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2.もしかして、これが俺のスキル?


 ブラウニーたちによるお屋敷ツアーの道中、彼らについて色々と教えてもらった。

 まず名前。それぞれ呼びたくて改めて聞いてみたら、どうやら彼ら個人に名前はないんだそうだ。名前がないと不便じゃないかと思うんだが、本人達曰く問題ないらしい。

 今案内してくれているのは3人のブラウニーだが、仲間があと4人いて、7人でこのお屋敷に住み着いているそうだ。急に訪れた不審者(俺)を警戒して今は隠れているらしく、挨拶はまた今度。ちょっと申し訳ない。

 屋敷についても教えてくれた。ブラウニー達が初めてここを訪れた当時は老夫婦が住んでいて、なんでも偉い人の家に仕えていた褒美でこの屋敷をもらったらしい。その老夫婦は妖精達に好意的で相性も良く、ブラウニー達は彼らと契約してこの家に住み着き、守っていたのだとか。

 老夫婦が亡くなって契約は消え、次第にブラウニー達を気にかける者もいなくなって、ついには空き家になってしまったけど、居心地が良い家を離れる気になれなかったという話を聞いて、素敵な思い出がばかりなんだろうなとほっこりすると同時に、故人との関係を思うと少し切ない。

「さあ、ここからなら外を見渡せるよ」

 2階の部屋をいくつか紹介されたあと、ちょうど中央あたりにあるバルコニーへと案内された。

 ちょっとしたマンションのベランダより少し広いそこは見晴らしがよく、さっき通って来た道がよく見えた。流石に柵までは見えないが、果樹と思わしき木の先が地平線の奥に見える。

「前のご主人様はアタシたちと同じように家のことが好きでね、いつもここで作物を作っては村に売りに行ったりしてたわ」

「畑がいくつかと、小さな果樹園があるよ。あとガーデンも。今は花が抜かれてしまっているけどね。畑も何もないけど、最近たまにくる人間がいじってるみたいだから、もしかしたら何か植ってるかもしれないね」

「ほら、あそこ! あの茶色い小屋が鶏舎だよ。もうずっと空だったけど、最近鶏が四羽入ったんだ。たまに遊ぶけど、みんな気の良いやつらだよ。ここからだと見えないけど、少し行ったところに牛舎もあるんだ」

「そうなんだ。やっぱ広いお屋敷なんだな」

 人が住んでないのに家畜はいるのか。もしかして、近く誰か住むのかな。それなら、人と会える日も思ったより早いかも。

 日がだいぶ高く上がっていて、肌寒かった風は温かみを帯びている。気持ち良い風と景色にずっとここにいたくなるけど、まだまだ屋敷の見所が待っているらしい。

「さ、次に行くよ」

「急がないと日が暮れちゃう!」

「そうだな、よろしくお願いします」

「まっかせてー!」

 お屋敷の内装はちょっと古めのカントリーな味わいで、ザ・アンティーク! といった感じ。丁寧に扱われてきたのだろう調度品の数々が、見事な年の重ね方を教えてくれている。ちょっとした高揚感があるのは、動画で見ていた立派なお家に実際に訪れたような気分だからかも。

 外国の大きなお家のスローライフ動画とかでこういった家の中で手仕事したりティータイムを楽しんだりしてるのを見るたびに、いいなぁって思ってたんだよな。

 こういった場所を歩ける機会はもうないかもだし、持ち主の方には申し訳ないけどお屋敷ツアーを満喫させていただこう!



 書斎や応接室みたいな部屋やサンルーム、庭に出て東屋、牛舎なんかも見せてもらい、一通りお屋敷を見て回った。一緒に歩いていた小人達は途中から両肩と腕の中に移ったけど、妖精だからかほぼ重さを感じなかったので負担なく見て回れた。とはいえ流石の広さなので、少し疲れたけれど。

 小人たちに出会う前に見た部屋も、案内があるとまた少し違って見えて楽しかった。特に一階にあった小さな図書室みたいな部屋が、古いながらも手入れが行き届いててすごかったな。あとはなんと言っても、2階のバルコニー!

