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12話 かつての話

 ダンジョンチャンプの女性から発せられた言葉を聞いて、俺は首を傾げていた。

 

「久方ぶり? ……ええと?」

「ほら、私だよ私。鋼鬼族のイージス・グリントだ。覚えていないかい?」


 手を広げて追加で言われる。でも、

 

 ……会った事があっただろうか。

 

 名前を言われてもまだ思い出せない。

 それが表情に出ていたのか、イージスは自らの頭を軽く下げてきた。


「ふむ、まだ小さい頃だったから、記憶にないかな? ほら、この角とか。傷ついたのを直すために君の家の薬局に行ったんだよ」


 灰色の髪を振りながら、リングで装飾した深紅の角を見せてくる彼女に、

 

 ……この赤い角は……初見じゃ、ないような気がする……な。

 

 そうして頭の中を検索すること数秒。

 俺は微かに引っ掛かった記憶に思い当たった。


「あ……っと、爺さんや婆さんと一緒に、リビングのテーブルに座っていた事って、あります?」「うん! 勿論あるよ! あの大木で出来た広いテーブルだろう? 一本足で、下部に彫刻が彫られている」

「そうですそうです。……となると、見覚えがある……気がしますね」


 灰色の髪と装飾した赤い角を持っている女性、というヒトが家にた記憶はあった。

 テーブルに着いて何やら家族と話している、鋼鬼族の後姿は覚えている。


 顔までしっかり覚えている訳ではない。だ

 が、雰囲気は似ている。

 

 ……鋼鬼は生まれ持った魔力量が多いほど角の赤色が濃くなるというが、ここまで赤い人を見た記憶は一度だけだしな。

 

 俺がいた村には鋼鬼族の人はいなかったし。俺の家が薬局であることも知っている。

 もっと言えば、俺の実家にある家具のことも詳しく知っている。

 それならば、恐らく、


「うん、俺がスゲエちっちゃい頃に村に来てたんです、かね」

「その通りだよクロノ君。一応、先日も君の生まれ故郷に足を運んだんだけどさ。君のご家族のアルコン夫妻は相変わらず元気そうだったね」

「おー、そうだったんですか」


 何度も何度も俺の故郷を訪れているようだ。

 嘘を言っているようにも見えないし、恐らくは本当に俺の事を知っているのだろう。

 

 などと思いながらイージスと話していたら、


「チャンプ……というかグリントさんは、クロノの知り合い、だったの? なんだか君の事を知っているみたいだけど」


 間にいたリザが俺の方を怪訝そうな顔で見て尋ねてきた。

 

「はい。……多分、ですけれど。記憶が結構怪しいので。いや、イージスさんには申し訳ないんですが」


 こちらとしてはうろ覚えにもほどがある状態だ。

 これだけ話していても、はっきりとした記憶が全然出てこない。

 だが、それにも拘らず、イージスは首を横に振って笑った。


「ははは、良いんだ。本当にクロノ君が小さい頃に会ったきりだったんだからね。何となくでも覚えてくれているだけ、有り難いさ」


 何とも心が広いヒトだ。

 

 ……しかし、リザさんが市長さんたちと知り合いだったり、俺も多分知り合いなヒトがいたりと、始めて来る都市なのに知人が多い場所だ。

 

 そういう巡り合わせが多い土地柄なんだろうか、などと思っていたら、


「そうだ。クロノ君のご実家に行った時、アルコン夫妻から、『出会った時に元気そうだったら、渡してほしい』って言われたものを預かって来たんだけど、明日辺り渡してもいいかな?」


 イージスがそんな事を言ってきた。

 

「え? 預かって来たって……どんなものです? というか、別に今も充分元気はあるんで、今渡して頂いても良いのですが」


 温泉に入って疲労は殆ど抜けているし。

 元気そうなら、という条件ならば、今でも構わない。

 そう伝えたら、イージスは困った様な苦笑を浮かべ、


「それがまあ、元気だったら、という話に付け加えて『出来れば明るい昼に渡してほしい』って条件も言われたんだよ。だから、もう外が暗い今、それを持ってうろつく訳にもいかないから、今は私のウチの倉庫に厳重にしまってあるんだよね。だから明朝にでも、ウチに来てもらえればって思うんだ」

