わないなあ。
☆
遅い時間帯の所為かロケーションの良い席が確保出来た。ここのレストランはフードコートになっていて中2階にあるので見晴らしが良いのだ。
タダ飯だからなのか。余程、お腹がすいていたのか。皆、旺盛な食欲を見せる。その人数と金額に安田さんは泣きそうになっていたが社長が払ってくれることを伝えるとこちらも旺盛な食欲を見せた。現金だな。
渚佑子さんは、いつの間にか水着に着替えていて一緒について来た。今日は社長に合流するまで特に仕事は無いらしい。少し羨ましそうなのは彼女が高校生活を送っていないからだろう。
楽しい時間はあっという間に過ぎていった。
少し早めに流水プールを出て、球場内の施設でゆっくりと休憩することになった。
「個室休憩室には大きな鏡もあったよね。そっちで着替えたいんだけど行っていいかな。」
順子さんが耳元で囁いてくる。一瞬、無理矢理着替えさせられたときの悪夢が蘇るが普通の恰好に着替えるだけだ。それどころか順子さんの着替えシーンが見れるのだ。これを役得と言わずして何を言うのだ。
「うん。場所は知っているよね。アタシは先に着替えて待っているわね。」
女子更衣室の前で別れると直ぐに訪ねてきた。着替える時間も与えて貰えないらしい。
順子さんを迎え入れ鍵を掛けた。
「私が何を言いたいか解る?」
こちらを向くと怒りとも悲しみともつかない表情をしていた。順子さんが近寄ってくる。なんだか怖い気がする。行動を思い返してみても、自分が恥ずかしい思いをしただけで順子さんを悲しませるようなことはしていないつもりだ。
「ごめんなさい。アタシが何かしたんだよね。」
「どうして謝るのよ!」
謝ると俺を壁に押し付けて強引に唇を重ねてきた。しかも舌をねじ込んでくる。必死に下に下に逃げるが床に押さえつけられてしまった。
「ちょっ。」
俺は欲望に飲み込まれそうになりながら、必死で順子さんの身体を引き剥がした。ダメだ。こんなことをしてはいけない。
「貴方が本当に女の子で私が男なら、この場で・・全てを・・奪えるのに。」
順子さんは上から見下ろして俺の身体を愛おしげに背中が凍りつくような視線で舐めあげる。
「どうして!」
「私だって気付きたく無かったわ。どす黒い嫉妬と暗い欲望があったなんて。私がチーちゃんを守ってあげたかった。タツヤくんや安田さんに奪われるくらいならと犯してしまおうと思ったけど、何で私には力がないのよ。悔しい。悔しいよ!」
ヤバい。順子さんの本音を聞いて力が緩んでしまい再び押し倒されてしまった。そのまま再び舌をねじ込まれ今度こそ頭が蕩けそうになる。タツヤ・・・怒っただけじゃん。安田さん・・・なんだそれ。
解らない。そんな嫉妬を燃やす相手が居なかっただけかもしれないが解んないよ。
またしてもビキニをズリ上げられる。随分と簡単に胸が露わになった。このためにこの水着を選んだのだろうか。下も蝶結びにされた紐が、これも簡単に解かれてしまう。
こんなの嫌だ。嫌なんだ!




