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14話 いつもとの違い


 イージスの家を出てからしばらくして。

 俺は街の奥の広場――以前も訪れていた祭り実行委員会の集会所近くにいた。

 

 ……もうそろそろ昼だし、ソフィア達はいるだろうか。

 

 と出店で買ったデカイお茶を飲みながら、辺りを探していると、

  

「あ、クロノさーん。こっちですー」


 広場の一角。出店が固まっていて、ベンチやテーブルなどが多数置かれた場所からソフィアが手を振っていた。

 

「おー、良かった合流できた」

「ええ、本当に。ユキノさんは向こうでお肉を食べていますが、そろそろ戻って来ると思います」

「まあ、昼時だしな。ソフィアはもう食べたのか?」

「先ほど少しは。クロノさんは?」

「俺はまだかな。こっちに来たばかりだし。買ったのはこのお茶だけだ。小サイズを頼んだらデカイのを渡して来られて、まだ飲み切ってないけど」


 俺の言葉に、ふふ、とソフィアは苦笑しながら、背後のテーブルに置かれていた包みをこちらに差し出してきた。


「では、これをどうぞ」

「おー、用意してくれてたのか。ありがとう、ソフィア」

「いえいえ、そこのお店の商品ですから、直ぐに買えるモノですし。味は美味しいですよ」


 ソフィアは背後にある、ガタイの良い男がクレープを焼いている店を見た。

 男性はその視線に気づくと、親指を挙げたポーズをしてくる。気の良い人だ


 後でお金は払って、違う種類のをソフィアに買って上げようかな、と思いながら、俺は彼女から包みを受け取る。

 中に入っているのは、香ばしく焼けた匂いを発する肉と野菜が巻かれたクレープだ。

 

 上部にはソースで『名物』との文字が綺麗に描かれている。包み紙でもつぶれないように書くとは、丁寧な仕事だな、と思いながらかぶりつくと、  


「これは……美味いな……!」


 塩気の効いた肉に、やや甘めのソースと野菜が絡みついて、味が一気に来る感じだ。

 

 どんどん次を食いたくなる味、とも言えて、勢いのまま俺は食いつき、

 

「うん、ごちそうさま、ソフィア」


 一息で平らげた。

 

「ふふ、お腹の方、空いていたのですね」

「まあな。一応、朝は食べたけれど、これだけ町中が良い匂いに包まれていると、食欲も刺激されるしさ」

 

 というか、なんならまだ食える。

 それ位には美味かったなあ、と空になった紙を見ていたら、


「おう、そこの喰いっぷりのいい兄ちゃん! ちょっとこっちに来てくれ」


 クレープ屋の、ガタイのいい男が声をかけてきた。

 何だろうと思って近くに行くと、

 

「さっきのがイケるってんなら、こっちもどうだい! デザートだ」


 筋骨隆々とした体で、クリームを丁寧に塗り、果物を非常に繊細に切り分けて、クレープに飾ったものを二つ、こちらにつきだしてくる。


「おお、そっちも美味そうだな。お幾らで?」


 聞くとガタイの良い店員は人差し指を立てて横に振り、


「金はいいさ。そこのお嬢さんもそうだが、気持ちよい食べっぷりでウチの商品を食ってくれたんだ。良い宣伝をしてくれたんだからタダで持ってって、そっちのお嬢さんと食べてくれや」

「いいのかい?」

「宣伝料の代わりさ。良いにきまってるだろ」

「じゃあ、お言葉に甘えて。有り難うよ、おっちゃん」


 受け取りながら言うと、親指をあげたポーズで応えてくる。

 

 気前のいいおっちゃんだ、と俺はソフィアの元に戻り、


「はい、これソフィアの分だ」

「あ、ありがとうございます。良いんですか?」

「勿論。俺達の食べっぷりが気に入られて渡されたらしいし」

「そ、そこまでの量は食べていないのですが……」


 ソフィアは少し顔を赤らめつつ、クレープを受け取ってくれた。

 

 そして俺達はそれを食べながら、ベンチに座る。

 

 

 ……これもまた当然のように美味えなあ。


 適当な店で何度か食ったけれども、どこの店もレベルが高い。

 この迷宮都市は、ダンジョンがなくとも、料理が美味いだけで来る価値はあるよなあ、と思っていると、

 

「何というか、迷宮都市のヒト達、良い人ばかりですね」


 ソフィアが周囲を見て微笑みながら言った。


「そうだなあ。魔王城のヒト達も優しくて良い人達ばかりだったが、この迷宮都市は、ノリと気風が良いって感じがするな」

  

 戦闘用の装備をしている人は多く、見た目はやや厳つい人も多い。

 傷だらけの強面な男がやってる店とかもあるし。

 ただ、話してみると、凄く親切にしてくれる。 

 

 ……温泉旅館に泊まった日の夜も、クラスメイトと一緒に街を歩いたけど、出店で物を買うたびに、二倍の量くらいを受け取らせようとして来てくれたしなあ。

 

 夜も変わらず賑やかだった。

 眠らない町というべきか。

 毎日が楽しく暮らせそうな良い街だと思う。 


「街全体が、『祭り!』って感じがしてさ。皆とこれて良かった場所だって思うなあ」

「ふふ、そうですね。私も、大勢でとても楽しんだ気がします」


 来て二日も経っていないが、その気分は充分に得られている。

 

 市長などが、観光産業に気を使っているとは言っていたが、街の住人の雰囲気もこの街の人気に繋がっているんだろうな、と思っていると、


「クロノー。楽しんでるー?」


 紙のコップを携えたリザが、ふらふらとした足取りでこちらへやってきた。

 