「なるほど……。うちの爺さんたちは相変わらず変な条件を付けるのが好きと言うか……本当にご迷惑かけて申し訳ないっすね……」


 意味のない事はあまりやらないヒト達だとは思うけれど、それでもこちらからするとよくわからない事を提案してきた経験は何度かある。

 今回、イージスが言われた条件も、そういうものの一つなのだろう。

 だからといって客人にそんな条件を付けまくった頼みごとをするのはどうかと思うので、代わりという訳ではないが謝っておこう。


「あ、いやいや、良いんだよ。むしろクロノ君に手間をかけさせてしまうわけだからね。ただまあ、そんな感じだから明日、改めて渡させて貰っていいかな。昼であればサクッと終わって時間もそこまでかからないと思うし」

「では、それでお願いします。色々とありがとうございます」

「ふふ、では、ここからはまた明日って事でね、クロノ君」


 と、俺に会釈をした後、イージスはリザの方に目をやった。


「――そしてお待たせたね、魔王リザ。連絡をした通り、今回の事件の顛末やら、ダンジョンについての話を聞かせて貰えると嬉しいな。一応、この街の保安部隊に参加しているから、情報が欲しいんだ」

「う、うん。分かったよ。それじゃ、またねクロノー」


 そう言って、リザはイージスと共に休憩室を出て行き、廊下の向こうにある一室へと入って行った。

 

 そんな二人の後姿を見つつ、俺はあ、と声を上げる。 

 

「結局、何を持ってきたのか聞くのを忘れたな。……俺に爺さんたちから渡してほしい物って、なんだろうなあ」


 旅の荷物の邪魔になるからと、故郷に置いてきた物は幾つかあるけれど。

 何が送られてきたのだろうか。

 分からないが、今からリザ達の話し合いの邪魔をするのもなんだし、

 

 ……ま、明日になれば分かる事か。

 

 今後の生活で役に立つモノであればいいや。

 そう思いながら、俺は休憩室でのひと時をゆっくり過ごしていく。



旅館の一室で、リザはイージスとテーブルを挟んで相対していた。

 テーブルの上には、今回のダンジョンに対する資料と、数本の酒瓶が並んでいる。

 宿の従業員が気を効かせて置いていってくれたものだ。そして、

 

「まあ、なんというか、ダンジョン攻略お疲れ様って事でね。乾杯、グリントさん」

「ああ、乾杯だ」

 

 リザはイージスと共に酒の入ったグラスを揺らす。

 

 お互いにタイミングは異なるとはいえ、ダンジョンを攻略してきた身だ。

 その祝いとして、酒でも飲みながら色々と話をしよう、という事になった。


 ……グリントさんと会うのは数年ぶりだけど、毎度会うたびにこういう事をしているなあ。

 

 基本的にやる事といえば、お互いが潜って潰した強力なダンジョンについての資料や情報交換なので、酒が入っていても問題はない。

 

 ……お酒の勢いでもいいから、クロノを知るグリントさんから、色々と聞かせて貰えれば嬉しいしね。

 

 との思いで、リザはイージスの目を見た。

 すると彼女は軽く微笑み、


「一応、言っておくと、私は彼の故郷について殆ど話せないよ、魔王リザ」


 初っ端からこちらの計画を潰すような言葉を放ってきた。


「うぐ……グリントさんは、本当に、毎度ストレートに話してくるね」

「多分聞かれると思ったからね。話せない、って前もって言っておかないと期待させてしまっても悪いからさ」


 相変わらずざっくばらんな女性だ。

 

 ……聞けるチャンスだと思ったんだけどなー。


 先に話を切られては無理だ。

 彼女が言わないと言ったのならば、絶対に言わない人だし。

 クロノについて知れる良い機会だったのになあ、と思っていると、彼女はテーブルに置かれた酒をコップに更に注いで喉を潤した後で口を開く。


「でも……まあ、私から出せる情報としては、二つか三つくらいでね。あとは、クロノの力がどれだけ練られているかは知っているし、彼の力は未だ発展途上でる事が分かっているという位は、言っておこうかな」

「え……それだけでも衝撃情報なんだけど……。あれで、発展途上なの……?」


 イージスは普通に言ってきたけれども。

 既にクロノの力の異常さは身をもって知っているが、アレ以上になるというのか。

 

