4話 現状確認
天幕の中、音声遮断の魔法がかけられた布で作られた一室に案内されたリザは、超特進クラスの面々と共に設置してあったテーブルに着いていた。
どうやらいくつもの資料が置かれた棚や、情報が書き込まれたボードなどが置いてあることから、普段は会議室として使われているように思えた。そして、その場所で
「今回の祭りでは少々難易度が高すぎるダンジョンが、エンターマイン中央部に発生しておりまして」
リザは目の前で話される、深刻な表情をしている市長の言葉を聞いていた。
「それは、野生のダンジョン、なんだよね」
「ええ。少し前に、いつものように出来上がった野性のダンジョンです。ただ……調査の結果、お客様が挑むには危険すぎる魔力を感知致しまして。精鋭部隊を攻略に向かわせたのですが、あの通りでして」
市長は目線をちらりと後方にやった。
そちらには『医療室』との札が掛かった扉がある。そこには今、『現在混雑中』との案内札も掛かっているが。
「怪我人続出、だったんだね」
「ええ、調査を含めて何度も、そのダンジョンにはアタックを仕掛けました。普通の保安部隊でもダメだったので、熟練者達に行って貰って、しかし、どうにもならず。結果は、先ほど見て貰った通り、攻略できず、でした。もう、探索出来るようなパーティーがいない状態です」
迷宮都市は、ダンジョン発生にはなれている。だから攻略部隊の実力もあるし、備えもしっかりしてある筈のに。
「結構追い込まれてるんだねえ」
「ええ。まだ幾人かの人員は残っているのですが。それでも戦闘向きではないので。……頼みのダンジョンチャンプも、もう一つの高難度ダンジョンを攻略している最中で手が離せませんし」
ふうむ、と市長は深い息を吐く。そんなタイミングで、
「ダンジョンチャンプ? 聞きなれない単語だが、知ってるか、クロノ?」
「いや、俺も分からんぞコーディ」
超特進クラスの子たちが首をかしげて、顔を見合わせている。
この街独自の単語だから分からないのも当然だ。
……そういった前提知識何もなしにこの話に付き合わせちゃったのは、ちょっと申し訳ないなあ。
とはいえ、情報も共有しておきたいし。
どこから説明すればいいものか、と思っていたら、
「ああ、すみません。……この街で祭りがあるたびに催されるダンジョン攻略競争で、数十年間トップを走っている方がいらっしゃるのです。その方はこの街の防衛役も担ってくれていまして、何時も危ないダンジョンを率先してクリアしてくれるのです」
市長自ら、そんな追加の解説をくれた。
助かる、と思いながらリザもそれに乗っかっておく。
「そうそう。綺麗な鬼のお姉さんでね。ずっと前に、魔王の秘書さんをやっていた人なんだよ。凄く強くて綺麗な人なんだ」
市長と自分の説明に超特進クラスの面々は、おお、と驚き半分納得半分の表情を取った。
それを見てから、市長は話の流れを戻していく。
「ええ、本当に強くいつも、危険なダンジョンを攻略して貰っていたりと、お世話になっているのです。……ただ、今回は高難度ダンジョンが同タイミングで、もう一か所出来ており。そちらの攻略に行っているのですよね」
「え、そんな危ないダンジョンが二か所に同時発生するって、珍しいね」
「はい。むしろ、記録を取り始めてから、初の出来事ですから。こちらとしてもてんやわんやで。ダンジョンチャンプが行っている方は、もう確実にクリア出来るでしょうが、何日掛かるかは分からず……かといって、危険なダンジョンを放っておけばモンスターが溢れる可能性もあるので放置は出来ず、といった感じで、手が足りないのです」
「えっと、残っているのはどんなダンジョンなの? 元々課外講習で来ているし、協力出来る時はするって話で来ているから、手伝えそうなら手伝うけれど」
困っている時は手助けする。
そういう契約で、課外講習の場所として、サポート付きで受け入れて貰っている。
それは昔からの物だから、今回だって適応される。
……ただ、学生たちに無茶はさせないし、意思は尊重する、って条件が絶対だからね。
精鋭部隊がクリア出来ないというだけでは情報が足りないし。
だから色々と聞いてみてから、学生たちに判断して貰うべきだ。
そう思いながら市長に尋ねると、彼はうーむ、と唸った後、
「そうですね。魔王様たちはこれから滞在なさるのですから詳しく知って貰った方が良いでしょうし。……少々お待ちください。私から話すよりも、専門の調査員から情報を出した方が良いので、呼んできます」
そう言って市長は慌ただしく、天幕の奥へと走っていった。