樺太処理
5月26日 1930時
御前会議
「陸軍省は何をしていたッ!!!」
近衛文麿総理大臣の怒声から始まった今日の御前会議。
「敷香の軍が勝手に作戦行動を起こしたァ?それを止めるのが貴様らの役目だろうがッ!!!!!」
「そう言われても…………」
「そう言われてもクソもあるか!陸軍省がバカばかりや*っておるからこのような暴走紛いの事が起きるのだ!」
「何をッ!?何があったかも知らんのに偉そうな口を叩くな!引っ込んでろ!!」
「貴様ァ……………………ふざけるのも大概にしろ!!!」
真っ赤なゆでダコと化した近衛総理が暴走し始める。
「もうよい!陸軍に予算は回さん!!!」
「国土防衛に陸軍が不要だと思っているのか!?どれほどアホなんだ…………」
「誰がアホだとぉ?」
「そこまでだ。これはどちらも言い過ぎだ」
仕方ないので口を挟む。このままじゃ、ただの罵り合いだ。
「陸軍大臣。何故291連隊は独自に行動したのだ?」
「291連隊連隊長、牟田口大佐によりますと、帝国陸軍総司令部命令(正式 大日本帝国陸軍総司令部命令)、本人は略して「大陸命」と呼称しているようですが……。それが善通寺基地出発前に総司令補佐を名乗る人物より手渡されたとのことです。これが、牟田口大佐に手渡された文です」
コピー(ガリ版)された紙が配られる。
「…………………………なるほど。で、総司令は何処だ?」
「現在、休暇を取得し、相模箱根へ旅行に行っているとのことです」
休暇?樺太が安定しないこの現状で?
「今すぐ呼び戻せ。しっかりと総司令印まで押されている以上、詳細を聞き出さねばいかん」
これが総司令印無しなら、誰かの独断かもしれないと判断できるが、印はしっかりと押されている。勿論、総司令室の金庫に入っている印は総司令しか使えない。当然、他の人間は金庫の暗証番号も知らないはずだ。
「君。今すぐ館林徳松大将と連絡を取りたまえ。旅館の電話番号は休暇申請書に書かれているはずだ」
「はっ!」
長谷川大臣の後ろに立っていた兵士。いや、階級章は少尉だったから一応幹部か。まあ、そんなことはどうでもいいんだ。
兎に角、休暇中の館林大将に連絡が行けば、明明後日には帰ってこれるだろ。別に、朝っぱらから動かんでも、明日の夜でも十分間に合うだろうしな。
「まあ、この話はここで終わろう。次は?」
すると、近衛総理が手をあげた。
「私からもうひとつございます。…………今回の北樺太独断侵攻には、海軍も関わっております!」
「だから牟田口大佐と総司令部命令があったからだと説明しただろう!?命令も無しに、海軍は独断で動かんわッ!!海軍に問題があるならば、それは司令部の管理がなっとらん陸軍とそれの監視すらできぬ総理の責任ではないか!!」
「海軍艦隊の管轄は海軍省ではないか!それを我々に押し付けるか!?」
「批判するだけの無能総理は黙ってろ!!」
「だから落ち着けと…………」
何か運悪いな……今日。
「で、海軍北方艦隊も陸軍の侵攻に乗じ、北樺太オハに船を派遣しようとしていたと?」
「北方艦隊司令部より、そのような内容の電文が届いております。陸軍からの要請である。ともありました」
「ふむ………………よし。今日はその話は終わろう。渡久川大将が戻って来次第、話を聞き、考えようではないか。
それで、他には?」
「航空軍から1つ。宜しいですか?」
つい最近出来た「航空軍」から、畑俊六司令が手をあげた。
「何だね?」
「戦闘隊が新設されましたので、そのご報告に……」
「ああ。確か………………第五戦闘隊で合っているかね?」
「ええ。無事、大泊航空基地の完成と第五戦闘隊の配備が完了しました」
戦闘機と言えば…………
九〇式戦闘機
1930年製造開始
全長 9.1m