 あんなところでお茶が飲めたら気持ち良いだろうなあ。こんな豪華な家に住むなんて夢のまた夢だけど、想像するくらいは良いだろう。なんて、夢見ていたら。

 ぐぎゅるるるるぅ。

 恥ずかしすぎる。誤魔化せないレベルで腹の虫が鳴ってしまった。

 そういえばお屋敷ツアーの興奮で忘れてたけど、昨日の夜に半額弁当食べてから何も食べてないんだった。

「アキト、お腹すいたの?」

「そうなんだよね。でもここのものって家主さんのものだろ? 勝手に家に食べるのは少し気が引けて……」

 食料庫には食材があったから、調理自体は可能だ。でも、勝手に家に入って動き回っておいて今更ではあるけど、在庫消費はまた別の罪悪感がある。金もない今、補填もできないし。

「それなら、果樹園に行くのはどう? ちょうどペレの実が熟れて食べ頃なんだけど人間は収穫に来ないから君が食べちゃえばいいよ」

「そうね。気が引けるっていうなら人間の代わりにあなたが収穫してあげなさいな。それならお手伝いになるもの、対価として食事分の実をもらいましょ」

 たしかにそれなら、管理人さんや次に住む人にそこまで迷惑はかけないかも。ナイスアイディアすぎて感謝しかない。

「ありがとう! さっそく果樹園に行こう」

 籠がある場所をブラウニー達が教えてくれたので、さっそく装備を整えて果樹園へと向かった。草原から歩いてきた時に果樹園らしき場所を見たので来た道を辿ろうかと思ってたら、ブラウニーたちが教えてくれたのは別の道だった。もしかしたら果樹園も横に広いのかもしれない。

 3人のブラウニーのうち、赤い瞳の子は他の仲間に説明すると言って屋敷に残り、藍色の瞳の子は家畜たちの世話があると牛舎の方へ向かったのでオレンジ色の瞳の子が着いてきてくれた。担いだ籠の中で楽しそうに鼻唄を歌っている彼はすごく機嫌が良さそうで、なんだか俺もご機嫌になる。

 知らない土地だし、他人の家を一人で歩く事にいたたまれなさもあったから、こうして一緒にいてくれるのがすごくありがたい。

「見えてきたよ。あれがペレの木だ」

 わさわさとした緑の中に、黄色っぽい実をたくさん付けた木が数本並んでいる。実はどれも大振りで、色と形は黄桃に似ていた。そこまで背の高い木ではないけど、上の方は脚立でもないと取れないだろうから、今回は下の方の実だけとる形だ。

「それにしても、すごい量だな」

 たわわ、という表現が合うのかは分からないけど、拳大の実がそこかしこに生っていて、場所によっては緑より実の黄色さの方が目立つくらいだ。辺りには甘い匂いが充満している。匂いも桃に似てるから、俺の中ではペレの実﹦桃だ。

「果樹園の木は前のご主人様が育ててた木なんだけどね、いなくなってからは僕たちがお世話してるんだ。もうずっと実は落としてしまうばっかりでかわいそうだったから、食べてもらえて嬉しいよ」

 少し眉を下げた姿に、彼がいかにこの木々を大事にしてるかが伝わってくる。ブラウニー達は分担してこの屋敷を世話してると話してたから、果樹園は彼の担当なのかもしれない。

「柔らかい実だから気をつけて。包むように下から持って、捻るように取ってみて」

「分かった」

 果物狩り、興味あったけど中々行ける機会なくて初体験だ。ちょっと嬉しい。

 食べ頃の実を教えてくれたのでさっそく手を伸ばしてみると、確かにぷにぷにと柔らかく、ちょっと力をいれたら潰してしまいそうだ。

「よ、っと……!」

 教えてもらった通りに手を捻りながらもいでみたら、難なく収穫できた。手に関するずっしりとした重みはなんだか達成感がある。初めての桃狩りならぬペレの実狩り、楽しいかも……!

 桃そっくりの匂いだと思ったけど、近くでかぐと桃よりちょっと甘めで、花の匂いを混ぜたような華やかな香りかも。同じに見えても、やっぱりちょっと違うんだろうか。

 ふっくらとして見るからに美味そうで、かぶりつきたい衝動に駆られる。

「甘くていい匂いだな」

「実も甘くて美味しいよ! せっかくだしひとつ食べてみたら?」

「やった! 取ってその場で食べる果物狩り、ちょっと憧れてたんだ」

 いつかテレビで見たように、ペレの実を潰さないように気を付けながらインナーの裾で拭ってみる。これから仕事を頑張るためにも、まずは英気を養わなくては。腹が減ってはなんとやらってね。

「ではさっそく、いただきます」

 せっかくなので、ワイルドに皮ごと。ぶつりと歯が皮を破るとじゅわりと溢れる果汁とともに、とろりとした実が口いっぱいに弾け出てきた。

「ん~! とろとろで美味い!」

 桃みたいな見た目と匂いだから食感も桃をイメージしてたけど、熟れた柿みたいにとろとろだ。味は桃というよりは杏に近いかも。甘酸っぱい濃厚な果肉と果汁が口いっぱいに広がって、濃い杏ジュースを飲んでるみたいな感覚だ。そのままだとそのうちくどく感じるかもしれないけど、今は喉がカラカラだったからちょうどいい。皮も薄くてつるつるなので、そこまで喉に引っ掛からずに飲み込めた。

