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幕府ノ再興

5月29日 0500時


関東陸軍演習に参加する部隊が動き始めた。

今回参加するのは熱海(旧伊豆)、武藏、群馬、新潟以北の松前県を除く全県に基地を置く部隊だ。


その中の1つ。館山の第四戦闘隊は離陸準備に追われていた。


しかし、演習のようではない。まるで実戦のような空気だった。


「続いて離陸しろ!急げ!!」

「空に上がれば勝ちだ!」


そんな声が響き渡る中、戦闘隊の全機が離陸したのが0510時

基地に歩兵が突入したのは0530時だった。

基地を占領した歩兵は勝鬨をあげるが、戦闘機は既に見えなくなっていた。





同じ頃、国鉄中央本線でも動きがあった。

武藏江戸を深夜0時に出た「臨時列車」が高尾に到着したからだ。

国鉄の管区はここを境に関東管区から長野管区になる。


その列車は音もたてず止まっていた。

「車両は客車だが臨時の貨物輸送」と言われていた長野管区の人間は連絡の後、通過許可を出す。

その列車は15両編成

終点は甲府だった。


0600時

峠を越えるべく、先頭に電機機関車が付けられ、重連となった「臨時列車」はゆっくりと高尾駅を出る。


甲府到着は0800ちょうどだ。












「…………………………室長!これを!!」

帝都

陸軍省通信室

午前6時の交代を前に兵たちの気が抜けてきた頃、その気を押し戻すような通信が届いた。

「………………直ちに大臣に伝える。貴様らはそのまま通信を続けろ」

「はっ!」

室長は通信内容の書かれた紙を片手に、省内を走る。


通信室は4階、大臣室は3階

その距離は近い。通信室を出、目の前の階段を駈け降り、右に曲がる。そのまま直線15m先が大臣室だ。


軍人の走りは速い。10秒後にはもう大臣室の前だった。


1つ深呼吸し、戸を叩く。










「入れ」


午前5時30分

いつも通り起きたが、本当ならもう2~30分は寝ていたい。そんな感じの朝だった。


のんびりお茶を飲んでると、「コンコン」と扉が叩かれる。誰だ?こんな朝っぱらから来るなんて頭がイカれてるのか?そんなやつの顔が見てみたい。そう思いながら「入れ」と言った。