「まあね。力には精神の持ちようも大いに関わって来るからね。クロノ君には、まだまだ発展の余地はあるのさ」

「精神の持ちよう……って、クロノって、物凄くメンタルが強い方だと思うけれど?」

「そりゃ当然さ。どんな精神支配系の魔法をかけられても打ち破れるように、彼の故郷にいる皆で子供の頃から鍛えたそうだからね。メンタルは強くなるさ」

「鍛えた……ってまさか、子供の頃に精神支配系の魔法をかけまくったって事……?」


 まさか、と思って聞くと、イージスは、そうらしいよ、と頷いた。

 

「……それはちょっとやり過ぎじゃない? 子供の頃から精神を傷つけるような魔法を掛けるなんて。一つ間違えたら心が壊れちゃうよ?」

「さて、私はただ経過を聞いただけだからね。その頃には終わっていた事だから、やり過ぎと言われてもどうにもできないさ。……まあ、その話を聞いた時は、君と同じような事を言って、ちょっと釘は刺したけどね」


 だよね、とリザは酒をあおる。

 子供の頃からそんな事をされていれば、メンタルは強くなるだろう。ただ、強くなれれば何をして良いという訳ではないのに、と思いながら。


「まあ、クロノの過去は分かったし、メンタルが強いのも再確認できたわけだけど。……それ以上に精神的に成長するって、どういう事?」

「強くなる事だけが成長じゃないだろう? 色々な物事を知り、経験することだって、成長といっていいだろうし。情緒なんて強さと関係ない成長部分だしね。……一応ね、クロノ君の故郷にいる、彼を育てた人たちは、ね。彼を愛するがゆえに、精神的に成熟して欲しいと常々思っているんだよ」

「精神的に疲弊する魔法を子供の頃から掛けるようなヒトたちが?」

「そうだよ。やり方はエクストリームだけれども、ちゃんとクロノ君を大事に思っているヒト達しか彼の故郷にはいないって事だけは、保証しよう」

「なんか複雑なことを言われてる気がするなあ……」


 まあ、学生の自由を大事にしたい自分としては、彼の故郷の人々が、クロノの事を大切にしていると分かっただけでも大きいのだが。


 ……色々と知りたいけど、結局魔王城の方で出した調査団も、クロノの故郷を見つけられず仕舞いだったからなあ。


 というか、そこまで辿りつけなかったとも言える。

 だから人づてとは言え、こういう情報を貰えるのは有り難い。

 ただ、それでも足りないのは事実で、


「うーん、その辺りを全部話せる人って、近くにいないのかなあ」

「さてね。そこも私は何も言えないが……でも、クロノ君が育っているのは、とても良い事だと思うし、君に礼を言いたい気分だよ。ありがとう、魔王リザ」

「私は何もしてないけどねー」


 そこまで言った後、でも、とリザは真面目な表情になる。


「とはいえ、今後も健やかに自由に動き回れるように、便宜は図るつもりではいるけどね。クロノだけじゃなくて学生皆にさ」


 正直な話、自分としてはクロノの正体とか、故郷とかこの際、二の次だ。


 何か隠されているのは分かっているし、幾つかの推論は自分の頭の中にある。

 だが、極論、そんな事は全て、どうでもいいのだ。

 魔王城に来た皆に、健康的に学び育ってもらうのが、リザのモットーなのだから。

 

「うん……やはり君は魔王になったのは正解だと思うよ。そう思ってくれる人だからこそ、あの人たちは魔王城にクロノを預けられたんだろうからね」

「よくわからないけど、褒め言葉として受け取っておくよ」

「そうしておいてくれ。で、まあ、クロノ君の話は一旦置いておいて、だ」


 言葉を短く切っての一息。

 それだけでイージスの雰囲気が変わった。


 そして酒入りのコップを置いた彼女は、ゆっくりとテーブル上にある資料を手元に寄せる。

 

「迷宮都市のエンターマインについて。そして、今回のダンジョン発生について話をしようか」

「うん、本題だね。とりあえず、強力なダンジョンが同時発生した事は、今までに無かったことって認識でいいんだよね?」

「ああ。その認識で良い。アレが稼働してかなりの時が経つが、過去、こんな事は無かった。ワンシーズンで強力なダンジョンが次々に湧く事はあったが……それも、少なくとも時間をずらして発生させてくれていたんだよ。だから私や迷宮都市の攻略班だけでも、充分に対処できる状態だったんだ」