「おっすリザさん……って、酒はいってます?」

「まだ入れてないかな!」


 そうは言うが。

 やけにふらふらしているけれど。


「これは人混みに紛れ込んだからふらついているだけだよ。まだいっぱい飲んでないよ。このコップの中に入ってるのは水だしね」

「いっぱいの響きがなんかおかしい気がするんですが。まあ、いいか……」

「そうそう。この位の酔いなら、解毒魔法で直ぐに直るしね。というか、今直したよね」


 確かに、喋りながらリザの表情はシャキッとし始めた。

 物理的に切り替えの早い人だな、と思いつつ


「まあ、リザさんと同じく、俺も祭りを満喫出来ていますよ」 

「それはよかった。この広場に今、超特進クラスの皆がいるけどさ、皆に、そういう感想を抱いて貰っているみたいで、私としては超嬉しいからね! お酒が入ってなくても良い気分になるよねえ」


 リザは嬉しそうに笑う。それを見て、

 

 ……リザさんはいつも、俺達の事を考えてくれてて、有り難い人だよなあ。


 まあ、偶に面白がって変なイベントを開くけど。それ込みでも有り難い。

 などと思っていた、その時だ。

 

 ――キーン

 

 と、つい数時間前に聞いたばかりの音が、再びした。

 まだちょっと耳が順応してないので気になるが、その音について、リザは慣れているようで

 

「――っと、中継が本格的に、始まったみたいだね」


 と、すんなり空を見上げた。

 そこには白板のモニターが浮かんでいて、既に映像が投影されていた。

 

 エンターマインの山肌を歩く、イージスの姿が映し出されていたのだ。

 

「リザさん。あれが、ダンジョンチャンプさんなんですよね」


 それを見て、イージスを見たことがないソフィアがリザに聞く。


「そうそう。イージス・グリントさんね。しっかし、自信ある感じで、行ってるねえ」


 イージスは胸を張って歩幅も広く取って歩いている。

 その姿に、自分達と同じく中継を見ている街の皆は、

 

「チャンプー! いい物見せてくれよー!」

「イージス様の格好いいところ見るわよ――!!」

 

 かなり盛り上がっているようだ。

 見れば、広場の中には超特進クラスの皆の姿もあり、何やら賭け事をしているのが目に入った。色々と楽しんでいるようだ。

 

「流石は迷宮都市のお祭りのメインイベント。熱気があるねえ」

「はは、そうですねえ」

 

 そんな風に俺達が宙に浮いた中継用のモニターと街の皆を見ていると、モニターの下部からアナウンスが聞こえてきた。


『それではこれより、ダンジョンチャンプのイージス・グリントによる、エキシビションを、開始いたします』



 イージスは、エンターマインの山腹を歩いていた。

 

 ……さて、今回のダンジョンの難易度は、中級だったかな。

 

 エキシビションとしては比較的楽な類だが、デモンストレーションを兼ねたハンデとしては十分だろう。

 

 ダンジョンを潜っている最中は中継などされないのだし、正直難易度は難し過ぎ無ければいい。難しい場所は、純粋に街の保安部隊として攻略するべきだし。

 

 そう思いながら、イージスが山頂に向かって、歩いていると


『問題はなさそうですか、イージス殿?』


 耳元の通信機から市長の声が聞こえた。

 

 エキシビションに限り、毎回これで情報のやり取りをしているのだ。

 これでエンターマインのダンジョン発生具合などを報告して、安全確認なども行っている。

 

 ……特に今回はエンターマインの挙動が変だったから、通信はしっかりして貰う事になったんだけども。

 

 山肌を歩きながら観察した限りでは、特に違和を感じるモノはなかった。

 モンスターの発生なども見られなかったし、平年通りとも言える。だから

 

「もしもし、市長。今の所、問題はなさそうだ」

「おお、そうですか。ではこのままエキシビション用のダンジョンに入って下さいますか。今、いらっしゃる当たりにありますので」

「うん。確認してる」


 目の前には、機械のチューブなどが幾つも取り付けられた扉がある。今回挑むダンジョンだ。


「もうちょっとだけ周りを確認したら、行くよ。まあ、この分なら無事にイベントを終えられそうだから必要ないかも知れないけど、念のために――」


 イージスが通信機に向けて、そんな言葉を発した。

 それと、ほぼ同時だった。


 ――ぐにゃり

 

 と、ダンジョンの入り口である扉の周りが歪んだ。

 

「……む?」

 

 いや、歪んだだけではない。

 扉があった空間に渦が出来、周囲の岩石や機械の山肌を飲み込んでいた。

 

 他のダンジョンの入り口の扉すらも構わず巻き込み、渦の中心の一か所に、集まっていく。

 それをみて、イージスは即座に通信機に報告を入れる。


「――前言撤回。市長さん、イレギュラーだ。そっちからも見えているかい?」

「な、なんですと。こちらからは……何か奇妙な青い光が見えていますが」

「ああ、それで合っているよ。エンターマインの表層が、おかしくなっているからね」


 言っている間にも変化は進む。

 

 ……周辺にあったダンジョンの扉が全部、一か所に集約された……?

 

 起きた現象を整理するためにイージスが頭の中で呟いた。

 刹那、

 

「…………ォ……」

 

 唸り声をあげながら、がばっと、入り口周囲を含めて、起き上がった(・・・・・)。

 

「……これは、市長。更に前言撤回だ。随分と予想外なモノが、出てきてしまったからね。問題、発生だ」


 そう、イージスの目の前には、エンターマインの斜面がそのまま抜けるようにして立ち上がった、岩石と機械が入り混じった巨人が現れたのだ。



 

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