全幅 12m
全高 3.52m
自重 1752kg
光甲型発動機(離昇950hp)
最高速度 500km
7mm防弾板装備
武装 五式ニ糎機銃翼内2門(各100発) 三式一.ニ糎機銃機首2門(各150発)
航続距離 2500km(計算上)
最近出来た新型戦闘機。ぱっと見は某零である。しかし、製造量の問題から第1戦闘隊以外には配備されていない。(帝国の航空機製造は年間10機程度)
残りの4個戦闘隊は全て旧型の七六式戦闘機だ。(航空機の無いこの世界じゃ、七六もなかなかヤバい兵器だがなw)
他には、3個爆撃隊がある。
八八式爆撃機
1920年製造開始
全長 10.3m
全幅 14.55m
全高 3.67m
自重 2230kg
光丙型発動機(離昇860hp)
最高速度 415km
7mm防弾板装備
武装 三式一.ニ糎機銃機首1門
最大搭載爆弾量 450kg
航続距離 1700km(計算上)
一応単葉機。ここまで単葉で来たが、突然複葉機化説がH氏より出たため複葉機になりかけた爆撃機。しかし、複葉機の作り方が分からない謎事案で単葉機に戻された経緯を持ってたりする。
「今から敷香に飛行場を作ることはできんかね?」
ふと思い立ち、問いかける。誰かを指名した訳ではないが、当然のように長谷川が答える。
「防衛陣地の構築が精一杯で、無理」
こんな感じの予想通りの答えだった。
1航空隊は隊長機含む13機編成。これを運用するためには飛行場の他に兵舎に整備場、防衛設備…………は陸軍基地で対応すればいいか。まあ、どちらにしろなかなかの資源と人間、金が必要だ。
『そこは自分が口を挟む所じゃないな。全部が全部知ってる訳でもないし』
そんなこんなで夜が更けていく
「お客様!お客様!!」
「なんだい?こんな夜に……」
「緊急の電話だそうです」
「緊急?………………電話は何処だい?」
「下の受付でございます」
「案内してくれ」
「……………………………………ああ。分かった。明明後日の昼には帰ると伝えておいてくれ。………………うむ…………そうだ。………………では、頼むぞ」
「全く…………折角の休みじゃと言うのに…………」
電話を切り、少しだけ文句を垂れる。
「それだけ必要とされているんですよ。きっと」
必要…………か…………こんな年寄りを必要とする時代は、もう終わりにしたいものだな…………
「よお長谷川」
「なんだ?」
「どうやら会議で揉めたらしいじゃないか」
「お前には関係ねえよ。おとなしく仕事に戻れ。今日はスコーンが無いんだよ」
シッシッっと手を振る。
「別にスコーン目当てじゃないさ。」
そう言うと、小原はゆっくりと近づいてきた。
「大将のことについてだ」
「何か分かったのか?」
「いんや全然。電話しただけだな」
「じゃあ来るなよ…………」
「まあまあ。落ち着けよ…………ちょっと調べて分かったんだがな、大将は………………」
「ほうほう……………………なるほどな………………」
「………………って訳だ」
「………………ごめん。何の役にもたたん気がする」
「えええっ!?」
「いやだってよ。明後日帰るとかの情報が何の役にたつんだ?」
「明明後日な」
「………………………………」
「役立つだろ?明明後日だぜ?明明後日」
「いや知らねえよ」
「関東陸軍演習日だろうが…………大臣だろお前?」
やっべ。忘れてた。
「まあ、確かに演習日だが……だから何だ?」
「いや、演習日ってだけだが」
「…………………………ごめん。やっぱ役たたんわ」
「なんでっ!?」
「いや……最初の休暇予定には演習の後に帰ることになってたし…………なあ?」
何でこんな役にたたん情報ばっか集まるんだ?
今年は厄年じゃないはずなんだが…………