そして扉が開き始めると思い出した。今からそいつの顔見るじゃないかということに。








0750時

緊急御前会議


陸軍大臣から緊急の要請を受けて開かれた御前会議。

この前の時点で伝えることは伝えたし他にも用は無いはずだ。何かあればわざわざ御前会議を開かずとも、通常の会議を要請すればいい。


「まずは、このような時間からお集まり頂き「堅苦しい挨拶は要らん。で、どうした?」…………皆様、こちらをご覧ください」

そう言って堅苦しい挨拶を打ち切った(打ち切らせたのは俺だが…………)長谷川は、全員に紙を配り始めた。











「関東方面陸海空軍、演習に乗じ反乱」





















「反乱?何かの間違いでは無いのか?」

「いえ、館山から戦闘隊が逃走してきました。反乱軍に飛行場を占領されかけた。と」

陸海空全軍による反乱のため、畑や斉藤大臣等も長谷川に問う。

「しかし、航空隊なら我々航空軍に連絡が行くはずだ。何故陸軍に来ている?」

連絡が届かなかった畑大臣が声を荒げる。


そうだ。航空軍にも省置かないと…………このままじゃ陸海の下になるからまた揉める…………


「そう言われましても………………」

「まあ、そのことはいい。どうせ此方に原因があるだろう。何せ連絡が取れとらんのだからな。後で…………」

………………御愁傷様です。


「して、反乱軍と言っておるが、どの部隊が属しておるかは分からんのか?」

斉藤海軍大臣が問う。声こそ落ち着いているが、指がピクピクと動いているのが見える。きっとここが大臣室なら机をコツコツ叩いていたんだろう。


「………………不明です。何せ数が数ですから」

内心、「知らねえよ」とでも思ってるのだろう。その証拠に、明らかにイラつき、眉もピクピク動いてる。そして、右手を力強く握りしめ、今にも机に降り下ろしそうな感じだ。


「どちらにせよ、反乱は確かな情報だ!!何故軍はその兆候を見逃したァ!!!!!」


あっ、やっべぇ。


突然立ち上がり、鬼の様な形相で怒鳴り散らす近衛総理。

史実はこんなに血の気多かったっけなぁ…………






むかしむかし、あるところに完全にカオスとなった会議室がありました。

そこでは怒鳴り声も暴言が飛び交い、まるで一昔前の戦場のような有り様でした。


しかし、誰もそれを止めようとはしませんでした。

やはり、争い続けるしかないのか

皆がそう思ったとき、ある言葉が聞こえました。

最初は聞き取れませんでしたが、もう一度聞くと分かりました。


それは







「甲府が………………陥落しました!!!」


戦いの始まりだったのです。



落ち着け俺の頭…………










その後、甲府陥落の連絡が来てからはヤバかった。ヤバかったとしか言えない。


総理が発狂(怒鳴り散らした)

陸海空軍は走る(新規の暗号利用)

その他はあたふた(アタフタ)


だから落ち着け…………







「ふぅ…………」

俺まで暴走してどうすんだよ。真っ先に落ち着かんといかんってのに…………

「………………この状況は」

俺が口を開いたから、急に静かになる。

「………………戦争状態である」

落ち着け…………焦るな…………

「陸海空軍は……………………これを鎮圧せよ。また、統合戦闘司令部の設置を許可する!!」


これで陸海空全軍が統合運用され、戦争が始まる。



また、その直後にこんな通信が届いた。

反乱軍の要求だ。


そこには、

幕府の再興

幕府への政権返還

朝廷は政治的行動を取らない


そして、要求を呑まなければ戦闘行動を取る


大雑把に言うと、こんな事が書いてあった。

当然呑む訳もなく、逆にこれを演説で使った軍部の士気が上がっただけだった。


その直後から帝国側に付く軍部隊の把握と、帝国側部隊への新暗号の通達。反攻作戦の計画などなど…………やることは多い。




0900時


帝国政府より正式に

「関東逆賊征討の詔」

を発し、軍の掌握に動き始めた。










「艦隊を派遣する」

海軍省大会議室で大臣が黒板を指差しながら言った。

「呉の全艦艇と

長崎から

矢風(駆逐艦)

利根

相模

(以上は軽巡)

飯野(重巡)


那覇から

阿武隈

最上

(以上は軽巡)

剣(重巡)

を呉に廻せ。それと、舞鶴には日本海側の警戒をさせるから(ふね)を出さんでいいと伝えろ」

「斉藤。帝国に付くとも分からんまま、暗号も漏れたまま伝えるのか?それはまずかろう。呉司令こそ山縣であったから確認が早かったが、もし他の基地が帝国側と偽り、反乱側であった場合、どうする?」

幹部の1人がこう言った。


「……………………確認と暗号変更後に命ずる。それまでは太平洋側を呉が担当する」

仕方ないといったような顔で、斉藤は言った。


他の幹部も頷き、大臣は部屋を出た。

その後を追うように書記官が、速記を清書すべく出ていく。


続いて通信兵が出、通信室へ移動する。

先程、「太平洋側を呉」により決まった、偵察用の艦を出すよう呉に要請するためだ。

しかし、まだ暗号は変更されていない。このままでは情報が筒抜けだ。



「んな、やるか」

通信内容の書かれた紙を渡された、大山大尉はゆっくりと腰を上げた。

今回の通信方法は裏技のようなものだ。偶然にここと呉に居るからこそ出来る。他にこの方法を使うのは…………どうなのだろうか。

















「京都の海軍省から無電(無線電話)通信を確認!!」

通信は当然、反乱軍側も傍受している。

「焦って平文か…………情報戦は我々の勝利だな」

「………………?」

「どうした?」

そう声をかけると、俯いていた通信兵が顔をあげてこう言った。

「解読できない」と。


おそらく、簡易暗号か何かだろうと踏んだ彼は、兵に「貸せ」と言い、通信機を引ったくるように取る。

「………………………………」


「*$′″♀>$∞≦÷】≦∞∴≦』】″>〉+◇▲」

「◎$%¢●≦>″♀」


「……………………はあ?」


彼がすっとんきょうな声をあげるとほぼ同時に、通信は終了した。

「………………どうでした?」

「………………きっと新しい暗号か何かだろ。本部にも伝えとけ」







「どうだ」

「薩摩弁聞き取れる奴ぁ関東ん居らん」


こうして新たな暗号が生まれたのだった。

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