6 業
おそらく最初の者たちは、命令者以外を奴隷にしろと命じたはずだ。
しかし、同じ命令を下した者が他にもいた。
かくして彼等もまた奴隷になった。
そして誰もいなくなった。奴隷の他には、誰も。
-§-
「それで、一個も盗まず爆破しちまったの? もったいねー!」
通話画面の傍らにワイプされたヘッドラインには、半導体メーカーが爆破されたニュースが流れている。
試験管みたいなグラスで目を騙しながら酒を舐める。家だけじゃない。この机もグラスも、すべてどこかのレンタル品だ。長く使うほどレンタル費は安くなる。
はあっと酒臭い息を吐いて、苦く笑う。
「悪いことはするもんじゃねーよ。今どきのAIが捜査したらえげつないんだろ、どうせ」
「人なんども殺しといて、今さらなに言ってんだよ」
「違ぇよ。殺しも爆破もぜんぶ仕事の命令のうちだ。でも、盗みは俺の犯罪だ」
かーっ! と同僚は無責任に呆れた。
「真面目だねぇオイ!」
「貧しくとも慎ましく清らかに生きればいいのさ」
うそぶいて、グラスを一口舐める。
部隊では命令に従うし、プライベートでは法令に従う。それで話はお終いだ。
「ともかくだ。今日の命と明日の仕事に、乾杯」
「おう。かんぱーい」
画面の向こうで同僚もまたコップを掲げる。彼も明日は出撃だ。
今がどうあれ、未来は明るい。疑う余地もなく間違いない。
なにせ、AIがそう謳っている。