 なるほど、とリザはイージスの話を分析しながら聞く。


 ……エンターマインはダンジョンの入り口を集約する機能を持つけど、一時的にため込む事、も出来るのかもしれないね。

 

 その機能があれば、イージスの様な強者が対応しやすくなるし。実際、これまで対応できていたのはそのお陰だろうし。けれど、

 

「今回は、ずれることなく、一気に発生したと」

「ああ、それ故、『魔王の遺産』であるエンターマインに、異常が発生している可能性があるかもしれない、と思って今回報告させて貰ったわけだ。……君の目から見て、異常はなかったかな?」

 聞かれ、リザは窓の外に見えるエンターマインを見る。

 ライトアップされた、機械交じりの綺麗な山には、特段、目立った異変はない。

 

 今のように遠目に見ても、昼頃に近くで見た様子を思い出しても、さらに言えばダンジョンに潜った状態でも

 

 ……特段、異常が見えた記憶は、ないなあ。

 

 自分は工学系の知識は持っていて、魔王の遺産の構造を調べたりはしているけれど。

 外部から見た限りでは、

 

「うん。無かったように思えるよ。でも、もしも本当に異常が起きているとしたら、過負荷、とか、だと思うよ?」

「過負荷、とは?」

「構造を全部見れるわけじゃないから正確ではないかもしれないけども、エンターマインに……『ダンジョンを集約する機能』と『一時的にダンジョンを抑え込んで、ずらして発生させる機能』があるのだとして。今回はダンジョンがあまりに湧き過ぎて、エンターマインに集約する機能だけしか、稼働が追い付かなかったって考えるべきかな、と思って」


 一方の機能にリソースが取られれば、もう一方は使えなくなる。機械を弄っていると、よくある事ではある。

 魔王の遺産にも、同じ事は言えて、

 

「つまり、原因としては、純粋にこのシーズンはダンジョンが発生し過ぎた事、だと?」

「そこまでは分からないけれどね。もしくは力を溜め込みすぎていて、吐き出し方が上手く行かなくて、一気に二つ作っちゃったとかもあり得るし」


 今回の事がイレギュラーだというのであれば、原因を決めつけるのは良くない。だから考える方向は沢山持っていた方がいい。


「魔王の遺産はメンテナンスいらずで使い倒せる品物ばかりだけど……負担をかけ過ぎると状態がおかしくなることはあるからなあ。構造が全部わかっていないと、その見極めが大変になるよねえ」


 魔王城のダンジョンで出る遺産は、同じく魔王城に設置してある鑑定機を通すことで構造を把握する事が出来る。

 また鑑定機で判断できずとも、膨大な調査用資料もあるので、そちらで調べる事が可能だ。けれど、

 

 ……外部にある魔王の遺産は、調べようがないからなあ。

 

 あの巨大な山を魔王城の鑑定機で調査は出来ないし。

 魔王城から学者や専門家を派遣するにしても、最速で三日は掛かる。

 

 ……おかしくなっているかも、という今日の時点で、専門家たちを呼ぶように、魔王城へ連絡はしてあるけども。


 それだって明日明後日に到着出来るわけじゃない。


「魔王になるとき、説明されたけどさ基本的に、魔王が産出して後の世に道具を残す時には、絶対に自己リミッターと自己調整機能を付ける決まりになっているけどさ。だから、エンターマインも放っておけば元通りになるとは思うけど……ちょっと今は分からない事が多すぎるかな」


 何が正解かも分からないのに、迂闊な事は言えない。

 そう伝えると、そうだな、とイージスも同意してくる。


「まあ、明日の祭りでは、ダンジョンの早解き競争があるが、その前にエキシビションが開かれるのでね。その時、私が一人でエンターマインの一ダンジョンに潜る事になるから、色々と確認しながら進もうと思うよ。そこで小さくとも、何かしらの異常を見つけたらその時点で中止に出来るしね」