 ようやく得られた幸せに舌鼓をうったその時、突然視界いっぱいに異物が現れた。

「うわっ、なんだ!?」

 自然豊かな木々を背景に、パソコンやスマホの画面がそのまま浮き出たような電子的な表示が広がっている。体験したことはないけど、話に聞くVRがこんな感じなのだろうか。

「どうしたの?」

「なんか目の前によく分からない表示が出てきて。君はこれ見える?」

 表示を指差してみても、ブラウニーは困ったように首を振るだけで。

「何もないように見えるけど……」

「ってことは俺にしか見えてないのか、これ」

 見慣れた電子表示には、履歴書の一部のような形式が視界にいっぱいに表示されている。目を擦ってみても手を伸ばしてみても、表示が変わることはない。

「なんか書かれてるんだけど。品名⇒ペレの実、生産⇒ネルサ村、ドナルド・マール……? なんだこれ」

「ドナルド? 前のご主人様の名前だ」

 じゃあこれってもしかして、今食べた実の情報ってこと?

 よくよく見てみると、ペレの実について色々な情報が載っていて、さながら図鑑みたいだ。画面端に書かれているB+というのはこの実のランクみたいなものだろうか。他にも、糖度や鮮度なんかも書かれていて、これは星で評価されている。なんだかウェブのレビューみたいだな。

 ふむふむと順番に読み進めていきながら、俺の心は柄にもなくはしゃいでいた。

 これは異世界転移お馴染みのスキルというやつではないか? 雰囲気的にお馴染みの鑑定系かと思うんだが!

 なんだ、俺にもスキルあるじゃん。何の補助もなく知らない世界に放り出されたのかと思ったよ。これからこのスキルでブイブイ言わせちゃう系主人公になったりするのか俺! なんちゃってね! 

「えー何々、実は濃厚で滋養があるが、種と皮はヒト族には毒性が強く、短時間で手足が痺れ、腹痛と嘔吐が……毒!?」

 俺さっき食べちゃったんですけど!?

「どうしたの?」

「ペレの実の皮は人には毒なんだって!」

「なんだって!?」

 急いで指を突っ込んでみるけど、吐こうと思って吐けるものでもなく、咳き込んでみるもののカスみたいなのが出るだけで、皮が出るより先に喉が痛くなる。

 なんてぬか喜び。なんて喜び損。こんなところで俺は死ぬのか。

「しっかりして、アキト!」

「ゲホッ! おぇ、ごめんな。せっかく友達になれたのに」

 久しぶりに人と話せて嬉しいと言ってくれたブラウニーともここでお別れなのか……。出会ってばかりなのに吐瀉物と死体の始末をさせてしまうなんて、本当に申し訳ない。なんでこんな若さでこんな目にあって死ななきゃいけないんだ。死にたくない、死にたくないよ…!

「……あれ?」

「アキト!? 大丈夫!?」

「全然症状出てないな。短時間でって書いてあったのに」

 もしかしてこれもスキル? いや、具体的な時間は書いてなかったしこれからの可能性もあるか。

「家に戻ろう! もしかしたら、兄弟が何か分かるかも。歩けるかい?」

「うん、大丈夫そう」

 体はピンピンしてる。美味しい果物食べた後だからか、なんなら朝より元気だ。

「でも毒飲んじゃってるんだよなぁ」

 ああ、神様。どうか死なずにいられますように。何事もありませんように!



♢ ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



 薄暗い地下通路を歩く男が二人。一人は足取りの軽い整った身なりの青年、もう一人は冒険者風の装いをした、どこか所作の美しい青年だ。

 湿った階段を上がり外の光が広がる手前で、身なりの整った男が立ち止まる。

「では、セ(・)ル(・)様(・)。つかの間の休息をお楽しみください」

 セルと呼ばれた青年はひとつ頷くと、振り返ることなく森の奥へと消えていった。

 湖の畔、誰かを待っているかのように佇む白馬が、近付いてくる青年を湖と同じ碧の瞳で見つめている。額を撫でる手のひらを恭しく受け入れると、ふるると鼻を鳴らして己の背へと導いた。

「行こうか」

朝日を受けてきらめく青年の手には手綱が握られ、まだ静かな森の中に蹄の音が鳴り響く。やがて青々とした草原へ出た1頭と1人は、山を背に冷たい朝の空気を切って駆け出した。




続


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