特殊船建造計画
5月6日 月曜日
「は?」
「いえ、ですから陸軍で独自の艦船を保有したいのですが………………」
「何故陸軍が船を持たねばならんのだ!!」
「上陸作戦時に必要だと説明しただろ!!何度言わせれば気が済むんだ!!」
「それならば!我々海軍の管轄である!!陸が口を挟むなっ!!」
「なにをっ!!」
「若造の分際で……生意気な!!」
あー。なんか厄介事に巻き込まれた気がする………………
「……………………」
無言で手を上げた俺に、皆の視線が集まる。
「長谷川陸軍大臣。説明を。皆にも分かるようにな。」
長谷川 好道陸軍大臣が立ち上がる。
「はい。我々陸軍は、今後の上陸作戦時において、敵勢力圏内への強襲上陸を検討しております。その為には、陸軍部隊が速やかに行動することが必須であります。よって、陸軍は陸軍艦隊を編成し、上陸用舟艇及び護衛用小型艦の建造を…………」
「であるなら、それは海軍の「質問は最後にするようにしてくれ。」…………」
「そして、これが建造予定表になります。」
長谷川が言うと、2人の士官が現れ、特殊船の建造予定表を配り始めた。
「「「「……………………………………………………」」」」
試製海岸揚陸艇
全長 15.1m
全幅 3.5m
重量 9.8トン
乗員 完全武装兵72人(11トン)
武装無しの揚陸艇。無積載最大走力9ノット。最大積載最大走力8ノット。航続距離8ktで160浬。エンジンは「イ型エンジン」65馬力を1基。
「また、試製揚陸艇に四糎速射砲と機銃を搭載した、揚陸護衛艇の建造計画もあります。では、次のページをご覧ください。」
パサッ
静かな部屋にページのめくる音が響く。
特殊輸送船甲型
排水量 基準6900トン 満載8000トン
全長 145m
全幅 22m
喫水 4.1m
主缶 陸式石油タービン
主機 特甲型二基二軸 7000馬力
最大走力 20ノット
航続距離 15ktで7000浬
燃料 重油1400トン
武装 九○式十糎対舟艇榴弾単装砲10基10門
四糎単装速射砲5基5門
二糎機銃3基
搭載可能人数 完全武装兵2500人
海岸揚陸艇を搭載し、安全に離艦、また収容が可能な輸送艦。
搭載可能な揚陸艇は30隻。その他に、揚陸護衛艇3隻も搭載可能。また、これらの艇は後部ハッチから離艦・収容する。
「以上であります。」
「質問だ。」
斎藤 実海軍大臣が手を上げる。
「何故、陸軍が船を持つ?対馬では我が海軍の輸送艦が兵を運んだではないか!」
「ですから、強襲上陸に必要だと…………」
「ならば、海軍が輸送する。それで良いだろう。」
「今の海軍にそれをするだけの能力がありますか?無いでしょう?」
「…………確かに主力艦に偏っているが、それでも「だからこそ、陸軍が持つのです。陸は我々の牙城。海軍は口を挟まないでいただきたい。」………………良かろう。ただし、海軍は護衛しかやらんぞ。」
「はい。それで構いません。」
「で、1番艦は何時なんだ?」
「もう出来ています。」
「は?」
「揚陸艇と護衛艇。輸送艦の1番艦は既に完成しています。現在は問題点の洗いだし中です。」
「陸軍の予算でか?」
高橋大蔵大臣が問う。
「はい。予算は10年前から確保していたので…………」
「なんと…………何時の間に………………では、予算は必要ないと?」
「ええ。さすがに、これから建造する場合は必要かと思いますが、差し当たって必要ではありません。」
「うむ。了解した。」
「では、採決と行こうか。陸軍艦隊案に賛成の者は挙手を。」
全員が手を上げる。
「陸軍艦隊案は全会一致で可決された。本日は以上だ。解散。」
そう言って、席を立つ。チラッと腕時計を見ると、針は午後8時を指している。解散するにはいい頃合いだ。
「あ~…………疲れた…………」
和室の畳に倒れこむ。癒されるわ~~
「おとーさん。」
「ん?良子か。どうした?」
「べんきょー、教えて。」
「いいぞ~。どれだ?」
「これ~」
「算数か……」
「帝都教書出版 小学生の算数」
『まぁ、さすがに小学生のなら分かるか。』
数学嫌いの俺でも…………できるよな?なんか逆に心配になってきたんだが…………
「ここ。」
「小数の掛け算か……で、これのどこだ?」
「これ。宿題なの。」
問5 ①1.5×3.7=5.55
② 2.4×6.2=14.88
③ 9.6×9.9=
「これが分からないの。」
③の9.6×9.9が分からないらしい。
「んーっと、これはな………………」
たまには、こうやってのんびりするのも悪くないな…………
5月7日 火曜日 午後4時
「次は陸軍だな。」
「はっ。現在、陸軍は新たに樺太大泊に歩兵71、72師団と砲兵31、32師団を配備。豊原には71師団より引き抜いた1個連隊を、前線の大鵜取には73師団より訓練の終了した1個連隊2900人を引き抜き、警備させております。」
「では、大鵜取に陣地を構築している。ということか?」
「はい。鉄道も大鵜取から先に進むには時間がかかるとのことでしたので。」
「分かった。海軍は?」
「海軍は、近海型護衛艦の開発を開始しました。こちらが詳細です。」
仮称 近海護衛艦「佐渡型改」
排水量 900トン
全長 105m
全幅 12m
喫水 3.6m
主缶 一三式重油燃焼缶
主機 七七式タービン 二基二軸 6000馬力
最大走力 23ノット
航続距離 18ktで5000浬
燃料 重油295トン
武装 50口径十二.七糎連装砲前部2門後部1門
40口径八糎単装砲後部1門
二糎連装機銃3基
乗員 150名
佐渡型をより大型化。武装を強化した近海型護衛艦。
「ふむ………………まぁ、良いと思うが……」
「また、この艦は建造期間が淡路型に対し、約3ヶ月短縮できる等、戦時護衛艦としての活用も可能です。」
「この艦の建造開始は?」
「再来月からの建造を予定しております。」
「そうか……他には?」
「鉄道省から1つ。宜しいでしょうか?」
「構わん。」
「大館連絡船に、砕氷が可能な艦を建造し、配備しようと思っているのですが……」
「そのために!我が海軍の樺太型があるではないか!!」
「ならば、わざわざ海軍に許可を取れと?」
「当たり前だ!でなければ、一体誰が護衛すると思っておる!」
「…………………………」
「太田原鉄道大臣。砕氷船1隻の建造を許可する。」
「陛下!では護衛は!?」
「護衛は不要ではないか?そもそも、艦艇護衛が必要になるなど……領海内に入られている時点でダメだろう。」
「…………それでもいざという時が!「緊急であります!」」
兵が1人、飛び込んできた。階級は上等兵。科は通信科。
「御前会議の場であるぞ!!」
「構わん。報告を。」
「はっ!
「発 樺太大鵜取守備隊
宛 近衛特別通信所及び陸軍省
本日1530ヨリ、ロシア軍南進。大鵜取ノ防衛成功、損害軽微ナレド増援求ム。」
以上!」
「…………ご苦労だった。仕事に戻れ。」
「はっ。」
ガチャ………………ガチャン……
「会議を終了する。急げ!!」
「「「はっ!」」」