「うん、そうした方が良いかな。グリントさんなら、調査も安心して任せられるし」


 何よりもまず、都市にいる人々の安全が第一だ。

 そこまで確認し、話し合ったリザは、イージスと共に頷き合う。

 そして、お互いに酒の入ったコップを傾けて、もう一息吐いて


「ひとまず出来る対策はその辺りかな。……じゃあこの後は、魔王リザが潜ったダンジョンについての情報や、クロノ君の活躍について、酒でも飲みながら話してくれると嬉しいね。彼からどう見えるかは置いておいて、私としては、一応、昔から知っている子だからね」

「あはは、まあ、お酒のつまみになるかは分からないけれどさ。とりあえず、今日のダンジョンでの出来事から話そうかな――」


 そうして、夜が更けるまで。

 リザとイージスの二人の時間は過ぎて行く。



 朝起きると、今回も当然ながら、ソフィアとユキノが隣で寝ていた。

 いつも通り過ぎて、今更言う事でも無いのだが、


「温泉宿でもこうなるとはな……」

「あ、あはは……リザさんに感謝ですね」


 流石に俺のダンジョンのベッドほどじゃないが、それでも、広かったので不自由はないけれども。そう思っていたら、ユキノがベッドをゴロゴロしながら、

 

「最近、不便がないから、これでも良い気がしてきた」

「……いや、あのお。例えそうだとしても、正常ではないのは確かなんで。探すのは継続しましょう。ソフィアも毎朝、寝間着から着替えをするのに場所を選ぶの大変そうですし」

「あはは……まあちょっと恥ずかしくはありますけれど、それを含めて私も結構、毎朝を楽しめていたりしますけれどね」


 あれえ、なんだか反応がおかしいな。

 二人ともこの状態に慣れ過ぎている気がするぞ。

 

 というか順応力という点では俺よりこの二人の方があるんじゃなかろうか、と着替えを用意している二人を見ていると、


「そういえば、クロノは、今日は何をする予定? 皆は祭りに行くって話をしていたけど。どこか行くところは決まってるの?」


 ユキノがそんな問いを飛ばしてきた。更にはソフィアも、

  

「私たちは基本的に中央街の菓子店や茶店を回ろうかなって思っているんですが。調子が良ければ迷宮都市名物のラビリンスパフェ、とかいうのに挑戦する感じで」

「随分と雄々しい名前のパフェだな」

「ええ、なんでもあまりの甘さと量に食欲が迷うとか何とか言われているらしいです。ともあれ、そういう感じなんですが、予定が無ければクロノさんも一緒にどうでしょうか」


 ユキノやソフィアの誘いに、俺はうーむと頷く。

 別に大量の甘い物を食べるものがキツそうとか、そういうわけではないのだが、


「誘いは有り難いんだけど、俺は今日は少し別行動になりそうかな」

「あ、どこかに行かれるんです?」

「うん。昨日の夜、ダンジョンチャンプのイージスさんってヒトに会ったんだけどさ。昔の知り合いだったらしく、軽く話をする事になってるんだ」


 俺の言葉にソフィアは、昨夜そんな事があったんですね、と頷きを返してくる。


「というか知り合いらしく……とは、また特殊な関係性に聞こえますが」

「ああ、俺も上手い事説明できなくて申し訳ないけど、そう思うよ。で、この後、会いに行くことになってるんだけど、いつ終わるか分からないから、俺一人で行こうと思ってな」


 流石に俺だけの事情の為に他の人を付き合わせるのもアレだし。

 

「あ、そうなんだ。……じゃあ、ソフィアと一緒に、クロノに先行してお祭りに行って、何か美味しくておススメできそうなものを探しておくよ」

「そうですね。食べ物だけではなく、家具とかも良い物が無いか、探しておきますね」


 二人はそんな事を提案してくる。

 誘いを断ったばかりだのに、有り難い話だ、と思いながら、


「それじゃあ、よろしくお願いするよ。イージスさんとのやり取りが終わったら、俺も祭りに行く予定だし。多分、昼過ぎにはなると思うけど」

「了解。じゃあ、とりあえず、実行委員会の集会所辺りに、昼過ぎにいるね。待ち合わせ場所を決めておけば、タイミングが合ったら合流できるし」

「ああ、ありがとうございます、ユキノさん」


 そんなこんなで今日の予定を立てた俺達は、各々のタイミングで祭りでにぎわっている迷宮都市へと繰り出すのだった。

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